国際がんゲノムプロジェクトICGC-ARGOに「MONSTAR-SCREEN」が参加―プロジェクトの国際展開で、新たながん診断・治療開発のさらなる加速を目指す―
2021年5月17日
国立研究開発法人国立がん研究センター
International Cancer Genome Consortium-Accelerating Research in Genomic Oncology
in English
発表のポイント
- 2021年2月より国際がんゲノムプロジェクトICGC-ARGOに、広範な固形がんの患者を対象とした全国がん遺伝子診断ネットワーク「MONSTAR-SCREEN」が参加しました。
- 高品質な大規模データを所有するMONSTAR-SCREENが参加することにより、国際的データベースの構築への貢献と、患者さんに届くがんゲノム医療の発展に資することが期待されます。
- MONSTAR-SCREEN研究代表者の吉野孝之(東病院 消化管内科長)がICGC-ARGOの中枢を担うExecutive boardのメンバーに日本人で初めて選出されました。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)東病院(病院長:大津 敦、千葉県柏市、以下東病院)とInternational Cancer Genome Consortium-Accelerating Research in Genomic Oncology(代表理事:Andrew Biankin、英国、以下ICGC-ARGO)は、2021年2月より、国立がん研究センターが主導する産学連携がんゲノムスクリーニング事業SCRUM-Japan*1における、広範な固形がんの患者を対象とした全国がん遺伝子診断ネットワーク「MONSTAR-SCREEN(モンスター・スクリーン)」(研究代表者:東病院 消化管内科長 吉野 孝之)がICGC-ARGOに参加したことを共同で発表します。
ICGC-ARGOは、100,000症例のがんのゲノムデータを集積し、かつ同時に豊富な臨床情報とともに解析を行うことによって、がん撲滅に向けた重要かつ未解決の課題に取り組む国際的プロジェクトです。集積したデータを迅速かつ信頼性の高い方法で世界の共同研究グループ全体に共有することで、がんの原因と制御に関する研究を加速していきます。本プロジェクトに、高品質な大規模データを所有するMONSTAR-SCREENが参加することにより、国際的データベースの構築への貢献と、患者さんに届くがんゲノム医療の発展に資することが期待されます。
MONSTAR-SCREENは、治癒切除不能な固形がん患者の血液循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA: ctDNA)*2及び便を経時的かつ臓器横断的に解析し、がん関連遺伝子異常及び腸内細菌叢*3をプロファイリング・モニタリングする研究であり、2021年3月末までに約1,600例の患者が登録されています。さらに続く本研究のゲノム解析データにおいても、今後ICGC-ARGOへの提供が計画されています。
またMONSTAR-SCREENの研究代表者である東病院 消化管内科長の吉野孝之がICGC-ARGOの中枢を担うExecutive boardのメンバーに日本人で初めて選出されました。国際協調のもと、ゲノム解析データに質が高い臨床情報が付加されたビッグデータベース構築への協力と、それを利活用することによる世界レベルでの新たながん診断・治療技術の開発等を目指して研究を進めてまいります。
MONSTAR-SCREEN研究代表者 吉野 孝之 医師(東病院 消化管内科長)からのコメント:
「私たちの使命は、世界中の患者さんにとびっきりの笑顔を届けることです。今回、MONSTAR-SCREENがICGC-ARGOに参加することで、マルチオミックスのがん患者さんへの臨床応用に貢献できるものと信じています。」
ICGC Executive Director Andrew Biankin教授(University of Glasgow)からのコメント:
「ICGCは、科学的発見を実臨床につなげるべく次のステップに進んでいます。また、MONSTAR-SCREENは、日本および世界の患者さんにとっての前向きなステップです。そのMONSTAR-SCREENがICGC-ARGOに参加することは、世界のがん研究・治療の知識基盤構築に広く貢献することになります。」
ICGC-ARGOとは
ICGC-ARGOはゲノム情報の利活用により、がん患者における治療効果・予後の改善を目指したICGC*4のプロジェクトです。ICGCとして、10年間で50を超えるがんの種類を特徴付ける遺伝子変異のマッピングに成功し、2019年に新たにICGC-ARGOを開始しました。ICGC-ARGO はICGC 25k Initiative およびPan-Cancer Analysis of Whole Genomes (PCAWG)に続く、ICGCの第3フェーズになります。
2021年5月現在、日本を始め、米国・カナダ・英国(イングランド・スコットランド)・ドイツ・フランス・イタリア・スイス・韓国・中国・香港・サウジアラビアの13カ国が参加を表明しています。また、ICGC-ARGOには日本から国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)が支援する研究班も参加し、臨床情報の紐付いたがんゲノム情報の登録・共有を開始しています。
- ICGC-ARGOホームページ(クリックすると外部サイトにリンクします)
今後の展望
ICGC-ARGOが進める国際的全ゲノム解析データベース構築において、MONSTAR-SCREENが中心的な役割を果たすことで、日本のがん全ゲノム解析研究レベルの向上に貢献するとともに、日本主導のプロジェクトをグローバル展開していきます。また豊富な臨床病理情報が付加された全ゲノム解析データベースの利活用により、新たな耐性メカニズム・治療標的の発見やがん診断・治療技術の開発などを、世界との協調のもと加速させていきます。
用語解説
*1 SCRUM-Japan(Cancer Genome Screening Project for Individualized Medicine in Japan)
2013年に開始した肺がん患者さんを対象としたLC-SCRUM-Japan(現:LC-SCRUM-Asia)と、2014年に開始した消化器がん患者さんを対象としたGI-SCREEN-Japan(現:MONSTAR-SCREEN)が統合した、産学連携がんゲノムスクリーニングプロジェクト。2018年からは全固形がんに対象を拡大し、がんの遺伝子異常を解析し、適合する治療薬の開発治験への登録を促進しています。2015年2月の設立以降、2万例を超える進行固形がん患者さんが研究に参加。本プロジェクトの成果として、すでに9つの新薬と9つの体外診断薬の薬事承認を取得し、全国の患者さんに届けています。全国から200を超える医療機関と17社の製薬企業や検査会社が参画し、アカデミアと臨床現場、産業界が一体となって、日本のがん患者さんの遺伝子異常に合った治療薬や診断薬の開発を行っています。
*2 血液循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA: ctDNA)
血液中にごく微量に存在するがん由来の DNA。
*3 腸内細菌叢
ヒトの大腸には多数の雑多な腸内細菌が生育し、腸内細菌叢と呼ばれる集団を形成しています。
*4 ICGC(ICGC 25k Initiative,Pan-Cancer Analysis of Whole Genomes)
国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)は2007年に設立され、これまでに21,000以上の原発がんの包括的ゲノムデータセットを共同研究グループへ提供しています(ICGC 25K Initiative)。また、Pan-Cancer Analysis of Whole Genomes (PCAWG)はICGCの第2フェーズであり、700人以上の研究者による国際共同研究により、60種類以上のがんに共通する遺伝子変異パターンを特定しています。
取材・報道関係からのお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)
電話番号:04-7133-1111(代表) FAX:04-7130-0195
Eメール:ncc-admin@ncc.go.jp
International Cancer Genome Consortium-Accelerating Research in Genomic Oncology
Secretariat, College of Medical, Veterinary & Life Sciences, Institute of Cancer Sciences, University of Glasgow, Bearsden G61 1QH Scotland
Eメール:secretariat@icgc-argo.org