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「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」2025年度版公開

科学的根拠に基づくわが国の肺がん検診を提言
「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」2025年度版公開

2025年4月25日
国立研究開発法人国立がん研究センター

発表ポイント

  • 「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」2006年度版公開後、新たな研究の科学的根拠を検証し、わが国で推奨する肺がん検診ガイドラインとして提言をまとめました。
  • 低線量CT検査の推奨グレードは喫煙状況により異なり、重喫煙者(喫煙指数600以上)においては、推奨グレードAで対策型検診及び任意型検診として実施(対象年齢は50-74歳、検診間隔は1年に1回)を推奨します。
  • 重喫煙者以外の方に対する低線量CT検査は推奨グレードIで、対策型検診として実施しないことを推奨します。任意型検診においては、医療者が利益と不利益に関する適切な情報を提供したうえで、検診受診者個人の判断に委ねます。現在、日本で重喫煙者以外の低線量CT検査の死亡率減少効果を評価するための無作為化比較対照試験が進行中のため、注視していく必要があります。
  • 喫煙状況や対象年齢を遵守しない場合、低線量CT検査の不利益は大きくなります。
  • 胸部X線検査は喫煙状況にかかわらず推奨グレードA(対象年齢は40-79歳、検診間隔は1年に1回)です。
  • 重喫煙者に対する胸部X線と喀痰細胞診併用法は推奨グレードDで、対策型検診として実施しないことを勧めます。

新しい肺がん検診案の画像

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(東京都中央区、理事長:間野 博行)がん対策研究所(所長:松岡 豊)検診研究部(部長:中山 富雄)の研究グループは、科学的根拠に基づくがん検診を推進するために、がん検診に関する国内外の研究を検証し、検診の利益と不利益を勘案した「有効性評価に基づく検診ガイドライン」として提言をまとめています。

これまで、大腸がん(2005年、2024年度)、胃がん(2005年度、2014年度)、肺がん(2006年度)、前立腺がん(2008年度)、子宮頸がん(2009年度、2019年度)、乳がん(2013年度)の検診ガイドラインをまとめました。これらは厚生労働省における「がん検診のあり方検討会」において、対策型がん検診のあり方を検討するための資料として用いられています。

「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」は、2006年版を公開後18年が経過しており、その間に報告された肺がん検診に関する新たな研究の科学的根拠を明確にまとめることが求められていました。

そこで、国立がん研究センターがん対策研究所検診研究部は、2006年版公開後に報告された研究を検証し、わが国で実施すべき肺がん検診方法を「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」2025年度版としてまとめ4月25日に公開しました。

背景

肺がんについて

日本では1年間に約12万人が診断され、男女計で2番目に多いがんです。肺がんと診断される人は40代から増加しはじめ、年齢が高くなるほど肺がんの罹患率が高くなる傾向です。また、1年間に約7.5万人が亡くなっており、男女計でがん死亡のトップを占めます。死亡率は50代から増加しはじめ、年齢が高くなるほど死亡率は高くなっています。

日本では1987年より胸部X線検査による肺がん検診が公的に実施されています。さらに、50歳以上の重喫煙者(喫煙指数1600以上)には、胸部X線検査に加え喀痰細胞診も実施されています。

近年、欧米より重喫煙者に対する低線量CT検査の無作為化比較対照試験が複数報告され、有意な死亡率減少効果が示されました。その結果、欧米では低線量CTによる肺がん検診が普及しつつあります。国内においても低線量CTへの期待が大きくなる一方で、日本では喫煙指数600に満たない軽喫煙者や非喫煙者が多く、日本の特性を考慮した低線量CTの有効性評価と課題整理が求められていました。また、現在検診で使用されている胸部X線検査と喀痰細胞診についても再検討しました。

研究成果「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」2025年度版について

検討対象

1. 低線量CT検査

X線を使って、胸部全体を撮影し、数十枚の断面図を作画した検査です。肺がん検診用として、通常診療で実施されるCT検査より放射線量を少なくした撮影を低線量CT検査と呼びます。

2. 胸部X線検査

胸部全体にX線を照射して撮影します。健康診断やがん検診で広く用いられており、レントゲン検査ともいいます。

3. 喀痰細胞診

痰に含まれる細胞を調べる検査です。重喫煙者に特異的に発生する肺門部扁平上皮癌は、その初期像をX線やCTでは発見できないため、50歳以上の重喫煙者に胸部X線検査と組み合わせて実施されます。

更新版における肺がん検診の推奨グレード注2

2025年度版では、低線量CT検査(重喫煙者と重喫煙者以外)、胸部X線検査、重喫煙者に対する喀痰細胞診の利益(肺がん死亡率減少効果)と不利益(偽陽性率、精密検査受診率、過剰診断、中間期がん、放射線被ばく、偶発的所見、精神的負担など)を比較して、有効性の検討を行いました。

1. 重喫煙者に対する低線量CT検査(推奨グレードA)

