コンテンツにジャンプ

トップページ > 診療科・共通部門 > 内科系 > 頭頸部内科 > 疾患について > 中咽頭・下咽頭・喉頭、口腔を原発とする頭頸部がん

中咽頭・下咽頭・喉頭、口腔を原発とする頭頸部がん

中咽頭・下咽頭・喉頭、口腔を原発とする頭頸部がんは、同一の臨床試験の対象として標準治療確立を目指して治療開発が行われてきました。
Stage I、IIであれば、外科切除あるいは放射線治療単独が標準治療です。局所進行では、根治切除可能か、不能かに分けて治療方針を検討します(図3)。

中咽頭・下咽頭・喉頭、口腔を原発とする頭頸部がん 1

切除可能で喉頭温存機能がない場合

外科的切除が行われ、術後病理にて再発高リスク因子(切除断端陽性、節外浸潤陽性)があれば術後補助療法が追加されることが標準治療です。術後補助療法の標準治療は、化学放射線療法です。海外における臨床試験の結果、シスプラチン100mg/m2, 3週毎、3コースを同時併用する化学放射線療法(シスプラチン3週毎+放射線治療)が標準レジメンでした。しかし、シスプラチンが高用量であるために、吐き気・食欲不振、腎毒性が強く、本邦では普及しませんでした。海外では毒性の軽いシスプラチン40mg/m2を毎週同時併用する化学放射線療法(シスプラチン毎週+放射線治療)が汎用されていました。そこで、我々はJCOGにてシスプラチン3週毎+放射線治療とシスプラチン毎週+放射線治療との比較試験を実施しました。その結果、シスプラチン毎週投与群は、シスプラチン3週毎投与群と比較して、良好な生存を示し、生存で劣ることがないことが証明され、さらに毒性も軽いことが示されました(図4)。この結果、シスプラチン毎週+放射線治療は、術後補助療法の標準治療の一つと認識されています。

中咽頭・下咽頭・喉頭、口腔を原発とする頭頸部がん 2

当院での治療

前述のJCOGの臨床試験の結果から、術後病理にて再発高リスク因子(切除断端陽性、節外浸潤陽性)が認められた場合は、術後補助療法としてシスプラチン毎週+放射線治療を実施しています。

切除可能かつ喉頭温存希望の場合

導入化学療法とシスプラチンを同時併用する化学放射線療法が標準治療です。導入化学療法は、外科切除と比較して同等の生存を示しながら喉頭温存が可能(喉頭がん64%、下咽頭癌57%)と報告されており、標準治療の一つと認識されています。導入化学療法の標準レジメンは、ドセタキセル+シスプラチン+5−FU併用療法(TPF療法)です。

当院での治療

導入化学療法の標準レジメンTPF療法は、毒性も強く致死になるリスクもあることから、当院では実施していません。当院では、シスプラチンを同時併用する化学放射線療法を行っています。切除可能であるので、外科切除も治療選択肢になるため、後述する放射線治療後の晩期毒性を十分理解した上で、治療を選択する必要があります。

根治切除不能な場合

化学放射線療法が標準治療です。しかし、がんが消失しても、約50%程度は再発すると報告されており、十分な治療ではありません。特に、両側頸部リンパ節転移(N2c), 6cm以上の頸部リンパ節転移のN3は、遠隔転移のリスクが高く、特に治療成績が不良です。

当院での治療

当院ではシスプラチンを同時併用する化学放射線療法あるいは導入化学療法→化学放射線療法のいずれかを行っています。導入化学療法は、遠隔転移のリスクが高い患者さんに行っています。これまでの3つの導入化学療法のレジメン(タキソテール+シスプラチン+TS-1、TPF、PCE)の臨床試験を実施した結果、PCE療法は、1) 腎機能悪化が生じないため、化学放射線療法中のシスプラチンの用量低下の懸念がないこと、2) 他のレジメンと比べて、重篤な毒性の頻度が少なく、治療関連死亡のリスクが少ないこと、3)良好な治療成績であることを示しました(図5)。この結果、現在、PCE療法は導入化学療法として最適なレジメンと判断しています。

中咽頭・下咽頭・喉頭、口腔を原発とする頭頸部がん 4

化学放射線療法の問題点

化学放射線療法は、術後補助療法、喉頭温存希望、根治切除不能局所進行頭頸部がんの標準治療ですが、様々な問題点があります(図6)。まず治療対象の幅が狭いことです。毒性が強いことから、治療に耐えられる臓器機能、良好な全身状態が必要です。高齢、合併症、全身状態不良な患者さんには不適な治療です。

中咽頭・下咽頭・喉頭、口腔を原発とする頭頸部がん 3

急性期の毒性として、化学療法に伴う骨髄毒性や食欲低下、放射線治療に伴う皮膚炎、粘膜炎、口腔内乾燥、味覚障害などがあります(図7)。それらが重症化すると、感染、低栄養、疼痛などをきたし、全身状態の悪化をまねきます。毒性の遷延は、患者さんのQOL低下をもたらし、治療休止・シスプラチン減量、さらに治療完遂困難、治療効果の低下につながります。

中咽頭・下咽頭・喉頭、口腔を原発とする頭頸部がん 5

よって、化学放射線療法の毒性管理においては、感染、疼痛、栄養が非常に重要です。
晩期毒性として、重篤なものは43%、誤嚥性肺炎などによる死亡が10%認められることが報告されています。すわなち、化学放射線療法によって、がんが完治しても、晩期毒性で命が危なくなるリスクがあります。
化学放射線療法後に局所再発した場合は、救済手術が検討されますが、照射部位の繊維化にて実施困難なこともありますし、創傷遅延、出血などの重篤な術後合併症も懸念されます。

当院での対応

当院は、我が国初となる化学放射線療法前に予防的に胃瘻造設を2001年から実施しており、予防的な胃瘻造設の数多くの経験があります。粘膜炎、味覚障害、嚥下障害にて経口摂取量が低下した場合は、胃瘻からの経管栄養を開始しています。歯科にて治療前、治療中、治療後に定期的に口腔ケアを行っており、粘膜炎の管理を行っています。粘膜炎・皮膚炎の疼痛が強い場合は、麻薬を使用しています。このように、当院は口腔ケア、胃瘻による経管栄養、麻薬による疼痛管理などの支持療法に精通しており、治療による重篤な副作用軽減また患者さんのQOL悪化の軽減に努めています。さらに、日本頭頸部癌支持療法研究会(https://www.j-scarph.jp/index.html)にて他施設の支持療法向上の啓蒙活動も行っています。
放射線治療に伴う晩期毒性が出現した場合は、放射線治療科または歯科に相談し、適切な対応・処置を行っています。嚥下障害による誤嚥性肺炎のリスクが高い場合は、紹介医あるいは自宅近くの病院に緊急時の対応をお願いしています。

更新日:2023年11月29日