小児・AYA世代がん患者のドラッグアクセスの改善を目指す小児・AYA世代を対象とする患者申出療養「PARTNER試験」が 実施施設と対象医薬品を拡大
2024年10月31日
国立研究開発法人国立がん研究センター
北海道大学病院
九州大学病院
発表のポイント
- 国立がん研究センター中央病院で実施中である、小児・AYA世代がん患者のドラッグアクセスの改善を目指す患者申出療養制度を利用した医師主導臨床研究PARTNER試験(NCCH2220)は、2024年9月より、日本の南北の小児がん拠点病院である北海道大学病院、九州大学病院を実施施設として追加し、計3施設に拡大されました。
- 本研究開始時点では2社5医薬品であった対象医薬品が、2024年10月現在、5社8医薬品に拡大されています。
- 実施施設の拡大、および使用可能な医薬品数の拡大により、新たな医薬品を使用するための体制が整えられ、より多くの小児・AYA世代のがん患者さんが必要な医薬品にアクセスしやすくなることが期待されています。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:瀬戸 泰之)は、適応外薬注1または未承認薬注2の使用を希望する小児・AYA(Adolescents and Young Adults:思春期・若年成人)世代の患者さんを対象に、患者申出療養制度注3を利用して複数の医薬品を使用可能とする医師主導臨床研究PARTNER試験を2024年1月から開始しています。
この度、北海道大学病院、九州大学病院が2024年9月より新たに実施施設となりました。これまでは、研究参加により治療を希望する患者さんは、東京の国立がん研究センター中央病院へ来院する必要がありましたが、今後は、北海道大学病院、九州大学病院でも治療を受けることが可能となります。
本研究では、本研究の趣旨に賛同いただいた企業から医薬品を無償提供していただいています。2024年1月の研究開始時点では2社5医薬品を対象としていましたが、2024年10月現在、5社8医薬品が対象となっています。今後さらに多くの企業の協力が得られるよう活動してまいります。なお、本研究を適正に運営するために必要な費用は研究費*1から支払いますので患者さんの負担はありませんが、経過中の検査料や入院料等などは保険診療の範囲で患者さんのご負担となります。
*1 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「臨床研究・治験推進研究事業」
「小児・AYAがん患者の薬剤アクセスの改善と薬事承認に利活用可能なデータ収集を目的とした患者申出療養制度に基づく特定臨床研究」
コメント
北海道大学大学院医学研究院 生殖・発達医学分野 小児科学教室 教授 真部 淳
これまで、小児がんの新規医薬品の導入には様々な壁があり、医薬品の国内承認に時間がかかること、あるいは医薬品が国内にあっても小児での使用経験がないなどの状況が続いていました。PARTNER試験が、今回、東京のみならず日本の北と南の施設でも行われることになり、小児・AYA世代のがんの患者家族にとって、大きな励みになると思われます。
九州大学大学院 医学研究院成長発達医学分野 教授 大賀 正一
コロナ禍で皆が経験した県またぎの不便が解消されても、小児がんのこどもたちとそのご家族は、専門性の高い治療を受けるために遠距離の移動を余儀なくされます。小児がん治療の集約化と均霑化の狭間で、新しく開発される有効な医薬品が、適切に速やかに広く使用可能になることを願っています。全国の広い地域をカバーするPARTNER試験に大きな期待を寄せています。
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科 科長 小川 千登世
小児がんにおいては、がん遺伝子パネル検査注4等で治療薬の候補が見つかっても保険診療下で使用できる薬が少ない、参加可能な治験・臨床試験が少ない等、ドラッグアクセスの改善が課題となっていました。この一助として開始したPARTNER試験において、今回の施設拡大は小児・AYA世代の患者さんが必要な薬を全国どこにいても使えるようにするための新しい一歩となりました。今後も対象医薬品、実施施設等を増やしていきたいと思います。
背景
小児がんに対して国内で承認されている医薬品は、欧米に比べて少なく、小児やAYA世代のがん患者さんが参加可能な治験や臨床試験も欧米に比べて多くありません。*2そのため、小児がん患者さんの多くは、使用したい医薬品があっても、国内小児に承認されていない、または参加可能な臨床試験がないといった理由で、希望する治療を受けることができませんでした。
そのような背景から、国立がん研究センター中央病院では、希望する医薬品を投与できなかった患者さんやご家族の申出を受けて、難治性小児・AYA世代がん患者さんを対象とし、適応外薬あるいは未承認薬を投与する医師主導臨床研究であるPARTNER試験を2024年1月より開始しました。
一方、小児がんの臨床試験の多くは実施施設が限られています。特に本研究を含めて小児の固形腫瘍を対象とする臨床試験の多くが1施設のみの実施であるため、遠方の患者さんにとっては毎回来院することが負担となり、患者さんにとって大きな障壁でした。
多くの場所で必要な治療を受けられるようにしてほしい、という患者さんの要望に応えられるよう、この研究は開始時より複数施設に拡大することを予定していました。
*2 出典:第2回 創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会
資料【資料3】(補足資料)小児用医薬品の開発促進に資する薬事審査等のあり方について
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001131778.pdf(2023年8月7日参照)(外部サイトにリンクします)
PARTNER試験について
本研究は、難治性小児・AYA世代がん患者さんを対象に、患者申出療養制度を利用して適応外薬あるいは未承認薬を投与する臨床研究です。
本研究で使用する医薬品は、すでに国内または海外で小児を対象とした臨床試験が行われており、小児における一定の安全性情報がある医薬品を対象としています。国内で小児に対する用法・用量等が定められていない医薬品については、海外で承認されている小児に対する用法・用量等や小児に対する治験等をもとに、本研究に参加する小児がん患者さんにおける用法・用量等を決めています。
本研究の詳細は以下の通りです。
試験名
小児・AYAがんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療に関する患者申出療養(Protocol No. NCCH2220;PARTNER試験)
