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陽子線に対する細胞応答に関する研究

図1
近年、陽子線治療を含む粒子線治療の広がりは世界的に顕著で、施設の増加とともに治療症例も急速に増加しています。その中で陽子線治療はその汎用性から適応範囲の拡大も試みられ、局所限局性の早期肺癌や前立腺癌などから、局所進行肺癌や食道癌などでもその有効性が報告されつつあります。陽子線は物質中でビームが停止する直前に高いエネルギーを付与し、急激にエネルギーが低下するBragg Peak という優れた物理学的な特性を有しており、Bragg Peak の幅や位置を調整することで腫瘍の深さや形態に合わせて線量を集中することができます(図1)。この物理学的な特性を生かし、有害事象を低減したまま線量増加することができ、X 線で根治照射できない腫瘍に対しても治療成績の向上や抗腫瘍効果の向上が期待されております。陽子線治療の生物学的効果比(RBE)はX 線と比較して1.1から1.2 倍であることが示されたことから(Pagenetti et al. IJROBP 2002; 53(2): 407-421)、陽子線治療ではX 線による放射線治療のこれまでの基礎ならびに臨床データなどが外挿しやすいと認識され、その線量分割や総線量などもX 線による治療データに基づくものも少なくありません。しかし、放射線生物学的には陽子線治療は、その性質や細胞応答にもX 線と比較して相違点があるとの報告も散見されます。しかし、陽子線治療に関する生物学的な研究は、研究そのものが実施できる施設が世界的も限られていることや陽子線治療機器を研究に使用できるマシンタイムの制限などから、決して十分なデータがあるとは言えません。当センターの粒子線医学開発分野では、臨床での陽子線治療利用に加えて、陽子線治療機器を用いた生物研究も積極的に実施しています。

最近の研究で拡大Bragg Peak(以下略記:SOBP)後方(図1-四角網掛け部分)の生物学的効果が高い可能性があることが示されました(Pankaj et al. IJROBP2014; 90(1): 27-35)。上記のRBE などの報告により、これまでは化学療法併用効果もX 線とほぼ同等との仮説に基づき、化学療法併用陽子線治療が頭頸部癌、肺癌、食道癌などを対象に実臨床や臨床試験で行われてきています。しかし、上記のような陽子線に関する生物研究の結果は、陽子線治療と化学療法との相互作用がX 線とは必ずしも同じではない可能性を示唆しております。このような背景から、陽子線治療と化学療法の至適な併用法を確立する意味でも、陽子線と化学療法薬剤との相互作用やその増感効果ならびにその機序などの基礎的な検証は必須と考えます。また、化学療法併用により増感効果が認められた場合、SOBP 内での生物学的効果の差異が大きくなり、治療計画と実際の効果が大きく異なる可能性も考えられます。これにより、予期せぬ有害事象の出現が懸念されるため、この観点での基礎的な裏付けも重要です。そこで、我々は、化学療法薬剤による陽子線照射の増感効果(放射線感受性の増強効果)について、1)陽子線照射における殺細胞効果の機序、2)薬剤による増感効果、3)X 線照射との相違の有無、4)照射野内の位置による増感効果の差異、を放射線生物学的な手法を用いて明らかにすることを主な目標としております。これらのデータを臨床でフィードバックできるように、当センター内の他の研究室とも連携して日々研究を行っています。

陽子線照射方法の図

陽子線照射方法

陽子線照射後のコロニーの図

陽子線照射後のコロニー

陽子線照射後のγH2AX fociの図

陽子線照射後のγH2AX foci