科学的根拠に基づくわが国の子宮頸がん検診を提言する「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」更新版公開
2020年7月29日
国立研究開発法人国立がん研究センター
発表ポイント
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「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」2009年度版公開後の新たな研究の科学的根拠を検証し、わが国で推奨する子宮頸がん検診ガイドラインとして提言をまとめました。
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新たに、検診対象年齢と検診間隔、検体採取法を明示しました。また、従来より推奨している細胞診に加え、HPV(ヒトパピローマウイルス)検査単独法も推奨としました。HPV検査については判定結果毎の診療アルゴリズムが国内では未確定のため、検診としての導入には、その構築が必要です。
国立研究開発法人国立がん研究センター(所在:東京都中央区、理事長 中釜斉)社会と健康研究センターは、科学的根拠に基づくがん検診を推進するために、がん検診に関する国内外の研究を検証し、検診の利益と不利益を勘案した「有効性評価に基づく検診ガイドライン」として提言をまとめています。
これまで、大腸がん(2005年)、胃がん(2006年、2015年)、肺がん(2006年)、前立腺がん(2008年)、子宮頸がん(2009年)、乳がん(2014年)の検診ガイドラインをまとめ、これらは厚生労働省における「がん検診のあり方検討会」において、対策型がん検診の検討の際の資料として用いられています。
「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」は、2009年度版を公開後10年が経過しており、その間に報告された子宮頸がん検診に関する新たな研究の科学的根拠を明確にまとめることが求められていました。
国立がん研究センター社会と健康研究センター検診研究部は、2009年度版公開後に報告された研究を検証し、わが国で実施すべき子宮頸がん検診方法を「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」更新版としてまとめ7月29日に公開しました。
科学的根拠に基づくがん検診推進のページ
国立がん研究センター 社会と健康研究センター 検診研究部
子宮頸がんについて
子宮頸がんは、日本では1年間に約11,000人が診断されます。子宮頸がんと診断される人は20歳代後半から増加して、40歳代でピークを迎え、その後横ばいになります。
子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papilloma Virus)の感染が関連しています。HPVは、子宮頸がんなどを引き起こすウイルスですが、HPV感染者のほとんどは一過性の感染で、2から3年以内に感染が自然消失します。ごく一部で感染が持続し、数年から数10年の長い時間をかけて、前がん病変(異形成 注1)を経て、子宮頸がんになります。軽度の前がん病変の80%はがんに進展せず、一部は自然に消えてなくなります。早期の子宮頸がんでは、自覚症状がほとんどありません。
「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン更新版」について
検討対象
更新版では、HPV検査単独法、細胞診・HPV検査併用法の2つについて、利益(子宮頸部浸潤がん罹患率減少効果)と不利益を中心に検討を行いました。細胞診単独法は2009年度版ですでに検討済みのため、今回の検討対象からは外しましたが、不適正検体割合・対象年齢・検診間隔について検討しました。
細胞診
子宮頸部(子宮の入り口)を、先にブラシのついた専用の器具で擦って細胞を採り、異常な細胞を顕微鏡で調べる検査です。前がん病変と子宮頸がんを発見できます。
HPV検査
細胞診と同様に子宮頸部から専用器具で採取しHPV-DNAを検出することで感染しているかどうかを調べる検査です。
更新版における子宮頸がん検診の推奨グレード(ガイドライン更新版 P33)
1. 細胞診単独法<従来法・液状検体法>(推奨グレードA)
30から64歳での浸潤がん罹患率減少効果の確実なエビデンスがあり、65から69歳でのエビデンスも担保できる。20代についてのエビデンスは乏しいが効果を否定できない。細胞診の不適正検体割合は、採取器具の進歩や採取医の意識向上により改善している。液状検体法では不適正検体割合のバラツキが小さく更に減少が期待できる。対策型検診・任意型検診 注2としての実施を勧める。検診対象は20から69歳、検診間隔は2年が望ましい。検体は医師採取のみとし、自己採取は認めない。不適正検体割合が高い場合、採取器具の変更や液状検体法を利用する。
2. HPV検査単独法(推奨グレードA)
浸潤がん罹患率減少効果のエビデンスがある。評価した研究で得られた効果は、HPV陽性者に対する長期の追跡を含む精度管理体制の構築が前提であり、追跡が遵守できない場合は効果が細胞診単独法を下回る可能性がある。検診の間隔を2から3倍に延長することが可能である。ただし、細胞診単独法に比べて偽陽性が大幅に上昇し、1,000人あたりの偽陽性は42人増加する。対策型検診・任意型検診としての実施を勧めるが、わが国で統一された検診結果毎の診断アルゴリズムの構築が必須条件である。検診対象は30から60歳とし、検診間隔は5年が望ましい。検体は医師採取を原則とする*。
3. 細胞診・HPV検査併用法(推奨グレードC)
