国際がん研究機関と共同研究開始 生活習慣とがんサバイバーの生活の質や予後との関連を調査科学的根拠を蓄積しがんサバイバーの生活の質の向上を目指す
2022年7月21日
国立研究開発法人国立がん研究センター
In English
発表のポイント
- 国立がん研究センターと国際がん研究機関は、それぞれ保持する日本と欧州のコホート研究基盤と公的統計を利活用し、がん罹患前からがん罹患後までを包括的に捉え長期追跡をする新たな共同研究を開始します。
- 本研究では、これまで十分に研究されていなかった、がん罹患以前の生活習慣ががんの診断や予後に与える影響、治療やがんサバイバー*1の生活習慣と予後*2や生活の質改善との関連についての科学的根拠の創出に取り組みます。
- 必要な情報の連結が現状では困難な日本においては、コホート研究や全国がん登録情報などを組み合わせたプラットフォームの構築を目指します。
- 本研究の実施にあたり、国立がん研究センターと国際がん研究機関の双方に両者が共同運営するLTS室(Population-Based Long-Term Surveillance Team)を新設しました。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区、以下NCC)は、世界保健機関(WHO)の附属機関でがん研究を担う国際がん研究機関(所長:Elisabete Weiderpass、リヨン(フランス)、International Agency for Research on Cancer、以下略称: IARC)と共同で、生活習慣とがんサバイバーの生活の質や予後との関連を調査し、がんサバイバーの生活の質の改善を目指す共同研究を開始します。
本研究は、NCCとIARCが保持する日本と欧州のコホート研究基盤を活用し、日本のコホート研究基盤JPHC14万人とJPHC-NEXT11万人、EPIC52万人の対象者のうちのがんサバイバーを対象にします。世界でも平均寿命が長く、がんサバイバーも多い日本と欧州が連携することで、大規模かつ民族差異も考慮した科学的根拠を蓄積し、世界中のがんサバイバーの生活の質や健康状態の改善に役立てられるガイドラインの作成の根拠となるエビデンスの構築に取り組みます。また、がん登録情報など公的統計を利活用した長期追跡プラットフォームの構築にも取り組み、他国へのスキーム提供、がん以外の病気への応用も視野に進めます。
またNCCとIARCは、今後、本研究を恒常的に推進するため、双方に共同運営する新組織LTS室(Population-Based Long-Term Surveillance Team)を設置し、兼務職員を配置する強力な連携体制で進めます。
背景
近年、がんの早期発見技術や治療法の開発により、がんサバイバーが増加しています。診断されてから5年生存しているサバイバーがアジアで2000万人以上、日本には341万人いると推計されています。生活習慣とがんとの関連について、罹患リスクや予防との関連については多くの研究がなされてきましたが、がんの診断後の健康状態や生活の質に、診断前の生活習慣や診断後の生活習慣の改善がどのように影響するかは、十分に研究されてきませんでした。
北欧諸国などでは、多くのデータベースを連結し、こうしたアプローチが以前より実現していますが、日本をはじめ多くの諸外国では、各データベースの管轄省庁の違いや連結するための個人IDの不存在、個人情報保護への懸念などから、本格的な研究実施は困難です。しかしながら、社会の変革を待たず、現在利活用可能な情報を集め、前進するため本研究を実施します。
また国際機関との共同研究は、以前より試みられてきましたが、学生やポスドクではないシニア研究者が、他国の研究機関に長期出向することは難しいなど人事交流の面で課題があり、解決策が検討されていました。
研究内容
(1)生活習慣とがん診断後の生存期間の関連検討
- 既存のコホート研究を活用し、がん診断、予後への生活習慣等の影響を分析
- がん診断前後の生活習慣の変化の調査
- がん診断前後の生活習慣の変化と、がん診断後の生存期間の関連の検討
(2)がんサバイバーのがん診断後の生活の質の調査
- 100名前後のがんサバイバーの協力を得て、がん診断後の健康状態や生活の質を調査
(3)がんサバイバーの長期追跡プラットフォーム構築
- がんサバイバーの長期追跡プラットフォーム構築にむけて、協力を得るステークホルダー(医療機関など)や、利用できる公的統計の利用申請手順、データリンケージ手順などの整備
- がんサバイバーの健康状態や生活の質を長期的にフォローアップする質問票や入力方法(形態端末やWEB等の活用を想定)の開発
今回の研究は、以下の研究基盤を統合して実施します。
- NCCがん対策研究所が保持する大規模コホート研究基盤の、多目的コホート研究(JPHC)と次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)および、がん登録データ
- IARCが保持する大規模コホート研究基盤の、European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition (EPIC)および、がん登録データ
LTS室(Population-Based Long-Term Surveillance Team)について
