閉経前・後ともに肥満は乳がんのリスクに
閉経前においては欧米人女性と異なる可能性を示唆
2014年10月7日
独立行政法人国立がん研究センター
独立行政法人国立がん研究センター(理事長:堀田知光、東京都中央区、略称:国がん)は、これまで日本人を対象とした研究では明らかになっていなかった、肥満と閉経状況別の乳がんの関連性について、日本人を対象とした大規模な前向きコホート研究(注1)をあわせたプール解析(注2)により初めて確認しました。本研究は、がん研究開発費の助成による「科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」(主任研究者:がん予防・検診研究センター 予防研究部長 笹月静)の成果で、欧州のがん専門誌「Annals of Oncology(外部サイトにリンクします)」において発表されました。
注1:コホート研究:大規模な対象集団を設け、長期にわたって観察する研究
注2:プール解析:複数の研究を集めた統合解析
研究概要
今回の研究は、日本の8つのコホート研究における18万人以上のデータをあわせたプール解析により肥満指数(BMI)(注)と乳がんとの関連を閉経状況別に推定したものです。平均約12年の追跡期間中に乳がんになった1,783人について、診断時の状況に応じて閉経前乳がんと閉経後乳がんに分類し、BMIによる乳がんリスクを比べたところ閉経前後ともにBMIが大きくなると乳がんリスクが高くなり、閉経前ではBMI最大群(30以上)でのリスクは基準値(23以上25未満)の2.25倍でした。一方で、BMIが低いほど閉経後ではリスクも低いのに対し、閉経前では基準グループと同程度のリスクでした。
注:肥満指数(BMI)は体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割って算出され、肥満・痩せの指標として広く使われています。
BMIと乳がんリスクとの関連については、これまでに主に欧米の研究結果から、閉経後乳がんではBMIが大きいとリスクとなることが示され、逆に閉経前乳がんでは予防的であるという弱い関連が報告されています。しかし、アジア人ではBMIと乳がんの関連がどのようになっているのか、特に閉経前乳がんではどうなのかはよくわかっていませんでした。
本研究の結果より、乳がん予防の観点からは痩せているほうがリスクが低いことが示されました。しかし、痩せに至るような栄養不足は免疫力を弱めて感染症を引き起こしたり、血管壁がもろくなり脳出血を起こしやすくすることも知られています。国立がん研究センターが科学的根拠に基づいて提唱する「日本人のためのがん予防法」では、総合的な健康にも配慮し、中高年女性のBMIの目標値としては21以上25未満を推奨しています。
- BMI 21の例:
身長160センチメートル、体重54キログラム
身長155センチメートル、体重50.5キログラム - BMI 25の例:
身長160センチメートル、体重64キログラム
身長155センチメートル、体重60.5キログラム
調査方法
JPHC-IとJPHC-IIから成る多目的コホート研究、JACC研究、宮城県コホート研究、大崎国民健康保険コホート、3府県コホート研究(宮城)、3府県コホート研究(愛知)、高山コホート研究の女性の対象者で、調査開始時点でがんの既往歴がない方合計183,940名が対象です。BMIは、調査開始時の身長と体重から計算しました。14未満と40以上の方は対象外とし、19未満、19以上21未満、21以上23未満、23以上25未満、25以上27未満、27以上30未満、30以上の7つのカテゴリーに区切りました。
平均で約12年の追跡期間中に乳がんになった1783人を、閉経前(301人)・閉経後(1482人)ともにBMI23以上25未満を基準(ハザード比=1)とし、BMIによる乳がんリスクを比べたところ、上記図のようになりました。乳がんの発生率に影響を与えうるBMI以外の要因(年齢、地域、喫煙、飲酒、初潮年齢、初産年齢、出産数)について、それらの偏りが結果に影響を与えないように、ハザード比には統計学的補正が施されています。
調査結果
- 閉経前乳がんも閉経後乳がんも、BMIが大きくなると乳がんリスクは高くなる傾向がみられました。
- 閉経前乳がんでは、BMI30以上で基準の2.25倍のリスクを示しました。
- 閉経後乳がんでは、BMIが1上がるごとに5%上昇する直線的な関連性がみられました。
いずれも統計学的に有意な(偶然では説明できない)ものです。また、前がん状態ではすでにBMIが変動している可能性がありますが、追跡開始から2年目までに発生した乳がんを除いても、結果が大きく変わることはありませんでした。
調査方法
閉経前の結果
閉経前乳がんについては、この研究ではBMIによるリスクの上昇がみられましたが、欧米では逆にBMI30以上の群や最大カテゴリーでのみリスク減少を示す研究結果などがあります。過体重や肥満の女性は無排卵やエストロゲンレベルが低いなどの傾向があり、乳がんには予防的となることが考えられています。アジア人女性の場合は極端に太っている人が少なく、予防的な効果がみられなかったのかもしれません。また、欧米とアジアに多い乳がんのタイプの違いなどによるのかもしれません。
閉経後の結果
この研究で示されたBMIと閉経後乳がんリスクとの関連は、これまでの研究結果と一致しています。この関連は、閉経後に肥満女性では卵巣よりもむしろ脂肪組織が主なエストロゲン供給源になるという性ホルモン関連のメカニズムで説明できます。
データの有用性と研究の限界について
日本で行われている大規模な前向き研究から18万人という対象者を得て、質の高いデータによるプール解析が行われました。いずれも長期追跡データがあり、乳がん発生以前に得られた情報によりBMIのカテゴリーを揃え、共通する他の要因について統計学的な補正を行うことができました。ただし、追跡開始時の閉経状況についての情報はありますが、追跡期間中については情報がなく、乳がん診断時に51歳以上の場合は閉経後乳がんと仮定したため、やや誤分類が生じた可能性があります。また、乳がんのタイプ(エストロゲンレセプター情報)が得られなかったので、その影響を推し量ることができませんでした。
論文情報
- Annals of Oncology:Annals of Oncology now has an Impact Factor of 11.855(外部サイトにリンクします)
原文:2014年25巻519-524ページ
- Body mass index and breast cancer risk in Japan: a pooled analysis of eight population-based cohort studies(外部サイトにリンクします)
「日本人のためのがん予防」とは
国立がん研究センターでは、現時点で科学的に妥当な研究方法で明らかにされている結果をもとに、以下の6項目について「日本人のためのがん予防法」を提示しています。この内容は、新しい研究の成果が積み重なることで修正や項目の追加、削除される可能性があることが前提とされます。各項目の目標などもウェブでご紹介しています。
がん情報サービス:日本人のためのがん予防法(がん情報サービスへのリンク)
- 喫煙 たばこは吸わない。他人のたばこの煙をできるだけ避ける。
- 飲酒 飲むなら、節度のある飲酒をする。
- 食事 食事は偏らずバランスよくとる。
塩蔵食品、食塩の摂取は最小限にする。
野菜や果物不足にならない。
飲食物を熱い状態でとらない。 - 身体活動 日常生活を活動的に。
- 体形 適正な範囲に。
- 感染 肝炎ウイルス感染検査と適切な措置を。
プレスリリース
- 肥満指数と乳がん
関連ファイルをご覧ください。
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国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 笹月 静
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