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医療AI検証グループ

当研究室では、ゲノム・エピゲノムのオミックスデータをAI技術を用いて解析し、がんの新規バイオマーカー・新規治療標的を発見することを研究目標としている。オミックスデータの内、ゲノム情報がDNA配列情報として比較的明確に定義することが可能である一方で、エピゲノム情報はDNAメチル化・ヒストン修飾・転写因子・ゲノム立体構造等の複数因子によって構成される多次元情報であるため、一元的な指標で定義することが不可能である。このようなエピゲノムの多変量的性質は、ビッグデータ解析を指向するAI技術と高い親和性を示すことが期待される。しかし、その前提として、エピゲノムデータががん細胞の生体環境を精確に反映していることが重要であり、これが担保されない限り、個々のデータに含まれるノイズが累積的な誤差を生み、AI解析の結果を著しく不安定にしてしまう。

医療AI検証グループでは、この問題を解決するため、1純度の高い細胞サンプルを用いた精確なエピゲノムデータの取得、2複数の公共データセットを用いた多角的な情報科学的検証、3厳格な基準で収集された臨床検体を用いた分子生物学的検証、という三段階の基準を設定し、真に意義のある研究成果を創出することを目指してきた。

具体的には、島根大学産科婦人科との共同研究のもと、高異型度卵巣漿液性がんの正常由来細胞である卵管分泌上皮細胞の単離培養サンプルを始め、これに複数のがん遺伝子を導入した不死化細胞・がん化細胞の多段階の発がんモデル細胞サンプルを用いたエピゲノムデータを取得している。これを複数の公共データベースから収集したがん細胞株・がん組織のエピゲノムデータと比較することによって、正常細胞からがん細胞が発生する過程で段階的にエピゲノムプロファイルが変化するゲノム領域を同定することに成功している(図1)。
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また、情報科学的に得られた知見を分子生物学的に検証するために、国立がん研究センター中央病院病理診断科との共同研究のもと、正常卵管・前がん病変・がん組織の一連のペア組織が揃った標本ライブラリを構築し、臨床検体における遺伝子発現情報を細胞レベルで検証する体制を整えている。

上記の研究基盤を構築したことによる研究成果の一例として、高異型度卵巣漿液性がんでLKB1-MARK3経路の分子が発現抑制されており、MARK3の発現抑制が臨床予後不良と相関することを見出した(図2)。
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分子生物学的な機能解析にも取り組んでおり、LKB1-MARK3経路がタンパク質合成阻害ストレスに応答する細胞周期チェックポイントを担っていることを明らかにした(図3)。
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今後は、がんオルガノイド技術を導入して、がん細胞の生体環境を最大限に反映した高品質なエピゲノムデータを大規模に取得し、AI技術を用いたがんエピゲノム解析研究を発展させてゆきたいと考えている。