コンテンツにジャンプ
国立がん研究センター

トップページ > 広報活動 > プレスリリース > 青森県のがん検診での見落としに関する報道について

青森県のがん検診での見落としに関する報道について

国立研究開発法人国立がん研究センター
2017年7月13日

2017年6月29日のNHKニュースにおいて、青森県のがん検診について以下の報道がされました。

「がんによる死亡率が12年連続で全国最悪の青森県は、がんの早期発見につなげようと県内の10の町と村で自治体のがん検診を受けた人を対象に調査したところ、胃がんと大腸がんについて検診の段階で患者の4割が見落とされていた可能性があることを示す分析結果をまとめました。」

報道された数値はごく予備的な数値に基づいて算出されておりますので、慎重に解釈し、適切な判断を行う必要があると考えます。がん検診は、がん対策の重要な施策のひとつであり、この報道に対して、国立がん研究センターとしての見解を示します。

国立がん研究センターの見解

概要

1.報道の背景について

今回の報道は、青森県が行った「がん登録データの活用によるがん検診精度管理モデル事業 平成28年度 報告書*」の調査結果をもとに行われています。この事業は、がん登録データを用いて市町村のがん検診の精度管理体制構築を進めるものです。それとは別に、報道では事業の中で副次的に得られた数値から「見落とし」の割合を算出していますが、数値の解釈にはより慎重な判断が必要であると考えます。

青森県がん情報サービス(*報告書は以下をご参照ください。)
http://gan-info.pref.aomori.jp/public/index.php/c10/2922-2017-07-07-08-54-41.html外部サイトへのリンク

2.青森県が行った事業について

青森県は全国に先駆けてがん登録データの活用に関する調査を行い、結果を公表しました。都道府県が積極的に各自の情報を活用し、がん対策に取り組むことは重要であり、今後の参考となるような報告を行ったことは評価すべきです。

3.報道された「見落とし」について

本調査により示されている見落としの割合は、10市町村での予備的なものであり、40市町村ある青森県全体の実態を反映するものではありません。また、調査期間が短く、症例数が10例以下と少なく、さらには見落としに含めるべきではない症例も含められている可能性があります。 これらを踏まえると、報道のように、今回の調査結果から検診の見落としについて評価することは困難であり、さらなる検討が必要と考えます。

詳細

1.がん検診の評価について

がん検診の評価を行う際に、「感度」という指標が用いられます。がん検診の感度とは、がん検診受診者に発生したがんのうち、どのくらいの割合が検診で発見されたかを表す指標です。一般に、検診で発見されたがんの数÷(検診で発見されたがんの数+偽陰性がんの数)で算出されます。偽陰性というのは、本当はがんがあるのに検診で陰性となった、つまり偽の陰性ですが、これが「見落とし」に該当します。偽陰性にはいろいろな定義がありますが、現在の国際標準の定義は「検診を受診し陰性(異常なし)とされた者でその後一定の間隔で定められた次の検診までの間(2年間など)に診断されたがん」となっています。がん検診で陰性となった人がその後がんと診断されたかを全て把握するのは難しいですが、がん登録では基本的には診断されたすべてのがん罹患が登録されるため、検診受診者の情報とがん登録の情報を照合することでこれが可能になります。

がん検診の感度ですが、有効性が認められている手法によるがん検診(注:国が推奨する対策型がん検診)での感度は、例えば乳がん検診においては70%から85%前後です。がん検診では「見落とし」は最小限に抑えることが求められますが、ゼロにはできません。検診の感度を上げて「見落とし」を抑えることにのみ注目すると、逆に、がんではないのにがん疑いとされる受診者(偽陽性者)が多く発生することになります。

一方、がん検診の評価の重要な指標として「特異度」があります。がん検診の特異度とは、がん検診受診者のうち、がんでない方をがんでないと正しく判定されたかを示す指標です。がんでない方をがん疑いとしてしまう偽陽性の多いがん検診は、「特異度」が低いことになります。偽陽性の判定は、受診者に心理的負担とともに、精密検査という侵襲の高い検査を課すことになるため、「がん検診の不利益」として問題視されています。健常者を対象とする検診では、偽陽性を最小化することが原則です。

2.青森県「がん登録データの活用によるがん検診精度管理モデル事業」の目的とがん対策における位置付け

これまで、青森県はがん登録データをがん検診の精度管理に用いてきませんでしたが、今後の本格的ながん検診の精度管理評価に、がん登録データを利用するための問題点の抽出と体制整備を目的として、今回の事業が実施されています。対象自治体が限定されていることや、がん症例数が少ないことによる算出値の不安定性や解釈上の問題点についても、前述の通り青森県事業「がん登録データの活用によるがん検診精度管理モデル事業 平成28年度報告書」で明記されています。

3.青森県「がん登録データの活用によるがん検診精度管理モデル事業」で算出された感度を解釈する上で注意すべきこと

今回公表された感度は、胃がん60.0%、大腸がん57.1%、肺がん83.3%、乳がん85.7%、子宮頸がん71.4%で、報道ではこれらを100%から引いた値を「見落としの割合」としていますが、以下の理由より、適切ではないと考えます。

1)事業対象自治体が少なく、がんの数が非常に少ない

事業対象が10町村のみで実施されています。5種類のいずれのがんにおいても感度計算の分母になるがんの数が10例以下であり、検診発見がんであったか、偽陰性であったかが1例違うだけで率は大きく変動します。数が少ない報告から算出された数字は少しの違いで大きく変わるため、これだけで評価することは不適切です。また、今回事業対象とされた10町村の対象人口は、青森県全体の約6%ですので、青森県全体を表す指標としても不十分です。より多くのがんの数、つまり人口に対する割合を大きくカバーする検討対象数が必要です。これらより、今回の報道における感度、あるいはそれを100%から引いた「見落としの割合」は極めて不安定な数字であり、それに基づき判断することは適切ではありません。

2)十分な観察期間が確保できていない

平成23年度(平成23年4月1日~平成24年3月31日)のがん検診受診者(健康増進事業)に対して、平成23年、24年(平成23年1月1日~平成24年12月31日)に診断されたがん罹患者を照合しています。そのため、受診者によっては受診時期からの観察期間が短く、精密検査中であることなどから、がんであっても計上されない可能性があります。この場合、検診による発見がんは感度計算の分母にも分子にも計上されず、感度の過小評価につながります。

3)偽陰性(見逃し)として計上されたがんに偽陰性として計上するべきでないがんが含まれている

「見落とし」として本来計上されるべきがんは、国際標準の定義では、「検診を受診し陰性(異常なし)とされた者でその後一定の間隔で定められた次の検診までの間(2年間など)に診断されたがん」とされています。一方、検診の後に無症状で受診した医療機関で偶然がんが発見された場合は、小さい早期がんのことが多く、次回の検診で見つけられる可能性が高いため、偽陰性(見落とし)には含めるべきではないという考えもあります。その考えに従うと、今回の事業で扱われたデータは、このようながんも偽陰性とされてしまいますので感度の過小評価となります。
「見落としの割合」の算出においては、照合の期間を十分とることや、偽陰性とされたがんの診断契機を確認することに加え、今後対象自治体を拡大して判断することが必要です。このことは青森県事業「がん登録データの活用によるがん検診精度管理モデル事業 平成28年度報告書」に明記されています。

参考

報道関係からのお問い合せ先

国立研究開発法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置きかえてください)

ページの先頭へ