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国立がん研究センター

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BRAF融合遺伝子陽性の低悪性度神経膠腫または膵がん患者を対象としたMEK阻害薬(ビニメチニブ)の全国6施設共同第2相医師主導治験開始

2023年10月10日
国立研究開発法人国立がん研究センター

発表のポイント

  • 超希少フラクションであるBRAF融合遺伝子陽性の低悪性度神経膠腫または膵がんについて、北海道、東北、関東、関西、九州の全国6施設で多施設共同の医師主導治験を実施します。
  • 本試験は希少がんの研究開発・ゲノム医療を産学共同で推進する「MASTER KEYプロジェクト」の枠組みを用いて行われ、超希少フラクションでも治療開発モデルの構築を目指します。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:島田和明)は、進行・再発のBRAF融合遺伝子(注1)陽性の低悪性度神経膠腫(しんけいこうしゅ)(グリオーマ)(注2)または膵がん患者さんを対象に、MEK阻害薬であるONO-7703(ビニメチニブ)(注3)単独療法の多施設共同第II相医師主導治験(NCCH2101/MK011、試験略称:Perfume)(注4)を開始しました。当院のほか北海道大学病院(所在地:北海道札幌市)、東北大学病院(所在地:宮城県仙台市)、国立がん研究センター東病院(所在地:千葉県柏市)、京都大学医学部附属病院(所在地:京都府京都市)、九州大学病院(所在地:福岡県福岡市)の全国6施設で実施します。

BRAF融合遺伝子陽性例は、これまでに臨床開発が進んでいるBRAF V600遺伝子変異陽性例と比較しても、希少なサブタイプです。希少なサブタイプであることから製薬企業による治療開発が進み難い現状です。本試験では、BRAF融合遺伝子陽性の低悪性度神経膠腫または膵がんにおけるONO-7703(ビニメチニブ)の日本人での有効性を検証し、良好な結果が得られた場合に製薬企業は国内での薬事承認を目指します。

希少がんの治療開発について

希少がんの新規治療開発は、患者さんの数が極めて少ないことや、対象となる疾患の患者さんの情報を集約する仕組みが十分に構築されていないことから、患者登録に長い年月を要し、ランダム化比較試験を実施することが困難であり、企業による開発が積極的に行われていません。

国立がん研究センター中央病院では、希少がんでの治療開発を推進するため、2014年には「希少がんセンター」を開設し、2017年からは企業とも共同で希少がんの研究開発・ゲノム医療を推進する「MASTER KEY(マスター キー)プロジェクト」を立ち上げています。MASTER KEYプロジェクトはレジストリ研究と副試験の2つのパートに分かれ、これまでに3,300例以上の患者さんが登録しています。副試験パートでは現在27件(16件の医師主導治験、11件の企業治験)の臨床試験が実施されています(2023年6月)。今回の医師主導治験もMASTER KEYプロジェクトの枠組みで実施するものです。

本試験を、希少がんの中でも極めて少ない希少なサブタイプで成功させることにより、希少なサブタイプの臨床試験計画や新薬開発手法の新たなモデル構築となり、わが国の希少がん領域における臨床開発の活性化に貢献できるものと考えます。

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MASTER KEY(マスター キー) プロジェクト ウェブサイト
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/masterkeyproject/index.html

低悪性度神経膠腫について

低悪性度神経膠腫は、WHO Grade 1または2に分類される脳腫瘍の総称です。BRAF融合遺伝子の陽性割合が比較的高く、本試験で主な対象となる毛(もう)様(よう)細胞性(さいぼうせい)星細胞腫(せいさいぼうしゅ)(Pilocytic astrocytoma)は、小児から若年成人に発生し、発生部位は小脳(35%)、視神経・視床下部・第三脳室(25%)、脳幹・第四脳室(10%)、大脳半球(19%)で、20年生存割合は90%と予後良好な疾患です。しかし、視神経・視床下部・第三脳室・脳幹・第四脳室などに発生した場合には外科的な全摘出が困難であり、視神経・視床下部発生例における手術後の5年無増悪生存割合は52.4%とされ、手術のみでは5年後に約半数が再発します。

再発例あるいは術後腫瘍残存例に対しては、放射線治療や化学療法が検討されます。化学療法として用いられるカルボプラチンとビンクリスチン硫酸塩との併用投与療法またはビンブラスチン硫酸塩療法は日本では承認されておらず、実臨床では適応外使用申請のもと治療されている現状があります。また、視神経・視床下部・第三脳室・脳幹・第四脳室病変への放射線治療は長期経過後の視野・視力障害、下垂体機能を含むホルモン障害、二次がんなどのリスクを伴うといった問題点があります。

膵がんについて

膵がんの多くは浸潤性膵管がんで、早期診断は未だに困難であり、切除不能な進行例で発見されることも多くあります。外科的切除が可能であっても、術後再発割合が高く、治療成績は不良です。治療としては切除可能例には手術が、再発例および切除不能例には化学療法が選択されますが化学療法に反応する確率が低い疾患です。

膵がんの1-2%程度とされる膵腺房細胞がんは、BRAF融合遺伝子の陽性割合が比較的高いとされています。予後は、膵神経内分泌腫瘍よりは悪いものの、浸潤性膵管がんと比較すると良好です。膵腺房細胞がんに対する標準治療は確立されておらず、通常の浸潤性膵管がんに準じて治療法が選択されることが多く、様々な化学療法が試みられています。

