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国立がん研究センター

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企業主導開発が困難な超希少がんの臨床試験計画や新薬開発手法の確立を目指す明細胞肉腫と胞巣状軟部肉腫の医師主導治験を開始

2017年1月23日
国立研究開発法人国立がん研究センター

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院は、代表的な希少がん(注1)である肉腫の中でもさらに発症頻度の極めて少ない明細胞(めいさいぼう)肉腫(注2)と胞巣状軟部(ほうそうじょうなんぶ)肉腫(注3)を対象に、ニボルマブの医師主導治験(試験略称:OSCAR)を開始いたします。本試験は当センターを含む全国4施設(国立がん研究センター中央病院、愛知県がんセンター中央病院、国立病院機構大阪医療センター、岡山大学病院)で実施いたします。

本試験を、希少がんの中でも極めて少ない超希少ながん腫で成功させることにより、超希少がんの臨床試験計画や新薬開発手法のモデルのひとつになると期待されます。また、本試験で良好な結果が得られた場合、その結果をもって企業による明細胞肉腫と胞巣状軟部肉腫に対する世界初の承認申請を目指しています。

今回の医師主導治験は、国立がん研究センター希少がんセンター、学会による疾患登録、および臨床試験グループのネットワークを有効に活用し、症例集積が困難な超希少がんの治療開発で有用と考えられるベイズ流臨床試験計画(注4)に基づき新規治療開発を行います。また、日本医療研究開発機構臨床研究・治験推進研究事業「がん領域Clinical Innovation Network事業による超希少がんの臨床開発と基盤整備を行う総合研究(主任研究者:乳腺・腫瘍内科 米盛 勧)」の支援を受けて実施するもので、ニボルマブについては小野薬品工業株式会社から治験薬として無償提供されます。

本試験の詳細は、こちらよりご確認ください。なお、本試験に関する問い合わせは、下記の「医師主導治験に関するお問い合わせ」までご連絡ください。

今回の医師主導治験の意義

明細胞肉腫および胞巣状軟部肉腫は極めてまれながん腫であり、これらのがん腫に対する企業主導の新規治療開発は現時点では期待できない状況です。その一方で、いずれのがん腫も既存の治療法による治療成績の向上は難しく、従来と作用機序が全く異なる新規治療薬の開発が強く望まれています。

近年、国(厚生労働省)の指示により、ナショナルセンターが各疾患領域における全国的な患者・サンプル・診療情報集積の基盤を構築し、国内外の製薬・医療機器企業・ベンチャー企業の臨床開発を促進する取り組みが始まっています。がん領域では国立がん研究センターが主体となり、希少がんに焦点を当てた取り組みを進める予定です。また、本試験を通して日本の魅力的な開発基盤を世界に発信することで、わが国の希少がん領域の臨床開発の活性化に貢献できると考えています。

明細胞肉腫または胞巣状軟部肉腫に対する免疫チェックポイント阻害剤の有効性

明細胞肉腫または胞巣状軟部肉腫の一部では病気の原因として、ニボルマブの有効性が確認された悪性黒色腫および一部の腎細胞がんと同様に、腫瘍の増殖に関与する転写因子(Microphthalmia Transcription Factor、MITF)の発現が認められることから、これらのがんは新たな疾患区分であるMITF-associated tumor(注6)として分類されています。この疾患グループは腫瘍に対する宿主の免疫反応性に類似性が示唆されているため、明細胞肉腫ならびに胞巣状軟部肉腫に対してもニボルマブは有望な新規治療法として期待されています。
また、ニボルマブの類薬が明細胞肉腫の再発例に対して奏効したという報告もあります。

背景

希少がんの臨床開発は、患者さんの数が極めて少ないことや、対象となる疾患の患者さんの情報を集約する仕組みが十分に構築されていないことから、患者登録に長い年月を要し、ランダム化比較試験(注5)を実施することが困難です。また、承認申請の主たる評価資料として認められる臨床試験計画が不明瞭であることや、投資に見合った収益を承認後に得にくいこと等の理由から、企業による開発が積極的に行われていません。

明細胞肉腫と胞巣状軟部肉腫に対する治療法

明細胞肉腫に対しては、手術による完全切除が治癒をもたらす唯一の治療法と考えられています。切除不能の場合には、NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ガイドライン上でも推奨される薬物療法は存在しておらず、局所療法の適応にならない明細胞肉腫においては緩和療法のみが実施されています。

胞巣状軟部肉腫に対しても、やはり手術による完全切除が基本的な治療法になります。切除不能の場合は、分子標的薬であるスニチニブが唯一NCCNガイドラインで推奨されているものの、日本国内ではスニチニブの肉腫への適応は認められていません。同系統の血管新生阻害薬であるパゾパニブの効果が期待されていますが、胞巣状軟部肉腫に対する効果については試験ごとで報告されたデータにばらつきがあり、一定の見解を得られていません。したがって、局所療法の適応にならない胞巣状軟部肉腫に対しても基本的には緩和治療のみが実施されています。

希少がんセンターでは明細胞肉腫と胞巣状軟部肉腫について解説しています。

ニボルマブについて

ニボルマブは、わが国を中心にシーズ探索、創薬、臨床開発まで行われてきた薬剤です。

がん細胞に発現したPD-L1(programmed death ligand 1)やPD-L2は、リンパ球に発現する受容体PD-1(programmed death 1)と結合し、抑制性のシグナルを送ることでリンパ球のがん細胞に対する攻撃を弱めています。ニボルマブは、免疫チェックポイントと呼ばれるブレーキ役の部分(PD-L1とPD-1の結合)を阻害する薬(免疫チェックポイント阻害剤)です。ニボルマブがPD-1と結合することで、PD-1とPD-L1およびPD-L2との結合を抑制します。これにより、がん細胞のリンパ球機能へのブレーキを解除し、がん細胞に対するリンパ球の攻撃能を高めることでがん細胞を減少もしくは死滅させることができると考えられています。

