がん患者の人生の最終段階における苦痛や療養状況に関する
初めての全国的な実態調査の結果を公表
2018年12月26日
国立研究開発法人 国立がん研究センター
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、東京都中央区)がん対策情報センター(センター長:若尾文彦)は、厚生労働省の委託事業として、全国のがん患者の遺族等約4,800名を対象に、患者が亡くなる前に利用した医療や療養生活の実態について予備調査を行い、その結果をまとめました。がん患者の人生の最終段階における苦痛や療養状況に関する全国的な遺族調査(注)は、今回の予備調査が日本で初めてのものになります。
また、2019年には約50,000名を対象に本格調査を行い、予備調査と同様の集計に加え、死亡場所や都道府県別の集計も予定しています。
(注)疾病を抱える患者が亡くなる前(人生の最終段階)の医療の実態は、患者本人に対し直接調査を実施することが難しいことから、周囲で寄り添っていた家族の視点を通して、評価する手法(遺族調査)が世界的に標準的な方法となっています。
予備調査結果のポイント
- 亡くなった場所で受けた医療や介護サービス全般への満足度
がん患者の人生の最終段階において、「亡くなった場所で受けた医療に全般的に満足している」、「必要な介護保険を十分にうけることができた」と感じる遺族の割合が全般的に高い傾向にあり、医療・介護サービス全般に対する満足度は高いことが示されました。 - 亡くなる前1カ月間の療養生活の質
死亡前1カ月間を、痛みがある状態で過ごしていた患者は3割程度、気持ちのつらさを抱えている患者は3割程度おり、多くの患者が体の苦痛や気持ちのつらさを抱えていることが示されました。 - 家族の介護負担感や死別後の抑うつ症状
「介護について全般的に負担感が大きかった」割合が4割、患者の死亡後に抑うつ等の高い精神的な負担を抱えるものの割合が2割弱と、家族の介護負担やその後の精神的な負担が高いことなどが示されました。
予備調査の結果から、人生の最終段階における患者や家族の苦痛の緩和が難しい場合が多く、より一層の対策の推進が必要であることが示唆されました。
調査概要
今回の予備調査では、2016年の人口動態調査の死亡票情報から「がん」「心疾患」「肺炎」「脳血管疾患」「腎不全」で亡くなった患者のご遺族4,812名を対象に、2018年2月から3月の期間に郵送によるアンケート調査を実施しました。アンケートの内容は、遺族から見た「医療やケアの質」「亡くなる前1カ月間の患者の療養生活の質」「亡くなる1週間前の時点での患者の痛みや苦痛」に加えて、「家族の介護負担やその後の精神的な負担」なども含めたものになっております。がんを含めた様々な疾患に対する初めての全国規模の遺族調査でしたが、有効回答(率)は2,295名(47.7%)であり、調査に対するご遺族の理解や協力が一定程度得られたと考えています。
主要な結果
1.亡くなった場所で受けた医療の質
- 疾患別の「医療者は患者の苦痛症状に速やかに対応していた」割合は72.0%から83.7%(図1)であることが分かりました。
- 「亡くなった場所で受けた医療に全般的に満足している」割合は62.6%から78.7%(図2)であり、疾患によって結果にばらつきがありました(注)。
がん患者では、8割程度の方々が、苦痛症状について医療者に速やかに対応してもらったと感じ、また、亡くなった場所で受けた医療に対して全般的に満足している方が少なくないという結果でしたが、満足が得られなかった理由を検討し、医療を改善していく対策の必要性が示唆されました。
2.在宅訪問診療・介護保険の利用満足度
- 在宅訪問診療や介護保険サービスの利用について、疾患別の「在宅訪問診療を利用して必要な支援を十分に受けることができた」割合は73.1%から87.2%
- 死亡前6カ月間に「必要な介護保険を十分に受けることができた」割合は79.5%から86.8%であり、在宅訪問診療や介護保険の利用者の満足度は高いことが分かりました。
- 一方で、死亡前6カ月間に介護保険を利用したことがない人の利用したことがない理由として、申請したが利用できなかった方が21.0%おり、介護保険の利用についても検討する必要あることが示唆されました。
3.亡くなる前1カ月間の療養生活の質, 亡くなる1週間前の時点での痛みや苦痛
- 亡くなる前1カ月間の患者の療養生活の質について、疾患別の「痛みが少なく過ごせた」割合は47.1%から52.3%(図3)、「身体の苦痛が少なく過ごせた」割合は46.5%から50.6%(図4)であることが分かりました。
- 「穏やかな気持ちで過ごせた」割合は49.0%から57.9%(図5)であることが分かりました。
調査対象となった全ての疾患で、
- 死亡前の1カ月の間を痛みがある状態で過ごしていた患者は3割程度
「痛みが少なく過ごせた」という問に対して:
・全くそう思わない 5.1%
・そう思わない 9.2%
・あまりそう思わない 7.7%
・どちらともいえない 11.0%
・ややそう思う 16.7%
・そう思う29.0%
・とてもそう思う 5.5%
・欠損15.7%
のうち「全くそう思わない」から「どちらともいえない」の合計が33.1% - 痛みを含めた身体の苦痛がある状態で過ごしていた患者は4割程度
「身体の苦痛が少なく過ごせた」という問に対して:
・全くそう思わない5.7%
・そう思わない10.2%
・あまりそう思わない10.0%
・ どちらともいえない12.1%
・ ややそう思う16.6%
・そう思う26.8%
・ とてもそう思う4.6%
・ 欠損14.0%
のうち「全くそう思わない」から「どちらともいえない」の合計が38.0%
