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キーワード:テロメア、RNA、細胞死、がん、肉腫テロメラーゼ逆転写酵素がこれまで知られていなかった機序でがん化を促進することを発見

テロメラーゼ逆転写酵素バナー

私たちの体の細胞は、一定の回数しか分裂できません。これは、DNAの端にある「テロメア」という構造が、分裂のたびに短くなっていくためです。ところが、がん細胞はこの仕組みを乗り越え、無限に分裂し続ける能力を持っています。その鍵を握るのが「テロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)」です。
図3
hTERTは、テロメアを伸ばすことで細胞の寿命を延ばす酵素として知られています。一方で、私たちの研究室では、hTERTにテロメアを伸長する機能とは異なる「RNAを作る力」があることを発見し、その影響を明らかにしてきました。
今回の研究では、hTERTがこの「RNAを作る力」によって、細胞にとって有害な「R-loop構造」と呼ばれるDNAの異常を取り除くという新たな役割が見つかりました。R-loop構造は、DNAとRNAが不安定に絡み合った構造で、細胞の遺伝情報を傷つけたり、細胞死を誘導する原因になります。hTERTは、これを見つけて取り除くことで、がん細胞が安定して増え続けられるようにしているのです。

図1

さらに驚いたのは、これまでhTERTが関係ないと考えられていた肉腫という種類のがんでも、このRNAを作る力が確認されたことです。
また、hTERTのこの働きを止めると、がん細胞が死ぬことも確認しました。これは、hTERTの“もう一つの顔”を標的にすることで、新しいタイプのがん治療法が生まれる可能性を示しています。さらに、肉腫は希少がんであり、治療法が限られているため、この発見は新しい治療の可能性を広げるものです。

図2

この成果は、2024年5月に英国の科学誌『Nature Cell Biology』に掲載されました。
論文情報:https://www.nature.com/articles/s41556-024-01427-6(外部サイトにリンクします)

がん研究は、まだまだ未知の領域が多く残されています。今回のように、既に知られている分子に新たな機能が見つかることで、治療の可能性が広がることもあります。私たちは、こうした発見を積み重ねながら、がんに苦しむ人々の未来を少しでも明るくできるよう、研究を続けていきます。

プレスリリース・NEWS

テロメラーゼ逆転写酵素がこれまで知られていなかった機序でがん化を促進することを発見|国立がん研究センター(2024年5月29日)

研究者について

がん幹細胞研究分野 ユニット長 町谷 充洋 / 任意研修生 野村 祥 / 分野長 増富 健吉

キーワード

テロメア、RNA、細胞死、がん、肉腫