トップページ > アジアを中心として過去に行われた治験・臨床試験のデータシェアリング事業「ARCADアジア」第2期プロジェクトを開始
―がん臨床試験データベースの拡大・がん医療の発展へー
アジアを中心として過去に行われた治験・臨床試験のデータシェアリング事業「ARCADアジア」第2期プロジェクトを開始
―がん臨床試験データベースの拡大・がん医療の発展へー
2024年9月26日
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院は、「ARCADアジア事業」第2期を2024年4月1日より開始しました。ARCADアジアは、アジア地域の切除不能・進行大腸がんを初めとする固形がんの臨床試験データを収集し統合データベース(ARCAD-Asian DB)を構築する、医薬品の研究開発等への利活用を目的としたデータシェアリング事業です。2021年9月の第1期開始から現在までにアジア大腸がん試験13試験4,173例のデータを収集・統合し、構築したARCAD-Asian DBを米国Mayo Clinicへ転送しました。毎年順次、転送されたARCAD-Asian DBがMayo Clinicにある欧米試験データベースと統合され、現在では、63試験45,224例のARCAD-Global DBが構築されました。その ARCAD-Global DBがMayo Clinicから東病院および仏国ARCAD財団に共有されたことで、日欧米の3つのデータセンターで同じデータベースを保有する世界的な共同研究の仕組みが完成しました。ARCADアジアで構築した大腸がんデータベースの品質は仏国ARCAD財団およびMayo Clinicに高く評価されています。
本事業により、本邦およびアジア全体の医薬品研究開発(Research and Development:R&D)の促進および効率化につながる持続的な研究データ共有基盤の構築を目指しています注1。第1期では、構築したDBを利活用する研究が製薬企業やアカデミア研究者により実施されています。また、ARCAD-Global DBに含まれるプラセボ群注2のデータから臨床試験において新薬群と比較するための対照群を作成し、プラセボのない臨床試験で薬事承認を目指すNo Placebo Initiative注3の提唱論文が科学雑誌「Nature Medicine」(2023年7月28日付、Correspondence)に掲載されました注4。
第2期の背景と構想
データベース利活用促進
第1期に引き続き、最新の大腸がん臨床試験データを格納していくことで大腸がん統合データベースの拡充を行います。また、No Placebo Initiativeをはじめとするデータベースの利活用を推進します。これまでARCADアジアより提案した利活用研究が活発に実施され、2023年6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2023)で2件、2024年2月の米国臨床腫瘍学会消化器癌シンポジウム(ASCO-GI)にて2件、2024年6月の欧州臨床腫瘍学会消化器癌シンポジウム(ESMO-GI)にて1件ポスター発表が行われました。製薬企業との共同研究も実施しており、日本外科学会などの学会を通した研究公募の形でアカデミア研究者に対しても広くデータベースを利活用いただくように展開していきます。
ARCAD-Global DBには、合計9試験約1,600例のプラセボ投与症例データが格納される予定であり、No Placebo Initiativeでは、これらプラセボデータから条件を揃えて抽出した合成対照群を構築することにより、単群の臨床試験のみによる薬効の評価ならびに厚生労働省への承認申請に利活用することを計画しています。一般的に、標準治療のない被験者を対象としたランダム化比較試験では、登録された患者さんをランダムに各治療群に割り付け、治療成績を比較する際の対照群としてプラセボが用いられることが一般的です。しかし、プラセボの使用には、患者さんへの倫理的配慮や、プラセボにあたる可能性から試験参加をためらってしまうような患者さんおよび医師の実務上の問題などのデメリットが知られています。No Placebo Initiativeにより、患者さんにとっては実薬のみを投与できるメリット、製薬企業にとっては承認手続きの迅速化や開発コストの削減などの様々なメリットが期待されます。
胃がんデータベースへの拡張
大腸がんに続いて、胃がんを対象とするARCAD-Gastricプロジェクトを立ち上げ、2025年よりデータベース構築を開始します。ARCAD-Gastricでは、免疫の力を利用してがんを攻撃する治療法である免疫療法の主要な第II相ならび第III相試験等を対象とすることや、疾患の診断基準となったり治療の効果を判定したりするための検査項目や生体内の物質であるPD-1/PD-L1、MSIなどのバイオマーカー情報、免疫関連有害事象等の情報を収集し、臨床試験や薬事承認プロセスにおける評価項目についての提言などを目標としています。現段階では、免疫チェックポイント阻害剤11試験約10,000例を収集対象として今後データ提供交渉を行うことが決定しています。
ARCAD-Gastricでは、当院副院長の吉野孝之医師が研究代表者になることが決定しており、ARCADアジアデータセンターがグローバルすべての対象試験のデータ統合を主導します。データベースの構造は、将来的にがん種横断的な承認申請や政策提言等が利用可能となるように医薬品の臨床データなどの国際的な業界標準であるCDISC形式の採用を予定しており、構築されたデータベースは、大腸がんと同様に日仏米のデータセンターに共有され、製薬企業やアカデミアによる利活用が行われる予定です。
ARCAD-Gastricのデータフロー
実施予定期間
2024年4月~2027年3月
対象症例
大腸がん (目標症例数:約50,000例)
胃がん(目標症例数:約10,000例)
研究費
本プロジェクトは、国立がん研究センター研究開発費及び5社の製薬企業(2024年9月現在)との共同研究費などにより実施します。
国立がん研究センター研究開発費
「オープンサイエンス化に向けたデータシェアリング体制の構築とデータサイエンス人材の育成に関する基盤的研究」(TR・早期開発分野) 研究期間:2024年4月~2027年3月(3年間) 研究代表者:坂東 英明(東病院 データサイエンス部/消化管内科)
参加企業(2024年9月現在、50音順)
小野薬品工業株式会社、大鵬薬品工業株式会社、武田薬品工業株式会社、第一三共株式会社、中外製薬株式会社
注釈
注1 国際臨床試験データシェアリング事業「ARCADアジア」始動|国立がん研究センター (ncc.go.jp)
注2 プラセボ:見た目などが新薬と同じで有効成分が入っていないものを指す。臨床試験において、新薬群と成分以外の条件をそろえるために使用される。
注3 過去の臨床試験データをプラセボ投与の代替とする新たな新薬開発の仕組みを目指す~No Placebo Initiative~|国立がん研究センター (ncc.go.jp)
注4 A synthetic control arm for refractory metastatic colorectal cancer: the no placebo initiative | Nature Medicine
お問い合わせ先
研究内容についてのお問い合わせ
ARCADアジア 運営事務局/データセンター
国立研究開発法人国立がん研究センター 東病院
医薬品開発推進部門データサイエンス部 三角 俊裕
電話番号:04-7130-0222 E-mail:tmisumi@east.ncc.go.jp