対象となる患者さん
記載した以外にも対象患者さんとなるための規準があります
・標準治療がない、または標準治療に抵抗性である0-29歳*の小児・AYA世代がん患者。
・以下のいずれかを満たすこと
- 保険適用または先進医療などで実施されたがん遺伝子パネル検査を受けて、何らかの適応外薬の推奨が、専門家会議(エキスパートパネル)及び担当医からなされていること。
- 国内成人または海外小児において薬事承認された医薬品の適応がん種と診断されていること
・適格規準を満たさないなどの理由により、治験や先進医療に参加できないこと
・日常生活に大きな支障がなく、重症の合併症を有さないこと
・血液検査や尿検査等の規準を満たすこと 等
研究の実施期間
2024年1月より、4年間(予定)
予定人数
1医薬品あたり最大30人
実施施設
2024年9月から
・北海道大学病院
・九州大学病院
2024年1月から
・国立がん研究センター中央病院
今後、更に実施施設が増えていく見込みです。
対象医薬品
新規追加された医薬品(2024年10月時点)
・カボメティクス®錠20mg (一般名:カボザンチニブリンゴ酸塩)
(武田薬品工業株式会社)
・エザルミア®錠50mg, 100mg (一般名:バレメトスタットトシル酸塩)(第一三共株式会社)
・ザーコリ®カプセル200mg, 250mg (一般名:クリゾチニブ)(ファイザー株式会社)
2024年1月(研究開始時点)から対象の医薬品
・グリベック®錠100mg (一般名:イマチニブメシル酸塩)・ヴォトリエント®錠200mg (一般名:パゾパニブ塩酸塩)
・ジャカビ®錠5mg, 10mg (一般名:ルキソリチニブリン酸塩)
・メキニスト®錠0.5mg, 2mg (一般名:トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物)
・メキニスト®小児用ドライシロップ4.7mg(一般名:トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物)
(ノバルティス ファーマ株式会社)
・テセントリク®点滴静注840mg, 1200mg(一般名:アテゾリズマブ(遺伝子組換え))(中外製薬株式会社)
今後、対象医薬品が増えていく見込みです。
展望
本研究は、小児・AYA世代のがんの患者さんから使用したいという申し出があると想定される適応外薬、あるいは未承認薬などの医薬品をあらかじめ準備し、使える体制を整えておくことで、必要とする医薬品を迅速に患者さんに届け、医師の管理のもとで使用できることを目指しています。さらに、研究の中で収集する各医薬品の国内小児(AYA世代を含む)における治療効果や副作用のデータが今後の患者さんのために役立ち、さらには将来的に保険適用を検討する際の参考となることを期待しています。
今回、対象施設が増えたことにより、より多くの患者さんが本研究に参加しやすくなりドラッグアクセスの改善に寄与することを期待しています。また、対象医薬品の拡大により、国内小児・AYA世代のがんに対する薬事承認の際に参考となるデータの収集をより増やしたいと考えています。今後も、施設追加、医薬品の追加を行っていく予定です。
用語解説
注1 適応外薬
医薬品はその薬を使用する病気に対する効能・効果や用法・用量等が細かく定められた上で承認され、公的保険での投与が可能となっています。承認されている効能・効果や用法・用量以外で使用される医薬品を「適応外薬」といいます。適応外薬の使用は原則保険外診療として実施する必要があります。
注2 未承認薬
日本で薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で承認されていない医薬品のことをいいます。未承認薬を使う場合、基本的には臨床試験のもとで使うことが必要となります。
注3 患者申出療養制度
困難な病気と闘う患者の思いに応え、先進的な治療を受けたいという患者さんの申し出を起点とし、身近な医療機関で迅速に受けられるようにする制度です。患者さんの申し出をもとに臨床研究中核病院が臨床研究を立案し、国の患者申出療養評価会議の承認を受けた上で、患者さんの希望する療養を安全性・有効性等を確認しながら臨床研究として実施します。国内の未承認・適応外のさまざまな治療法が対象になりますが、保険収載を前提とするものに限ります。したがって未承認薬等の費用に加え、保険収載を目指すためのデータ作成に対し、研究支援者の人件費や研究の品質管理、統計解析の費用などがかかり、それらを研究費から負担します。
厚生労働省「患者申出療養」制度とは?https://www.mhlw.go.jp/moushideryouyou/(外部サイトにリンクします)
注4 がん遺伝子パネル検査
がんにかかわる遺伝子の変化(遺伝子異常)を1度に多数調べる検査で、見つかった遺伝子異常に合う治療薬を選び、その後の治療に役立てることを目的としています。がんゲノムプロファイリング検査とも呼びます。単一遺伝子の異常を調べる検査を複数回行うよりも検査時間が短く、患者さんが生検を何度も受けるという負担も軽減できます。がん遺伝子パネル検査を受けても遺伝子異常や対応する医薬品が見つからない場合もあります。
国立がん研究センター「がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査」
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp
お問い合わせ先
研究に関するお問い合わせ
国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科 小川千登世、荒川 歩
〒104-0045 東京都中央区築地5-1-1
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncch2220_office●ml.res.ncc.go.jp
患者さんからのお問い合せ先
国立がん研究センター中央病院 がん相談支援センター
電話番号:中央病院の患者さん・ご家族 03-3547-5051
中央病院の患者さん以外の方 03-3547-5293 (平日9:00~16:00)
広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
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電話番号:092-642-5205
Eメール:ibskoho●jimu.kyushu-u.ac.jp