コンテンツにジャンプ
国立がん研究センター

トップページ > 広報活動 > プレスリリース > 日本主導の国際共同医師主導治験の結果に基づき、パルボシクリブとタモキシフェン併用の新たな治療選択肢を乳がん患者さんに提供

日本主導の国際共同医師主導治験の結果に基づき、パルボシクリブとタモキシフェン併用の新たな治療選択肢を乳がん患者さんに提供~添付文書改訂によりホルモン受容体陽性/HER2陰性進行乳がん患者さんに貢献~

2024年1月15日
国立研究開発法人国立がん研究センター
In English

発表のポイント

  • 国立がん研究センター中央病院主導のもと、アジア地域で実施した国際共同医師主導治験の結果により、新たな治療選択肢をホルモン受容体陽性/HER2陰性進行乳がん患者さんに提供できるようになりました。これにより、閉経後乳がん患者さんの治療はもとより、治療選択肢が少ない閉経前乳がん患者さんに対する治療選択が拡大しました。
  • 日本のアカデミアが、国を超えたアジア地域での国際共同治験を主導することで、アンメット・メディカルニーズを満たした成功例です。
  • 国立がん研究センター中央病院は、この試験で培った国際共同医師主導治験のノウハウを活用し、国内外の医療現場により多くの新しい治療薬・治療法を提供できるよう取り組んでまいります。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:島田和明)が実施した国際共同医師主導治験(PATHWAY試験;NCCH1607)の結果から、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の進行・転移性乳がんに対するパルボシクリブ+タモキシフェン併用療法の有効性と安全性が確認され、パルボシクリブの添付文書が改訂されました。これにより、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の進行乳がん患者さんに対する治療選択肢が拡大しました。

PATHWAY試験で使用した薬剤パルボシクリブ(製品名:イブランス)は、CDK4/ 6を阻害する経口分子標的薬です。CDK4/ 6は、細胞周期の調節に主要な役割を果たしており、細胞増殖を引き起こします。パルボシクリブはCDK4および6を選択的に阻害して、細胞周期の進行を停止させることにより、腫瘍の増殖を抑制すると考えられています。パルボシクリブは、米国をはじめ世界100カ国以上で承認されている薬剤で、日本においても2017年9月に承認されました。ただし、パルボシクリブは閉経後に使用される内分泌療法薬レトロゾールまたはフルベストラントとの併用投与の成績に基づいて承認されており、タモキシフェンとの併用の有効性や安全性はこれまで確立されていない状況であったことから、PATHWAY試験が企画立案されました。なお、欧米に比べて、アジア地域では全乳がんのうち閉経前乳がん患者の占める患者数の割合が多く、患者の治療選択肢が少ない状況でした。

国立がん研究センター中央病院はこのようなアンメット・メディカルニーズを満たすため、ファイザー株式会社およびPfizer Inc. との協業により、国際共同医師主導治験を実施し、その有効性と安全性を確認しました。

この医師主導治験の結果に基づき、日本においてパルボシクリブを開発・販売するファイザー株式会社から、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に医薬品添付文書改訂相談が行われ、パルボシクリブの添付文書が改訂されました。これにより、パルボシクリブと内分泌療法の併用療法において、タモキシフェンとの併用が新たな治療選択肢となりました。

日本のアカデミアが、国を超えたアジア地域での国際共同治験を主導することで、アンメット・メディカルニーズを満たした成功例です。また、今回の添付文書改訂は、アジアにおける国際共同医師主導治験で国立がん研究センター中央病院のイニシアチブが示されたものです。国立がん研究センター中央病院は、この試験で培った国際共同医師主導治験のノウハウを活用し、国内外の医療現場により多くの新しい治療薬・治療法を提供できるよう取り組んでまいります。

背景

乳がんの治療について

乳がんは、日本では女性のがんとして最も罹患者数が多いがんです。乳がんの治療法には、主に手術、放射線治療、薬物療法があり、今回実施したPATHWAY試験の対象となるホルモン受容体陽性/HER2陰性の進行・転移性乳がんの女性では薬物療法の一つとして、内分泌療法が選択されます。内分泌療法薬は、ホルモンの分泌や働きを阻害し、ホルモンを利用して増殖するがん細胞の増殖を阻害します。閉経前と閉経後では、体内でホルモンがつくられる経路が異なり、患者さんの状態にあった薬を使用しますが、特に閉経前女性患者さんへの治療選択肢は数が限られていました。

PATHWAY試験;NCCH1607について

本試験は、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の閉経前・閉経後進行または転移性乳がん女性患者を対象とした、CDK4/ 6阻害剤であるパルボシクリブを用いた医師主導治験です。国立がん研究センター中央病院主導のもと、アジア地域で実施し、日本12施設、韓国6施設、台湾3施設、シンガポール2施設が参加し、184人の患者さんが参加されました。本試験は、Pfizer Inc.との共同研究であり、同社から研究費と治験薬パルボシクリブの提供を受けています。製薬企業との共同研究の形式をとり、日本では医師主導治験として、海外では当院が治験依頼者としての役割を担う形で実施した国際共同医師主導治験となります。