- 気持ちのつらさを抱えている患者は3割程度
「穏やかな気持ちで過ごせた」という問に対して:
・全くそう思わない3.6%
・そう思わない7.6%
・あまりそう思わない7.8%
・どちらども言えない13.1%
・ややそう思う17.2%
・そう思う27.4%
・とてもそう思う8.5%
・欠損14.8%
のうち「全くそう思わない」から「どちらどもいえない」の合計が32.2%いることが明らかになりました(注)。
がん患者においては、
- 亡くなる1週間前の時点で、3割程度の方々が強い痛みを抱えていることが明らかになりました
・とてもひどい10.7%
・ひどい16.7%
・まあまあ18.7%
・少し16.9%
・なし18.2%
・わからない
・欠損18.7% のうち「とてもひどい」と「ひどい」の合計が27.4% - 人生の最終段階にあるがん患者のうち3から4割程度の方々が、痛みを含めた身体の苦痛や気持ちのつらさを抱えており、治療や緩和ケアの対策が必要であることが示唆されました。
4.家族の介護負担感や死別後の抑うつ症状
- 家族の介護体験について、疾患別の「介護をしたことで負担感が大きかった」割合は42.1%から46.6%(図6)でした。
- 死別後に抑うつ症状に悩まされている割合は9.9%から16.7%(図7)であることが分かりました(注)。
死別後の家族が抑うつ症状を有する割合は、一般人口と比べて高く、家族へのケアについても対策を検討する必要があることが示唆されました。
5.調査に関するご遺族の方のご理解
- 予備調査の有効回答(率)は2,295名(47.7%)に加えて、遺族調査として、「このようなアンケートを行い、医療を改善していくことは良いことだと思う」と答えたご遺族は、86.1%
・そう思わない2.9%
・あまりそう思わない6.9%
・少しそう思う24.3%
・そう思う61.8%
のうち「少しそう思う」から「そう思う」の合計が86.1%でした。
ご遺族の方々からアンケートに対する一定程度のご理解とご協力が得られたことと、その反面ご遺族の気持ちに即した一層の配慮が必要であることが示唆されました。
(注):疾患別の結果について慎重に取り扱いください。
疾患別の結果(図1から7)については、今回の予備調査ではがん以外の対象者数が限られているため、参考値としてお示ししています。対象者数500名以下では、割合の誤差が非常に大きいとともに、各対象の状況が異なるため、単純な比較は困難であり、疾患別の結果は参考値とすべきであると考えています。疾患別の比較は、2019年以降に予定されている本格調査の結果を踏まえる必要があり、また、正確な評価のためには、時系列で調査することも重要です。
まとめ
今回の予備調査で、ご遺族の方々への心情に配慮しながら、人生の最終段階の医療の実態を把握するための本格調査につながる多くの知見を得ることができました。今回の調査からみえてきたことは、患者の人生の最終段階において、医療者は患者の苦痛を取り除くために速やかな対応に努めている状況が推測され、医療に対する満足度は高くある一方で、必ずしも全ての人の苦痛が十分に取り除かれていない現状が示唆されました。今後は、これらの苦痛を軽減するため、必要となる緩和ケアや医療に関する施策や研究について、より一層進めていくことが重要と思われます。
引き続き、国立がん研究センターでは、2019年に実施する本格調査を通じて、がんと他疾病との比較や、地域ごとの人生の最終段階の医療について明らかにしていきたいと考えています。
末筆にはなりますが、本調査にご協力頂きましたご遺族及びご関係者の皆様に、この場を借りて深く感謝を申し上げます。
2019年実施の本格調査の概要(予定)
2019年に実施する本格調査は、無作為で選出した全国約50,000名のご遺族へご協力をお願いする予定です。設問は予備調査と同様に、がん等の疾患に罹患した患者さんが亡くなる前に利用した医療や生活状況、ご遺族が介護を通して感じたこと等の集計に加えて、各疾患の死亡場所別や、がんで亡くなられた方の都道府県別の集計も予定しています。
調査対象者
人口動態調査の死亡票の情報を用いて、2017年に、「がん」、「心疾患」、「肺炎」、「脳血管疾患」、「腎不全」で亡くなられた患者さんの中から、無作為に選ばれた約50,000名のご遺族の方々に対して、調査票を送付します。
調査項目
患者の方々が亡くなる前に受けた医療や療養生活、ご遺族の方々が介護を通して感じたこと等についてお伺いします。例えば、患者さんが実際に受けられた医療の質や療養生活の状況、患者さん自身の医療に関する希望、ご遺族の介護体験などに加えて、がん以外の患者さんのより詳しい状況や、介護に関するより詳しい集計をするための設問を設定し、「大切な最期の時間をより良く過ごすための医療」の実現に向けたご意見をお伺いします。
調査票送付期間・返送期間
調査票は、2019年1月末から2月上旬頃より順次送付し、調査票の到着から2週間を目安に返送いただく予定としています。
回答方法
選択式で実施します。また、自由に意見を記入していただく欄も設けています。
解析・結果の報告
回答いただいた調査票は、匿名で回収し、国立がん研究センターがん対策情報センターで集計を行います。調査の結果は、厚生労働省に報告書として提出するほか、当センターがん対策情報センターのホームページや、論文等で公表の予定です。
本調査の詳細・調査報告書
参考
- 2018年1月26日 プレスリリース
患者さんが亡くなる前に利用した医療や療養生活の実態を調査ご遺族約4800名を対象に全国調査実施
報道関係のお問い合わせ先
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