本共同研究の実施にあたり、NCCとIARCは双方に共同運営する組織LTS室(Population-Based Long-Term Surveillance Team)を新設しました。NCCにおいては、がん対策研究所(所長:中釜 斉) 国際政策研究部に、IARCにおいてはNutrition and Metabolism Branchに設置しました。
LTS室では、本共同研究を中心に、大規模コホート研究、がん登録、医療機関の診療情報、その他統計情報を組み合わせ、国民ががんになる前からなった後までを長い間追いかける研究を実施します。その結果、どのような生活習慣が、がんになりやすいかどうかだけではなく、がんになった時の状況、治療の効果、その後の生活の質などと関連するかを明らかにすることができます。また、将来的には、この共同研究で構築した手法を、がん以外の病気への応用や抗がん剤の開発との連携を進めるとともに、アジアを初めとする各国にも提供し、日本やアジアでの健康増進に広く役立てることを目指します。
NCC WebサイトURL
https://www.ncc.go.jp/jp/icc/int-health-policy/lts/index.html
IARC WebサイトURL
https://www.iarc.who.int/teams-nme-lts/(外部サイトにリンクします)
LTS室 室長の紹介
国立がん研究センター がん対策研究所 国際政策研究部 住民ベース長期サーベイランス (LTS) 室 室長 澤田典絵
澤田典絵略歴
1999年 札幌医科大学卒業
2005年 北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻博士課程修了
2005年 国立がん研究センター予防研究部リサーチレジデント
2006年 国立がん研究センター予防研究部 研究員
2012年 国立がん研究センター予防研究部 室長
2021年から現在 国立がん研究センターがん対策研究所 コホート研究部 室長 (4月から国際政策研究部併任)
IARC Nutrition and Metabolism Branch Population-Based Long-Term Surveillance Team (LTS) M.Gunter
M.Gunter略歴
1998年 B.A. (Hons) in biochemistry from the University of Oxford
2003年 Ph.D in molecular epidemiology from the University of Cambridge
2003年 National Cancer Institute, NIH, DHHS, USA; Division of Cancer Epidemiology and Genetics, Post-doctoral fellow
2005年 Albert Einstein College of Medicine, New York, USA; Department of Epidemiology and Population Health, Instructor
2007年 Albert Einstein College of Medicine, New York, USA; Department of Epidemiology and Population Health, Assistant Professor
2011年 Imperial College London, Department of Epidemiology and Biostatistics, School of Public Health; Reader in Cancer Epidemiology
2016年から現在 Imperial College London, UK, Honorary Professor
2016年から現在 Nutrition and Metabolism Branch at the International Agency for Research on Cancer (IARC), Branch Head
2020年から現在 Bristol University, Bristol Medical School, Department of Population Health Sciences, Honorary Professor
研究費
【国立がん研究センター研究】「国際リエゾンに基づく先進的がん医療研究推進戦略策定に関する研究」(2021-A-23)
【国立がん研究センター研究】「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」(2020-J-4)
【科学研究費助成事業(基盤研究(B))】研究課題名:がん登録を起点とした臨床研究と長期追跡による胃がん患者の予後要因の検証
【科学研究費助成事業(基盤研究(B))】研究課題名:食事を含む生活習慣とがん・循環器疾患生存者の予後に関するコホート研究
用語解説
*1 がんサバイバー
がんが治癒した人だけではなく、がんの診断を受けた時から死を迎えるまでの全ての段階にある人
*2 予後
病気についての回復の見込みや余命。
問い合わせ先
研究に関する問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター
がん対策研究所 国際政策研究部
担当者名:松田智大・澤田典絵
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