がん検診の利益となる死亡率減少効果について、米国のNLST研究(National Lung Screening Trial)とヨーロッパのNELSON研究(Dutch–Belgian lung-cancer screening trial)を参考にしました。NLST研究は喫煙指数600以上の重喫煙者を対象に実施された無作為化比較対照試験で、胸部X線検査と比較して死亡リスクが16%減少していました[Pinsky PF. PMID:24037918]。NELSON研究は喫煙指数300以上の喫煙者を対象としており、検診を受けていない人と比較して死亡リスクが24%減少しました[de Koning HJ. PMID31995683]。

検診の不利益として、低線量CT検査の要精検率は5-10%で、過剰診断3は5-20%(最大78.9%)です。また、放射線被ばくは、診療で行われる胸部CT検査の1回あたりの実効線量が平均約7.14mSvに対して、低線量CT検査の1回あたりの実効線量は平均約1.05mSvです。

これらの他にも低線量CT検査の不利益はありますが、それらを総合しても重喫煙者に対する利益が不利益を上回ると判断されるため、対策型検診及び任意型検診4としての実施を勧めます。

2. 重喫煙者以外への低線量CT検査(推奨グレードI

現時点で、重喫煙者以外に対する低線量CT検査の死亡率減少効果を示す科学的根拠は十分ではありません。国内で無作為化比較対照試験が進行中で、検診による利益は現時点で不明です。一方、非喫煙者に発生する肺がんの多くは進行速度が遅いため、過剰診断のリスクが高くなることが懸念されます。重喫煙者と同等あるいはそれ以上の不利益になる可能性があります。

したがって、対策型検診としては実施しないことを勧めます。任意型検診としては医療者が利益と不利益に関する適切な情報提供を行い、検診受診者個人の判断を支援することを勧めます。

3. 胸部X線検査(推奨グレードA)

国内の症例対照研究では喫煙の有無にかかわらず、死亡率減少効果が示されています。米国のPLCO研究(Prostate, Lung, Colon, and Ovary Prospective Study)では、研究開始から3年間胸部X線検査による肺がん検診が実施され、それ以降10年間検診は実施されませんでした。研究開始から13年目の評価では死亡率減少効果は認められませんでしたが、減弱効果を考慮した研究開始から6年目の評価では死亡率減少効果があることが示唆されました[Oken MM. PMID22031728]。

利益が不利益を上回る可能性が高いため、対策型検診及び任意型検診としての実施を勧めます。

4. 重喫煙者に対する胸部X線と喀痰細胞診併用法(推奨グレードD

重喫煙者に対して、胸部X線検査に喀痰細胞診を併用することにより、死亡率減少効果の上乗せを示す十分な科学的根拠はありませんでした。唯一効果が示唆された喫煙指数1,000以上の集団は、近年の喫煙率低下により国内では大幅に減少しています。 さらに、国内で喀痰細胞診によるがん発見数自体が年間20-30例程度に減少しており、検診としての実施は不利益のみを与える可能性があり、検診方法としては外されるべきです。対策型検診及び任意型検診として実施しないことを勧めます。

2006年度版からの主な変更点

1. 喫煙状況別の低線量CT検査の有効性評価

2006年度版作成当時は欧米の無作為化比較対照試験が進行中であり、利益を検討する証拠が不十分と判断されました(推奨グレードI)。サンプル数が大きいNLST研究とNELSON研究では有意な死亡率減少効果が示され、重喫煙者に対する低線量CT検査は推奨グレードAと判断されました。

一方、わが国では喫煙指数600を超える重喫煙者は急激に減少しており、軽喫煙者や受動喫煙に対する低線量CT検査の利益に関心が集まっています。重喫煙者以外を対象とする無作為化比較対照試験は欧米では実施されておらず、国内研究が現在進行中のため、今後も慎重に検討していく必要があります[Sagawa M. PMID23042771]。

2. 重喫煙者に対する低線量CT検査の対象年齢と検診間隔の明示

有意な死亡率減少効果を示したNLST研究の対象年齢は50-75歳、NELSON研究の対象年齢は50-74歳でした。その他の無作為化比較対照試験のほぼ50-75歳の重喫煙者を対象に実施されていました。開始年齢については、検診開始が早いほどCT検査の被ばくによるがんリスクが高まることや50代から肺がん死亡率が高くなりはじめることも考慮しました。終了年齢については、平均余命と健康寿命、術後院内死亡リスクが75歳以上で高まることなどを参考にしました。最終的に50-74歳を対象年齢としました。

検診間隔はNLST研究をはじめ多くの無作為化比較対照試験が1年間隔で実施していました。NELSON研究は検診間隔を1年、2年、2.5年と徐々に拡大して検診を実施しました。中間期がん5発生率が1年間隔で6.7%、2年間隔で25.7%、2.5年間隔で26.5%と検診間隔を拡大すると増加しました。重喫煙者には進行速度の速いがんが多く発生することから、検診間隔は1年に1回としました。

3. 胸部X線検査の対象年齢、検診間隔の明示

2006年度版では明示しなかった検診対象年齢、検診間隔を明示しました。

検診対象は40-79歳を推奨します。有意な死亡率減少効果を示した国内の症例対照研究の対象年齢は40-74歳か40-79歳でした。胸部X線検査の場合、検診から数か月以内に治療が行われることが多いため、胸部X線は79歳までとしました。

