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高齢がん患者に関する研究
精神腫瘍学開発分野では、高齢がん患者に関する研究として下記の研究に取り組んでいます。
- 「認知症合併に対応した最適の治療選択と安全性の向上を目指した支援プログラムの開発」(国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)平成29年度から令和元年度 革新的がん医療実用化研究事業)
- 「高齢がん患者向け総合評価指標(Cancer-Specific Geriatric Assessment)の日本語版開発における言語的妥当性の検討(CSGA))(厚生労働科学研究費補助金)
「認知症合併に対応した最適の治療選択と安全性の向上を目指した支援プログラムの開発」
認知機能障害の併存する高齢がん患者の治療関連リスクに関する研究
研究概要・目的
一般診療における高齢、認知症併存に関連した問題
日本は2015年時点で高齢化率 27.3%の超高齢社会を迎えています。高齢者の増加に伴い高齢者医療への需要は高まっています。しかし、
- 疾病の表れ方や反応が若年者と異なる
- 複数の慢性疾患を保有している
- 薬剤数が増え相互作用や薬物有害事象が起こりやすい
- 高齢者を対象とした診療ガイドラインが十分確立していない
といった理由で、高齢者への医療提供は医療従事者にとって困難なものになっています。
また、認知症患者数や罹患率も増加の一途を辿っています。65歳以上の全人口の約15%に認知症が併存しており、2025年には 25%に増加すると推測されています。急性期病院に入院中の患者の約20%に認知症が併存していると推測されています。
一般診療の領域では、認知症の併存は死亡率、施設入所率、術後合併症率、せん妄発症率の増加や入院期間の延長など、様々な問題と関連することが明らかになっています。また、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)であっても、入院長期化や施設入所、身体抑制、死亡率が増加する傾向にあることが明らかになっています。
一般診療における高齢患者への対応策および認知機能評価に関する現状
海外では「G8(ジーエイト)」という、高齢者機能評価スクリーニングとその結果に応じた専門家コンサルテーションにより予防する取り組みが行われています。しかし、「G8」では認知機能評価に関して定まった手順は示しておらず、評価尺度を用いた定量的な評価もなされておりません。
がん診療における認知症併存に関連した問題
がん診療においても認知症は様々な問題を引き起こすと言われています。例えば、意思決定能力の低下によってがん治療の遂行が妨げられたり、アドヒアランス*やセルフケア能力の低下によってマネジメント上の問題(治療完遂率の低下や合併症の増加、せん妄の発症や転倒やルートトラブルなど)や、医療経済的な問題(在院日数の延長による医療費増加など)が生じたり、多方面に影響することが指摘されています。
注:アドヒアランス:治療や服薬に対して患者が積極的に関わり、その決定に沿った治療を受けること。一般的に、服薬遵守のことを表します。
がん医療における高齢患者への対応策および認知機能評価に関する現状
上述のG8同様、がん診療に特化をしたCSGA(Cancer-Specific Geriatric Assessment:高齢がん患者向け総合指標)という高齢者機能評価がありますが、こちらでも認知機能評価法については定まった方法が確立しておらず、認知機能障害の併存と治療関連リスクとの関係について臨床データの蓄積が進んでいません。
本研究の意義
一般診療においては認知機能障害の併存と治療関連リスクとの関係が明らかになってきていますが、がん領域においては国内、海外ともに検討がなされていない状況です。
本研究は認知機能障害(特に軽度認知機能障害)の併存が、がん治療リスクと関係するかを探索的に調査することを目的としており、今後、認知症の重症度に応じた治療指針を検討する基礎的な資料となると考えられます。治療前の予防的介入や、認知機能障害を持つ患者さんの意思決定支援に活用していくことが期待されます。
また、本研究では前述のCSGAに含まれるADL尺度日本語版(MOS Physical Health)の妥当性・信頼性の検討も並行して行っており、CSGA日本語版標準化の基礎資料となることも期待されます。
参考情報
高齢がん患者の治療適応を考える上での困難さや高齢者機能評価に関する情報は、下記サイトもご参考ください。