浸潤がん罹患率減少効果のエビデンスがある。評価した研究で得られた効果は、HPV陽性者に対する長期の追跡を含む精度管理体制の構築が前提であり、遵守できない場合は、効果が細胞診単独法を下回る可能性がある。検診の間隔を2から3倍に延長することが可能である。ただし、細胞診単独法に比べて偽陽性が更に上昇、1,000人あたりの偽陽性は101人増加し、3つの手法のなかで最大となる。対策型検診・任意型検診として以下の条件が満たされた場合にのみ実施すべきである**。細胞診は液状検体法を原則とし、検体は医師採取を原則とする。検診対象は30から60歳、検診間隔は5年が望ましい。
*:HPV検査単独法の自己採取法については、国内でのエビデンスが不足しており、受診率向上につながるか、精密検査以降のプロセスにつながるかなどのfeasibility研究が必要である。
**:液状検体の残りを用いHPVサブタイプでのトリアージをするなど受診者の不利益を最小化する方法の確立と対象年齢・検診間隔の遵守、アルゴリズムに精通した婦人科医の確保を条件とする。
2009年度版からの主な変更点
1.検診対象年齢と検診間隔の明示
2009年度版では明示していなっかた検査対象年齢と検診間隔について、更新版では明示しました。
細胞診単独法の検診対象は20から69歳、検診間隔は2年を推奨しました。上限年齢は、それまでに子宮頸がん検診を受診し続けた場合は80歳程度までの死亡減少効果が持続するという証拠を認めたため提示しました。HPV検査単独法の検診対象は30から60歳、検診間隔は5年を推奨としました。上限年齢は、浸潤がん罹患率の減少が60歳以上では有意でないこと、HPV新規感染率が60歳以上で低いことから提示しました。
2.採取法の明示
2009年度版では明示していなかった採取方法について、更新版では有効性評価および不利益の観点から検討し、明示しました。
細胞診については、これまで精度の低い自己採取法が特に職域検診で行われてきましたが、検体採取率が10%前後と低く、これに対し更新版では、「検体は医師採取のみとし、自己採取は認めない」と明示しました。
HPV検査は、自己採取の場合、精度は医師採取よりも大幅に低下するものではないものの受診意欲の向上にはつながる可能性があるため、「検体は医師採取を原則とする」としました。ただし、自己採取でのHPV検査陽性例が婦人科受診につながるか否かは海外の文献上も明確ではなく、今回推奨とはしていません。国内での研究が必要です。
3.HPV検査単独法を推奨
2009年版では、細胞診は「死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、実施することを勧める」、HPV検査を含む検診は「証拠が不十分であるため、実施することは勧められない」という推奨を示しました。今回の更新版では、HPV検査の浸潤がん罹患率減少効果の科学的根拠を認め、これまでの細胞診検査に加えてHPV検査単独法が推奨されました。細胞診・HPV検査併用法については不利益としての偽陽性割合が多いことから条件付き推奨となりました。
HPV検査のメリットは、検診間隔を5年に拡大させることであり、検診間隔の順守が重要です。HPV検査は発がんの引き金となる感染をみる検査で陽性となった方に対しては長期的な経過観察が必要ですが、まだ国内統一の経過観察法・診療体制は確立されておらず、医療機関ごとに対応は様々です。令和元年度厚生労働科学研究費「わが国の子宮頸がん検診におけるHPV検査導入の問題点と具体的な運用方法の検討」班において最適な経過観察法を検討中です。
推奨グレードについて
推奨グレードは、対策型検診と任意型検診における実施の可否を示しています。推奨グレードは、各種がん検診の利益と不利益のバランスを考慮して決定します。がん検診の主たる利益は死亡率減少効果であり、研究の信頼性は証拠のレベルで示されています。一方、不利益とは、偽陰性率、偽陽性率、過剰診断、偶発症、放射線被曝、感染、受診者の心理的・身体的負担などがあります。
また、推奨グレードは、2014年度以前より3点の大きな変更があります。1)推奨Bの削除、2)推奨Cが「実施を推奨しない」から「条件付き推奨」へ変更、3)対策型検診と任意型検診をひとくくりにした推奨です。これまで推奨AとBは、有効性を評価する研究の手法で分けていましたが、実施を推奨するという点で区別がないことから推奨Aのみとしました。また推奨Cは対策型検診では実施を推奨しない、任意型検診では個人の判断に基づく受診は妨げないと、検診の体制により推奨を変えていましたが統一し、実施するにあたっての具体的な条件を設定しました。このことにより、対策型検診と任意型検診との差別化は必要なくなったことから、両者をひとくくりにして推奨しました。
用語説明
注1: 異形成(いけいせい)
細胞を顕微鏡などで観察して判断する際の病理学の用語です。細胞が「現状ではがんとは言えないががんに進行する確率が高い状態(前がん病変)」や「悪性・良性の境界にある状態(境界悪性)」であることを指します。現在CIN(Cervical Intraepithelial Neoplasia)とも呼ばれており、病変の程度により、CIN1、CIN2、CIN3に分類されます。かつての上皮内がんはCIN3に含まれています。
「がん情報サービス」 それぞれのがんの解説 >子宮頸がん
https://ganjoho.jp/public/cancer/cervix_uteri/treatment.html がん情報
注2: 対策型検診と任意型検診
対策型検診とは、集団全体の死亡率減少を目的として実施するものを指し、公共的な予防対策として行われます。このため、有効性が確立したがん検診を選択し、利益は不利益を上回ることが基本条件となります。わが国では、対策型検診として市区町村が行う住民検診が該当します。
一方、任意型検診とは、対策型検診以外の検診が該当しますが、その方法・提供体制は様々です。典型的な例は、医療機関や検診機関が行う人間ドックが該当しますが、保険者による予防給付や個人による受診選択など受診形態も様々です。検診方法の選択、精度管理などの問題がありますが、個々の受診者への対応が可能となるという利点もあります。
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