国内の症例対照研究より12-24か月の受診では統計学的に有意な死亡率減少効果はいずれの研究でも確認できなかったため、検診間隔は1年としました。

4. 重喫煙者に対する胸部X線と喀痰細胞診併用法の評価

重喫煙者に対する喀痰細胞診の上乗せ効果については、70年代に米国で行われた2つの無作為化比較対照試験のメタアナリシスでも有意な効果は認められませんでした[Doria-Rose VP. PMID19637354]。前述の論文のサブ解析で喫煙指数1,000以上に相当するものに限れば効果が示唆されましたが、現在国内において喫煙指数1,000以上の重喫煙者はごく少数であると推計されています。また、肺がん検診としての喀痰細胞診によって発見された肺がん(胸部X線検査は異常なし)はここ数年20-30例にとどまっています。その理由は、喀痰細胞診の標的疾患である肺門部扁平上皮癌が激減し、検診として行う意義が乏しくなっているためです。

展望

肺がんの対策型検診として胸部X線検査を喫煙状況にかかわらず引き続き推奨します。

重喫煙者に対する低線量CT検査を対策型検診において推奨します。従来の喀痰細胞診から低線量CT検査に変更することでより確実な効果が期待できます。加えて、検診の機会を活用し、禁煙支援を積極的に推進することが重要です。米国では低線量CT検診の場で禁煙支援を行うことが奨励されており、日本でも導入を検討する可能性があります。

重喫煙者以外に対する低線量CT検査は対策型検診として推奨しません。重喫煙者以外に対する低線量CT検査による検診の死亡率減少効果を調べる無作為化比較対照試験が国内で進行中です。その結果が公表された後に再評価を行います。

研究費

国立がん研究センター研究開発費

研究課題名:検診ガイドライン作成と検診の効率的運用方法の体制に関する研究
研究期間:2020年度から2022年度
研究代表者名:中山 富雄

研究課題名:科学的根拠が不十分ながん検診手法の低減を目指したガイドライン作成とわかりやすい情報提供に関する研究
研究期間:2023年度から2025年度
研究代表者名:中山 富雄

用語説明

注1:喫煙指数

喫煙指数は(1日の喫煙本数)✕(喫煙年数)として計算します。禁煙したことがある方は(喫煙年数)から禁煙した年数を引いて計算します。加熱式たばこについては「カートリッジの本数」を「喫煙本数」として計算します。

今回の有効性評価では、喫煙指数600以上(1日20本×30年)の方を重喫煙者、600未満の喫煙者を軽喫煙者、まったくたばこを吸わない方を非喫煙者として検討しました。

注2:推奨グレードについて

推奨グレードは、対策型検診と任意型検診における実施の可否を示しています。推奨グレードは、各種がん検診の利益と不利益のバランスを考慮して決定します。がん検診の主たる利益は死亡率減少効果です。一方、不利益とは、偽陰性率、偽陽性率、過剰診断、偶発症、放射線被ばく、受診者の心理的・身体的負担などがあります。推奨グレードの決定においては、証拠の信頼性や不利益の程度も重要です。

また、推奨グレードは、「子宮頸がん検診ガイドライン」2019年度版から2点の大きな変更があります。1)推奨Cが「条件付き推奨」から対策型検診では「実施を推奨しない」、任意型検診では「利益と不利益に関する適切な情報を提供し個人の判断に委ねる」へ変更、2)推奨グレードの判断に、医療資源(費用を含む)や受診者の価値観や選好性を含めないことにしました。

注3:過剰診断

過剰診断とは、すべてのがん検診に生じる不利益です。がん検診を行うことで、致死的でないがんを発見することを意味します。がんの進行が極めてゆっくりであったり、極めて早期にがんを発見した場合に過剰診断が起こりやすいです。過剰診断により、不必要な精密検査や治療の増加を招く可能性があり、検診受診者にとっての不利益となります。

注4:対策型検診と任意型検診

対策型検診とは、集団全体の死亡率減少を目的として実施するものを指し、公共的な予防対策として行われます。そのため、有効性が確立したがん検診を選択し、利益は不利益を上回ることが基本条件になります。わが国では、対策型検診として市区町村が行う住民検診が該当します。

一方、任意型検診とは、対策型検診以外の検診が該当しますが、その方法・提供体制は様々です。典型的な例は、医療機関や検診機関が行う人間ドックが該当しますが、保険者による予防給付や個人による受診選択など受診形態も様々です。検診方法の選択、精度管理などの問題がありますが、個々の受診者への対応が可能になるという利点もあります。

注4:中間期がん

一定の間隔でがん検診を受診しているとき、前の検診では陰性と判定されたのにもかかわらず、次の検診が来る前に自覚症状が出現してがんを発見される例のこと。偽陰性例の1つで、一般的には進行速度が速く予後が良くないことが多いです。

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

国立研究開発法人国立がん研究センター
がん対策研究所 検診研究部 検診評価研究室
室長 細野 覚代
電話番号:03-3542-2511(代表)
E-mail:shosono●ncc.go.jp

広報窓口

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
E-mail:ncc-admin●ncc.go.jp

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