小児・AYA世代難治性がん患者のドラッグアクセスの改善を目指すEZH2阻害薬の患者申出療養制度による医師主導臨床研究開始
2023年4月3日
国立研究開発法人国立がん研究センター
In English
発表のポイント
- 小児・AYA世代のEZH2阻害薬の有効性が期待されると判断された難治性固形がん患者さんやラブドイド腫瘍、類上皮肉腫、滑膜肉腫、脊索腫などの患者さんを対象に、患者申出療養制度による医師主導臨床研究を開始します。
- 治療開発が十分に進んでおらず、諸外国とのドラッグラグが生じている小児・AYA世代のがんについて、ドラッグアクセスの改善を目指します。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:島田和明)は、標準治療がないまたは治療抵抗性(難治性)の小児とAYA世代(注)の固形がん患者さんで、EZH2阻害薬の有効性が期待されると判断された方を対象にEZH2阻害薬の患者申出療養制度を利用した医師主導臨床研究を2023年4月から開始します。
EZH2阻害薬は、日本においては2021年6月に「再発又は難治性のEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫(標準的な治療が困難な場合に限る)」に対して承認されていますが、固形がんに対しては未承認の治療薬です。しかし、米国では、成人または16歳以上の完全切除の対象とならない類上皮肉腫で承認されており、当院でも成人の局所進行・再発の類上皮肉腫患者さんに対する医師主導治験が開始されていますが、小児・AYA世代の患者さんが現在の保険診療下でEZH2阻害薬に到達できる方法はありませんでした。
本研究では、小児・AYA世代における難治性固形がん患者さんのEZH2阻害薬タゼメトスタット(エーザイ株式会社とEpizyme, Inc.の共同創出)の効果(有効性)と副作用(安全性)の情報を収集し、小児・AYA世代のがん患者さんのEZH2阻害薬に対するドラッグアクセスを改善することを目指します。
今回の患者申出療養は、中央病院に通う患者さんの申出から立案されました。また、中央病院での小児・AYA世代がん領域では初めての実施となります。
背景
日本における、19歳以下の固形がんの新規発症は年間1,000人程度、若年成人の20歳から29歳では2,700人程度です。小児やAYA世代の悪性固形がんに対する初発時治療法は、がんの種類によって異なりますが、ある程度確立しているものもあります。しかし、標準治療がないまたは治療抵抗性である難治性の固形がんの年間患者数は400人程度と極めて少なく、大規模な臨床研究は行われたことがないため治療が確立しておらず、再発時においては、がんの種類に関係なく同じような治療が行われたり、緩和治療をお勧めしたりなど、治療法の選択肢が限られていました。
患者申出療養制度とは
患者申出療養は、未承認薬等を迅速に保険外併用療養として使用したいという困難な病気と闘う患者さんの思いに応えるため、患者さんからの申出を起点とし、安全性・有効性等を確認しつつ、できる限り身近な医療機関で受けられるようにする制度です。将来的に保険適用につなげるためのデータ、科学的根拠を集積することを目的としています。
厚生労働省 「患者申出療養」制度:https://www.mhlw.go.jp/moushideryouyou/(外部サイトにリンクします)
EZH2阻害薬(タゼメトスタット)について
EZH2阻害薬(タゼメトスタット)は、ヒストン等のメチル基転移酵素であるEZH(enhancer of zeste homolog)2の酵素活性に対する阻害作用を有する低分子化合物です。タゼメトスタットは、野生型EZH2及び 変異型EZH2(Y646F等)のメチル化活性を阻害することで、ヒストンH3の27番目のリジン残基等のメチル化を阻害し、細胞周期停止やアポトーシス誘導を生じさせることにより、腫瘍増殖抑制作用を示すと推測されています。
国内では成人の再発又は難治性のEZH2遺伝子変異陽性の濾胞性リンパ腫(標準的な治療が困難な場合に限る)に対して効能又は効果が認められています 。
米国ではFDAが承認した検査でEZH2変異陽性であり、少なくとも2種類の全身療法を受けた再発・難治性の濾胞性リンパ腫の成人、および十分な代替治療法がない再発または難治性の濾胞性リンパ腫の成人、および16歳以上の完全切除ができない転移性・局所進行性の類上皮肉腫に適応があります。
本試験の概要
試験名
EZH2阻害薬の有効性が期待される標準治療がないまたは治療抵抗性の小児・AYA悪性固形腫瘍に対するタゼメトスタット療法に関する患者申出療養(Protocol No. NCCH2214)
目的
EZH2阻害薬の有効性が期待される、標準治療がないまたは治療抵抗性の小児・AYA世代の悪性固形腫瘍を対象に、タゼメトスタットの有効性および安全性を評価する
参加対象者
標準治療がない治療抵抗性の、6カ月以上29歳以下の小児・AYA悪性固形腫瘍患者で以下のいずれかを満たす方
- がん遺伝子パネル検査のエキスパートパネルでEZH2阻害薬が推奨されている
- 病理組織の免疫染色においてがん抑制遺伝子であるINI1またはSMARCA4の発現低下や消失を認める
- 診断名がラブドイド腫瘍(AT/RT、MRT、RTK)、類上皮肉腫、滑膜肉腫、脊索腫である
募集期間
2023年3月27日より、予定人数に達するまで
予定人数
最大10人
実施病院
国立がん研究センター中央病院
使用薬剤
EZH2阻害剤タゼメトスタット(一般名:タゼメトスタット臭化水素酸塩)
薬剤提供
エーザイ株式会社
展望
本研究では、悪性固形がんの治療薬としてのEZH2阻害薬タゼメトスタットの効果(有効性)と副作用(安全性)の情報を収集し、ドラッグアクセスの改善を目指します。
用語解説
(注)AYA世代(あやせだい)
Adolescent&Young Adult(思春期・若年成人)のことをいい、15歳から39歳の患者さんがあてはまりますが、本試験では29歳までを対象としています。
問い合わせ先
患者さんからのお問い合せ先
国立がん研究センター 中央病院 相談支援センター
電話番号:03-3547-5293 (平日:9時から16時)
広報窓口
国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp