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研究基盤の構築
- 研究所 生物情報学分野との協同による、オミックスデータを用いる研究に対するコンサルテーション提供体制の構築
- 若手生物統計学専門家人材育成のための枠組みの構築
- がん領域の臨床試験情報の一般の方向けの発信と臨床試験に関する患者参画の取り組み
- 希少がんの情報提供・相談支援ネットワークの形成に関する取り組み
研究所 生物情報学分野と協同し、オミックスデータを用いる研究に対するコンサルテーション提供体制の構築
オミックス解析を伴う臨床研究は増加していますが、研究実施のためには領域横断的な専門性を必要とするものであることから、計画立案段階での試行錯誤・研究遂行中の(十分な経験を積んでいたならば回避できていた)手戻り等が少なからず生じ、研究を迅速に立ち上げ遂行するための課題となっています。また、このようなタイプの研究をより多く実施するためには、限られたリソースを効率的に活用すること、専門性を同じくする者の中でもシニア・ジュニア間での役割分担や一連の研究手順の切り分けを容易にすること、異なる専門分野間での前提知識や常識が異なるために生じる誤解・論点の取りこぼしを避けること等が重要となります。更に、このような分野横断的なノウハウは他領域・多領域の専門家との連携体制がなければ蓄積しがたく、若手研究者が見いだしたclinical question、研究機関・医療機関として取り組むべき・社会的ニーズによって取り組みが求められるclinical question に対して研究を進めることが困難となることも生じがちです。そのような状況を改善することは容易ではありませんが、多領域の専門家間の効率的な・効果的な連携を進め、より活発に臨床研究を実施出来る環境に繋げられるよう、一つのたたき台を提案し手引きを作成しました。
また、生物情報学(バイオインフォマティクス)は、高次元・多層のオミクスデータから分子学的特徴の抽出や意味付けを行うための専門知識を、生物統計学は、バイアスや効率を考慮し、分子学的特徴と臨床アウトカムとの関連を適切に推論するための方法論を提供することを目指し、2022年8月より研究所 生物情報学分野と研究支援センター 生物統計部を窓口として国立がん研究センター内部研究者向けの「バイオインフォマティクス・生物統計合同コンサルテーション」を開設・運営しています。
若手生物統計学専門家人材育成のための枠組みの構築
国立がん研究センターでは1996年以降、継続的に常勤研究職の生物統計学専門家を確保しており、センター内の臨床試験・医師主導治験、臨床研究等の立ち上げ段階の、研究の萌芽の段階・clinical questionの明確化・定式化の段階から密に関与しています。
研究支援センター生物統計部が計画段階・研究デザイン段階から関与している臨床試験・医師主導治験等は多数ありますが(JCOG研究:実施中121件・準備中25件、中央病院の臨床試験:実施中25件・準備中5件、EPOC研究:実施中23件・準備中6件、東病院の臨床試験:実施中9件、2022年3月末時点)、アウトプットについても一例として2022年には、JCOG研究及び中央病院の臨床試験関連で年間210件の解析レポートを発出し、生物統計学専門家としてclinical questionの定式化・研究計画・研究デザインに貢献したJCOG研究成果がimpact factor 30以上の5報を含む合計34報の論文化に繋がるなど、標準治療の確立・新規治療の開発のためのエビデンス構築に共同研究者の一員として大きく貢献しています。また、がんゲノム医療の臨床導入に際し、国内での未承認薬・適応外薬へのアクセスを確保するための方策の検討が必要となりましたが、がんゲノム情報管理センター(C-CAT)と連携し、がんゲノム医療中核拠点病院等連絡会議の下に設置された医薬品アクセス確保WGの事務局を担い、治験・医師主導治験・先進医療B等の臨床試験で対応出来ない状況を改善するための新たな研究形態・研究の枠組みに係わるWG提案の起案に携わり、更にその具体的な実装事例として中央病院で実施中の「遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく複数の分子標的治療に関する患者申出療養(NCCH1901、jRCTs031190104)」の計画・実施・解析に試験統計家として関与するなど、新機軸の解決策の提案・実装にも取り組んでいます。また、人材育成のためのキャリアラダーも定め、短期的な成果の極大化に留まらず中長期的に安定して研究を立ち上げ成果を生み出すことが出来る環境の整備を進めてきました。
画像クリックで、人材育成管理運営会議報告書にリンクします。20ページに記載があります。
このような環境を生かし、若手生物統計学専門家の人材育成のための枠組みの構築にも取り組んでいます。
