18歳未満の子どもをもつがん患者とその子どもたちについて 年間発生数、平均年齢など全国推定値を初算出 支援体制構築の急務な実態が明らかに
2015年11月4日
国立研究開発法人国立がん研究センター
国立研究開発法人 国立がん研究センター(理事長:堀田知光、所在地:東京都中央区、略称:国がん)がん対策情報センター(センター長:若尾文彦)は、18歳未満の子どもをもつがん患者とその子どもについて、わが国で1年間に新たに発生する患者とその子どもの人数、平均年齢などの全国推定値を初めて明らかにしました。
また、全国どこでも質の高いがん医療を受けることができるように、がん医療の均てん化を目標として整備されている国の指定医療施設であるがん診療連携拠点病院での同患者数、子どもの人数についても推定し、今後社会全体での支援体制構築の必要性を提示しました。
本推定は、国立がん研究センター中央病院の5年間の入院患者データをもとに、地域がん登録、院内がん登録の集計データにより算出したもので、18歳未満の子どもをもつがん患者の全国推定値は年間56,143人で、その子どもたちは87,017人、患者の平均年齢は、男性は46.6歳、女性は43.7歳、親ががんと診断された子どもの平均年齢は11.2歳で、18歳未満のうち0歳から12歳までが半数を超えることがわかりました。
また、全国のがん診療連携拠点病院での同患者数は1施設当たり年間おおよそ82人で、子どもは128人と推定されることが分かりました。
がんの宣告は、患者自身に加え、家族、特にその子どもたちにも大きな影響を与えることが知られており、多方面から十分なサポートを受けながら、より良い療養生活とその後の人生を送ることが出来るような支援体制が不可欠です。一方で、子どものいるがん患者および親ががんと診断された子どもの数などその実態は把握されておらず、この問題の重要性が十分に認知されているとは言えないのが現状です。
国立がん研究センターは、様々なライフステージにあるがん患者さんが必要な支援を受けられる社会体制の構築を目指しており、これまで配慮が十分でなかった子どもを持つがん患者と親ががんと診断された子どもたちの実態を明らかにすることで、支援体制作りに向けての第一歩としたいと考えます。
調査背景
日本人のがんの生涯罹患率は男性約56%、女性約43%と高く、年齢とともに罹患率は上昇します。近年の結婚年齢および出産年齢の高齢化により、子どもを持つ年齢が上がり、まだ自分の子どもが独立していない未成年のときにがんに罹患する患者の問題が非常に重要になってきています。
がんの宣告は、患者自身に加え、家族、とくにその子どもたちにも大きな影響を与えます。子育て中のがん患者自身にとっては、がんの診断や経過についてどのように子どもに伝えるかに悩むことも多く、また治療選択の方法にも影響を及ぼします。また患者の親を持つ子どもにとっては、精神社会的な発達や心理的成長に影響を与え、特に18歳未満の子どもたちは自分の親ががんと診断されたり、治療を受けたり、またがんによって死亡するというストレスに対して非常に敏感であることが知られています。
しかし、このようながん患者や親のがんによって影響を受ける子どもたちがいったいどのくらいいるのかなどの実態は明らかではなく、この問題の重要性が広く理解がされているとは言いがたいのが現状です。そのため、今回の調査は、わが国全体で1年間に発生する、18歳未満の子どもをもつがん患者の数および親ががんと診断された18歳未満の未成年の数を推計することを目的とし実施しました。
調査概要
2009年1月から2013年12月までの5年間に、初めて国立がん研究センター中央病院に入院した20歳から59歳までのすべての患者を対象に、同居する18歳未満の子どもの有無と人数、子どもの年齢・性別、および患者自身の罹患したがんの種類を電子カルテ上より集計を行いました。これをさらに院内がん登録データと突合させ、患者ごとに、より詳細ながんの種類等のデータを同定できた患者の割合を計算しました。
ここで得られた、子どもを持つ患者の発生割合とがん患者の親を持つ子どもの発生割合を、2010年地域がん登録データと2011年院内がん登録データの2つの全国データを合わせて、それぞれ「わが国全体で1年間に子どものいるがん患者が何人発生するか」「わが国全体で1年間に親ががんと診断された子どもが何人発生するか」、および「全国395施設(2011年度)のがん診療連携拠点病院では1年間に子どものいるがん患者が何人発生するか」「全国395施設のがん診療連携拠点病院では1年間に親ががんと診断された子どもが何人発生するか」を推定しました。
