腸上皮化生細胞は胃がん細胞になる危険性が高いことを証明ピロリ菌感染で腸上皮化生が発生していても除菌治療で発がんリスクが下がる仕組み
2023年9月27日
星薬科大学
国立研究開発法人国立がん研究センター
発表のポイント
- 腸上皮化生細胞には特異的なDNAメチル化異常*1(エピゲノムフットプリント)が蓄積していました。胃がん細胞にはその特異的なフットプリントをもつものが計算以上に多く、腸上皮化生細胞は胃がん細胞になる危険性が高いことが分かりました(図1)。
- その仕組みとして、ピロリ菌感染による炎症性サイトカイン(IL-17A)の放出が、腸上皮化生細胞でのDNAメチル化異常の蓄積を加速すること(エピゲノム不安定性)が示されました(図2)。
- ピロリ菌の除菌治療は胃がん予防効果があることが知られますが、その仕組みの一つが、更なるDNAメチル化異常蓄積を防ぐことであると考えられました。
概要
胃の粘膜にピロリ菌が感染すると慢性胃炎が起こり、胃の細胞が腸の細胞に変化する「腸上皮化生」が誘発されます。この腸上皮化生が前がん病変(発がん性が高い)か傍がん病変(単に慢性胃炎に随伴する所見であり発がん性は高くない)かは、長年議論されてきました。
今回、星薬科大学 牛島俊和学長、同先端生命科学研究所エピゲノム創薬研究室 竹内千尋特任助教、国立がん研究センター研究所 分子病理分野 関根茂樹ユニット長らの研究グループは、腸上皮化生細胞に蓄積したDNAメチル化プロファイルを正確に測定することで、その特異的なエピゲノムフットプリントを解明し、胃がんにはその特異的なフットプリントをもつものが、「腸上皮化生の有無に関わらず同じ危険性で胃がんになる」と想定した場合に比べて計算以上に多く存在することを示しました。また、腸上皮化生細胞にはDNAメチル化異常の蓄積が加速するエピゲノム不安定性が存在することも示されました。これらから、腸上皮化生細胞は胃がん細胞になる危険性が高い前がん病変であると結論付けられます。
更に、エピゲノム不安定性にはピロリ菌感染による炎症性サイトカイン(IL-17A)の放出が重要であることも示されました。ピロリ菌の除菌治療により胃がん発症が予防される仕組みの一つが、IL-17Aの放出が抑制され、エピゲノム不安定性が軽減されることであると考えられます。
本研究成果は、国際学術雑誌「Gut」に9月27日午前0時に掲載されました。
図表
図2 腸上皮化生細胞におけるDNAメチル化異常蓄積が加速するメカニズム
発表論文
雑誌名
Gut
タイトル
Precancerous nature of intestinal metaplasia with increased chance of conversion and accelerated DNA methylation
著者
Chihiro Takeuchi, Satoshi Yamashita, Yu-Yu Liu, Hideyuki Takeshima, Akiko Sasaki, Masahide Fukuda, Taiki Hashimoto, Tomoaki Naka, Kenichi Ishizu, Shigeki Sekine, Takaki Yoshikawa, Akinobu Hamada, Nobutake Yamamichi, Mitsuhiro Fujishiro, Toshikazu Ushijima
DOI
http://dx.doi.org/10.1136/gutjnl-2023-329492
掲載日
2023年9月27日
本研究への支援
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「健康・医療の向上に向けた早期ライフステージにおける生命現象の解明」研究開発領域における研究開発課題「エピゲノム不安定性の機構とAYA癌予防戦略の解明(JP20gm1310006)」
革新的がん医療実用化研究事業「ピロリ菌除菌後健康人を対象とした世界初エピゲノム発がんリスク診断の実用化(JP20ck0106552)」
日本学術振興会科学研究費補助金(科研費)
「消化管慢性炎症によるエピゲノム不安定性の誘発と化生発生における意義の解明(21K15941)」
用語解説
*1 DNAメチル化
遺伝子のスイッチオン・オフを決めている主要なメカニズム(エピゲノム制御)で、その異常は、一度おこると通常はもとには戻らないことが知られています。このDNAメチル化異常によりがん抑制遺伝子(細胞増殖を抑えてがん化を抑制する遺伝子)の機能がなくなることが、がん化に重要であると知られています。
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〒142-8501 東京都品川区荏原2-4-41
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