現在、研究支援センター生物統計部を窓口として、日本医療研究開発機構(AMED)のの支援(2016~2020年度 生物統計家育成支援事業、2021~2025年度 生物統計家育成推進事業)を受け、東京大学大学院 学際情報学府 生物統計情報学コースの大学院生(修士課程の二学年)の研修・実習を受け入れています。
また、2021年より、他のナショナルセンターの若手・中堅生物統計学専門家を3名受け入れており、臨床試験の経験を積んで頂くと共に、異なる疾患領域で活動する生物統計家間での交流を通して、多様な方法論に触れる機会を設け、相互の見識を深めるための場ともなっています。これは、臨床研究を行う研究機関・医療機関内に設置されるAcademic Research Organizationの担う役割がナショナルセンターではより広くなる、すなわち、高度な診療提供体制を支える病院機能の一部としての「診療ニーズ駆動型の課題」や政策医療提供体制を支える組織機能の一部としての「ミッション遂行型の課題」を担う役割をも担えるような体制整備が必要になるとの認識のもと、非定型的研究の提案をも行える人材育成を目指した取り組みです。この取り組みをもとに、6つのナショナルセンター間で連携した人材育成のための枠組みを提案し、国立高度専門医療研究センター 医療研究連携推進本部(JH)で2022年度より開始されたJH横断的事業推進費 若手生物統計家NC連携育成パイロット事業の立ち上げに繋がりました。現在このパイロット事業の下、2名の若手生物統計家を他のナショナルセンターから受け入れています。
更に2023年より、がん対策研究所の他部の協力を得て、前述のAMED事業の一環として既に受け入れている大学院生に対する新たな研鑽の場のひとつとして、社会医学研究領域の研究テーマを通した指導を開始します。医薬品の開発のためには臨床試験が必須ですが、一方で、昨今のReal World Data活用の流れや、介入試験と観察研究・介入試験とデータベース研究の境界線が曖昧になり相互に融合していく流れ、ICHガイドライン「臨床試験の一般指針」の改訂(ICH E8(R1)、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知 薬生審発1223第5号、令和4年12月23日)により、観察研究データも薬事承認後に留まらず医薬品開発の段階も含めてエビデンスを補強する情報源として有用である可能性が指摘される流れなどを踏まえ、医薬品開発の観点からは即応性の高い人材、社会医学の観点からはがん治療の社会実装の全体像を見渡すことが出来る幅広い経験と見識を備えた生物統計家を育成することに繋がる体制の構築を目指しています。
がん領域の臨床試験情報の一般の方向けの発信 と臨床試験に関する患者参画の取り組み
本邦では2005年に公開の臨床試験の登録データベース(UMIN-CTR、Japic-CTI、JMACCT-CTR)が立ち上がりましたが、当部スタッフによりこれらを統合して検索することができる仕組みを構築し2006年10月より疾患領域毎の3データベース横断的な臨床試験の一覧の公開を始め、以降、検索機能の追加・拡充等、厚生労働省Webサイトの先進医療の情報、患者申出療養の情報、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の主たる治験・拡大治験の情報等の統合などを行ってきました。現在は、新たなデータベースであるjRCTの情報も含め、全ての公開情報を一元化し、がん対策研究所 がん情報提供部と連携し、チャット形式の対話型検索機能により臨床試験を検索できるシステム(がん情報サービス「がんの臨床試験を探す」)を運用しています。この検索ツールは、ユーザーが入力したキーワードによる検索結果を提示する際に、追加の絞り込みをかけるための次の絞り込み条件をシステム側から提示し検索の難易度を下げることや、医薬品の一般名、製品名だけでなく、開発段階で付与される記号(治験成分記号)による検索も可能で、さらにこれらの表記揺れ・入力ミス等に対応できることなどの特徴があります。
また、国立がん研究センター中央病院と連携した活動として、JCOGの患者参画小委員会に関与し、患者・市民セミナー、意見交換会等を行っていいます。この活動の一環として、臨床試験に参加して頂いた患者さんへの試験結果の提供をよりよい形で行うために患者さん向け結果説明文書(Lay Summary)を作る取り組みを提案し、運用を始めています。
希少がんの情報提供・相談支援ネットワークの形成に関する取り組み
2020年度より、厚生労働科学研究補助金 がん対策推進総合研究事業「希少がんの情報提供・相談支援ネットワークの形成に関する研究」(研究代表者 国立がん研究センター 川井章先生)に分担研究者として参画し、希少がんセンター、中央病院と連携し、地域希少がんセンター(仮称)に求められる機能の案を起草しました。