調査結果
- わが国全体では、1年間に新たに発生する18歳未満の子どものいるがん患者の数は56,143人、またその子どもたちの数は87,017人と推定されます。これを2010年の人口構成データに当てはめると、1年間に自分の親が新たにがんと診断された子どもの割合は全体の約0.38%となります。
- 一つのがん診療連携拠点病院において、1年間におおよそ82人の18歳未満の子どもを持つがん患者と128人の子どもたちが新たに発生していることがわかりました。
- 18歳未満の子どものいるがん患者ががんと診断された平均年齢は、男性46.6歳に対して、女性43.7歳でした。
- がんの種類は、男性では胃がん(15.6%)、肺がん(13.2%)の順に多く、女性では乳がん(40.1%)、子宮がん(10.4%)の順に多いことがわかりました。
- 親ががんと診断された子どもの平均年齢は11.2歳であり、子どもの年齢の上昇とともに人数が増えていくことがわかりました。
表1 国立がん研究センター中央病院の5年間の初回入院全患者に対する18歳未満の子どもを持つ患者の割合
患者年齢(歳) | 男性(%) | 女性(%) | 合計(%) |
---|---|---|---|
20から29 | 3.5 | 11.8 | 7.6 |
30から39 | 31.1 | 34.2 | 32.9 |
40から49 | 46.4 | 41.3 | 43.1 |
50から59 | 16.8 | 8.9 | 12.8 |
合計 | 25.3 | 24.1 | 24.7 |
表2 18歳未満の子どもがいるがん患者の1年間の全国推定発生人数
患者年齢(歳) | 男性(人) 全国推定値 (地域がん登録) | 男性(人) 拠点病院推定値 (院内がん登録) | 女性(人) 全国推定値 (地域がん登録) | 女性(人) 拠点病院推定値 (院内がん登録) | 合計(人) 全国推定値 (地域がん登録) | 合計(人) 拠点病院推定値 (院内がん登録) |
---|---|---|---|---|---|---|
20から29 | 66 | 78 | 310 | 291 | 377 | 369 |
30から39 | 1922 | 1417 | 5702 | 5196 | 7623 | 6613 |
40から49 | 9460 | 5210 | 18885 | 11121 | 28345 | 16331 |
50から59 | 13478 | 5910 | 6320 | 3456 | 19797 | 9366 |
合計 | 24926 | 12615 | 31217 | 20064 | 56143 | 32679 |
表3 親ががんと診断された18歳未満の子どもの1年間の全国推定発生人数
子どもの年齢 (歳) | 男性(人) 全国推定値 (地域がん登録) | 男性(人) 拠点病院推定値 (院内がん登録) | 女性(人) 全国推定値 (地域がん登録) | 女性(人) 拠点病院推定値 (院内がん登録) | 合計(人) 全国推定値 (地域がん登録) | 合計(人) 拠点病院推定値 (院内がん登録) |
---|---|---|---|---|---|---|
0から6 | 13591 | 7927 | 13625 | 7947 | 27216 | 15874 |
7から12 | 14598 | 8515 | 12685 | 7399 | 27283 | 15913 |
13から15 | 8625 | 5030 | 8759 | 5108 | 17383 | 10139 |
16から17 | 7886 | 4600 | 7249 | 4228 | 15135 | 8827 |
合計 | 44700 | 26071 | 42317 | 24681 | 87017 | 50752 |
論文情報
Cancer Epidemiology
Volume 39, Issue6, December 2015, Pages 838–841 DOI:10.1016/j.canep.2015.10.005
A national profile of the impact of parental cancer on their children in Japan
井上泉 東尚弘 岩本桃子 Sue P. Heiney 田巻知宏 大沢かおり 井上実穂 白石恵子 小嶋リベカ 的場元弘
プレスリリース
- 18歳未満の子どもをもつがん患者とその子どもたちについて年間発生数、平均年齢など全国推定値を初算出
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