2023年2月20日に、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の進行乳がん患者に対するパルボシクリブのタモキシフェンとの併用の有効性を確認し、速報結果をご報告しました。
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/information/2023/0220/index.html

試験の詳細は以下からご覧いただけます。
https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000034267
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT03423199

結果

PATHWAY試験の結果に基づき、パルボシクリブを開発・販売するファイザー株式会社から、PMDAに医薬品添付文書改訂相談が行われ、パルボシクリブの添付文書が改訂されました。これにより、ホルモン受容体陽性/HER2陰性の乳がん患者さんに対してパルボシクリブと内分泌療法の併用療法において、タモキシフェンとの併用が新たな治療選択肢となりました。

今後の展望

今回の添付文書改訂は、国立がん研究センター中央病院(アカデミア)が国際共同医師主導治験を主導し、国を超えたアジア地域での国際共同治験を主導することで、アンメット・メディカルニーズを満たした成功例です。また、今回の添付文書改訂は、アジアにおける国際共同医師主導治験で国立がん研究センター中央病院のイニシアチブが示されたものです。

国立がん研究センター中央病院は、この試験で培った国際共同医師主導治験のノウハウを活用し、国内外の医療現場により多くの新しい治療薬・治療法を提供できるよう取り組んでまいります。

参考

国立がん研究センター中央病院における日本主導アカデミア発国際共同研究の推進とATLASプロジェクト

国際共同試験は、短期間に多くの症例登録を行うことができ、スピーディーな治療開発に繋がるため、企業治験では最近国際共同試験が行われる数が非常に多くなっています。アカデミア主導の臨床試験でも、より早く患者さんの手元により良い治療を届けるという観点では国際共同試験が重要です。これまでに米国や欧州では、アカデミアの臨床研究グループが主導する国際共同試験が数多く実施され、当院を含めて日本からこのような海外主導の国際共同試験へ参加する機会も増えてきました。しかし、日本の研究者が発案し、日本の研究機関がリードするような国際共同試験は、言語(英語)の壁、支援スタッフの不足、高額な研究費等の理由により、企画・運営のハードルが高くこれまでほとんど実施されてきませんでした。

一方、国立がん研究センター中央病院では、これまで新規治療確立に対するニーズが高いものの製薬企業による新規治療の開発がなかなか進まない疾患に対して、多くの医師主導治験を積極的に実施してきました。 さらに2016年度に、国際水準のアカデミア主導治験・臨床研究を日本主導で実施できる体制整備を目的として、医療法上の臨床研究中核病院の中から、当院と大阪大学医学部附属病院の2施設が日本医療研究開発機構(AMED)国際共同臨床研究実施推進事業の拠点施設に選定されました。1) これらの豊富な経験と臨床試験の支援基盤を活用して、これまで日本ではほとんど行われてこなかった、アカデミア主導の国際共同医師主導治験であるPATHWAY試験を実施しました。
atlas.jpg

現在、国立がん研究センター中央病院では、アジア地域における臨床研究・治験実施体制整備を目的とした「アジアがん臨床試験ネットワーク構築に関する事業(Asian clinical TriaLs network for cAncerS project:ATLAS project:アトラス プロジェクト」2を展開しており、PATHWAY試験の参加地域のみならず、一部のASEAN諸国を含むアジア全域の臨床研究ネットワーク構築を推進しています。PATHWAY試験で得られた経験とネットワークはATLASプロジェクトで活用されています。

国立がん研究センター中央病院は引き続きアジア地域全体におけるがん治療開発の発展を目指していきます。

ATLASプロジェクトHP https://atlas.ncc.go.jp/

1)本事業は、2017年度より臨床研究中核病院を対象としたAMED事業の医療技術実用化総合促進事業の中の1プログラムへ移行されております。

【事業名】医療技術実用化総合促進事業
【課題名】早期開発から後期開発までのシームレスな研究開発支援体制構築事業

2)本プロジェクトは、AMED事業として採択されています。

【事業名】臨床研究・治験推進研究事業(アジア地域における臨床研究・治験ネットワークの構築事業)
【課題名】アジアがん臨床試験ネットワーク構築に関する事業

問い合わせ先

本試験に関する問い合わせ

国立がん研究センター中央病院
臨床研究支援部門 研究企画推進部 国際研究支援室 秦 友美

〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
TEL:03-3547-5201(内線:6137)
E-mail:NCCH1607_office●ml.res.ncc.go.jp

報道関係の問い合わせ

国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室

〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
TEL:03-3542-2511(代表)
E-mail:ncc-admin●ncc.go.jp

関連ファイル

Get Adobe Reader

PDFファイルをご覧いただくには、Adobe Readerが必要です。Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先から無料ダウンロードしてください。

ページの先頭へ