本試験について

毛様細胞性星細胞腫を含む低悪性度神経膠腫に対する治療選択肢は限られており、特に解剖学的に外科手術困難な部位に発生する腫瘍に対する新規治療薬開発に関する医療上のニーズは高く、膵腺房細胞がんを含む膵がんにおいても抗がん剤治療後の増悪の治療選択肢は限られており、医療上のニーズが高い状況です。

2022年の海外医師主導治験の学会報告において、ONO-7703(ビニメチニブ)がBRAF融合遺伝子陽性の進行・再発の低悪性度神経膠腫に対し、有効性が得られる可能性が示唆されました。この試験結果を参考に、BRAF融合遺伝子の陽性割合が比較的高い毛様細胞性星細胞腫と膵腺房細胞がんを研究対象とするため、BRAF融合遺伝子陽性の低悪性度神経膠腫または膵がんの2がん種の患者さんを対象に、ビニメチニブの有効性を検証する臨床試験を計画、実施することに至りました。

ビニメチニブは、MEK阻害薬という分子標的薬の一つです。BRAF融合遺伝子陽性の細胞株に対してMEK阻害薬が抗腫瘍効果を示すことが基礎データとして報告されています。BRAF融合遺伝子陽性の固形腫瘍においては、C末端側のBRAFキナーゼドメインが保持されている一方で、N末端側の自己阻害ドメインが失われることでBRAFキナーゼドメインが恒常的に活性化されます。活性化されたBRAFキナーゼドメインが二量体を形成することでMAPK経路の活性化を起こし、腫瘍の増殖を引き起こすことがわかっています。このような二量体を形成するタイプでは、BRAF阻害薬を用いた治療は不適切とされており、MEK阻害薬を用いることで、BRAF融合遺伝子陽性の低悪性度神経膠腫または膵がんの進行を抑制することが期待されています。

今回の医師主導治験は、国立がん研究センター 中央病院 希少がんセンター、学会による疾患登録、および臨床試験グループのネットワークを有効に活用し、全国の患者さんが参加できるよう計画しています。

また、一般的な治験の多くは、対象年齢が18歳、もしくは20歳以上ですが、毛様細胞性星細胞腫は小児例が多いという特性を踏まえ、本試験の低悪性度神経膠腫コホートの対象年齢を12歳以上として計画しました。本試験は小野薬品工業株式会社から治験薬等の提供を受けて実施します。

試験名

BRAF融合遺伝子陽性の進行・再発の低悪性度神経膠腫または膵癌に対するビニメチニブの第II相医師主導治験NCCH2101/MK011(試験名称:Perfume試験)

使用される新薬(治験薬)

ONO-7703 ビニメチニブ(経口薬:MEK阻害薬)

治験に参加いただける患者さんの身体状況(患者選択基準)

1.      文書による同意が得られる
2.      がん遺伝子パネル検査でBRAF融合遺伝子または遺伝子再構成が検出されている
3.      低悪性度神経膠腫:12歳以上かつ体重40 kg以上である 膵癌:18歳以上である
4.      組織学的に低悪性度神経膠腫または膵癌であり、切除不能または再発と診断されている
5.      膵癌:抗がん剤治療後に悪化している
6.      各臓器機能が規定内に保たれている

注:上記の患者選択基準は概要であり、上記に該当していてもこの治験に参加できないことがありますので、ご了承ください。

研究代表者

森實 千種 (中央病院 肝胆膵内科 医長)

臨床研究実施計画・研究概要公開システム

jRCT番号:jRCT2031230007

本治験の詳細は、以下よりご確認ください。
臨床研究実施計画・研究概要公開システム
URL: https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031230007(外部サイトにリンクします)

医師主導治験(Perfume試験)参加施設一覧

北海道大学病院
東北大学病院
国立がん研究センター中央病院
国立がん研究センター東病院
京都大学医学部附属病院
九州大学病院

用語解説

(注1)融合遺伝子

がん細胞における染色体の転座、挿入、逆位などの組換えの結果、複数の遺伝子が連結されて生じる新たな遺伝子のことを融合遺伝子といいます。

(注2)神経膠腫

神経細胞の支持組織であるグリア細胞から発生すると考えられている原発性脳腫瘍のことを神経膠腫といいます。グリオーマとも呼びます。

(注3)ビニメチニブ

ビニメチニブは、小野薬品工業株式会社が製造販売を行う、ヒトMEK1及びMEK2の活性化及びキナーゼ活性を阻害薬で、BRAF遺伝子変異を有する悪性黒色腫、結腸・直腸癌で保険が適用されている抗がん剤です。

(注4)医師主導治験

新しい薬が承認され、保険で使えるようになるためには新薬の臨床開発(治験)が必要です。欧米で標準的な医薬品等でありながら、国内では不採算等のため導入されていない医薬品等について、製薬企業主導でなく、製薬企業の協力を得て、医師自らが治験を行うことを医師主導治験といいます。

お問い合わせ先

医師主導治験に関するお問い合わせ

国立研究開発法人 国立がん研究センター
中央病院 臨床研究支援部門 研究企画推進部 臨床研究支援室
電話番号:03-3547-5201(内線3037) Eメール:ncch2101_office●ml.res.ncc.go.jp

広報窓口

国立研究開発法人国立がん研究センター 
企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表) Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

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