ニボルマブは製薬企業の小野薬品工業株式会社およびブリストル・マイヤーズスクイブ株式会社により、さまざまながん腫を対象に臨床開発が進められています。第3相試験において、悪性黒色腫、非小細胞肺がんおよび腎細胞がんではがんの縮小効果が見られ、いずれも既存の抗がん剤による治療と比較して延命効果が優れていることが示されました。また、古典的ホジキンリンパ腫を対象にした第2相試験においてもがんの縮小効果が見られました。これらの臨床試験の結果をもとに、日本国内では悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がんおよび古典的ホジキンリンパ腫の治療薬として厚生労働省に承認されています。

用語解説

注1:希少がん

一般に10万人あたり6人未満の推定罹患率の疾患を指します。希少がん全体では全がん患者推定罹患率の9%から22%を占めますが、それぞれの希少がん疾患は、非希少がんの8分から10分の1の推定罹患率であり、研究・薬剤開発がなかなか進まない状況にあります。本試験の対象疾患である明細胞肉腫や胞巣状軟部肉腫のように年あたりの発症頻度が100万人あたり数名程度のがんは、希少がんの中でも発症頻度のより少ない超希少がんに該当します。

注2:明細胞肉腫

悪性軟部肉腫の約1%を占める腫瘍で、全国骨・軟部腫瘍登録によると2013年に国内で新規に発症した症例数は8例です。20歳代から30歳代に好発し、男女比はわずかに女性に多い傾向がみられます。皮膚や四肢(特に下肢)などの軟部組織に好発し、Malignant Melanoma of Soft Partsとも呼ばれています。約40%は足や足関節部の腱または腱膜から発生します。明細胞肉腫の90%以上では、染色体転座による融合遺伝子の形成が特徴的にみられます。融合遺伝子より作られた融合蛋白はがん抑制遺伝子の転写活性能を抑制し、がん化に関与するものと考えられています。

注3:胞巣状軟部肉腫

悪性軟部肉腫の約1%を占める腫瘍で、全国骨・軟部腫瘍登録によると2013年に国内で新規に発症した症例数は10例です。若年成人に好発し、比較的女性に多く発症します。明細胞肉腫と同様に四肢、大腿前面や臀部などの深部軟部組織に多く発生し、染色体転座による融合遺伝子の形成がみられます。

注4:ベイズ流臨床試験計画

統計理論のひとつであるベイズ統計学に基づいて設計された臨床試験計画であり、一般的な臨床試験計画とは、必要症例数の設定方法や有効性および安全性データの評価方法が異なります。例えば、本試験の対象である明細胞肉腫と胞巣状軟部肉腫は超希少疾患であるため、その症例集積が極めて困難になると予想されます。一般的な臨床試験計画の場合、目標症例数に到達するまで臨床試験を継続する必要があり、ときに試験実施期間が非常に長くなる場合もあります。これに対して、ベイズ流臨床試験計画は、試験開始前に最小症例数と最大症例数を設定し、登録症例数がこの範囲内であれば有効性および安全性を評価することができる試験計画です。このように、ベイズ流臨床試験計画は一般的な臨床試験計画よりも柔軟な評価が可能であることから、症例集積が非常に困難な超希少がんの治療開発では有用であると考えています。

注5:ランダム化比較試験

複数の治療法の有効性および安全性を比較するために実施される臨床試験であり、試験参加者はいずれかの治療法にランダムに割り当てられます。ランダム化比較試験からは科学的に信頼性のある結果が得られますが、その必要症例数は数百例から数千例であることが多いため、希少疾患領域でランダム化比較試験を実施することは困難であると考えられています。

注6:MITF-associated tumor

Microphthalmia Transcription Factor(MITF:小眼球症関連転写因子)は小眼球症を呈するマウスから同定されたことより命名された遺伝子であり、メラノサイトや網膜色素上皮細胞の発生や分化を制御していることが知られています。MITF、TFEB(Transcription Factor EB)、TFEC(Transcription Factor EC)、TFE3(Transcription Factor E3)の4種の転写因子の総称をMITF Familyと呼び、明細胞肉腫および胞巣状軟部肉腫では、ほぼ全てにMITF familyの発現が認められます。明細胞肉腫、胞巣状軟部肉腫以外にもMITF-associated tumorとして、悪性黒色腫や一部の転座腎明細胞がんなどが挙げられています。一般的にMITF-associated tumorは化学療法や放射線療法に強い抵抗性を示します。

プレスリリース

  • 企業主導開発が困難な超希少がんの臨床試験計画や新薬開発手法の確立を目指す 明細胞肉腫と胞巣状軟部肉腫の医師主導治験を開始

関連ファイルをご覧ください。

報道関係からのお問い合せ先

  • 医師主導治験に関するお問い合わせ
    国立研究開発法人 国立がん研究センター 臨床研究支援部門 臨床研究支援室
    郵便番号:104-0045 東京都中央区築地5-1-1
    電話番号:03-3542-2511(内線5661)
    Eメール:NCCH1510_OSCAR_office●ml.res.ncc.go.jp(●を@に置き換えください)
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    郵便番号:104-0045 東京都中央区築地5-1-1
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    ファクス番号:03-3542-2545
    Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えください)

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