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キーワード:肺腺がん、全ゲノムシークエンス肺腺がんに新たな治療標的となる遺伝子を発見

肺腺がんに新たな治療標的となる 遺伝子を発見バナー
 肺腺がんでは、EGFRKRASALKといった遺伝子の変異がよく知られています。これらの変異は「ドライバー変異」と呼ばれ、分子標的治療の対象となることが多いものの、全体の約30%の症例では有効な治療標的となる変異が確認されていません。このような症例は「ドライバー遺伝子変異/ 転座陰性症例」と呼ばれ、分子標的治療の恩恵を受けることができないため、新たな治療標的の発見や個別化医療の推進が急務となっています。
近年、全ゲノムシークエンス技術の進歩により、新たな肺がん関連遺伝子変異や複雑なゲノム構造異常の解析が可能となりました。ゲノム構造異常は、コピー数変異を引き起こしたり、遺伝子融合を生成したりすることで遺伝子発現を攪乱するなど、がんの進展に重要な役割を果たします。しかし、これらの異常が肺腺がんでどのように機能しているかは十分に解明されていませんでした。本研究では、全ゲノムシークエンスとChIP-seqを統合的に活用し、スーパーエンハンサーとゲノム構造異常が遺伝子発現に与える影響を解析しました。この研究成果は、2024 年6 月11日、国際学術誌「Moleccular Cancer」に掲載されました。
まず、174例のドライバー遺伝子変異/転座陰性の肺腺がんサンプルを用いて、H3K27Ac 修飾に着目したChIP-seq解析を実施し、スーパーエンハンサー領域を同定しました。その後、全ゲノムシークエンスデータとの統合解析を行い、スーパーエンハンサーとゲノム構造異常の相互作用が遺伝子発現に与える影響を評価しました。その結果、これらの要素が共存するゲノム領域は全体の約1%に過ぎないものの、約40% の症例において重要な役割を果たしていることが判明しました。特に、HER2EGFRなどの既知の肺腺がん関連遺伝子がスーパーエンハンサーとゲノム構造異常の重複によって発現増加しており、これらががんの進展や再発リスクと関連していることが示唆されました。また、新たにFRS2CAV2FGF3FGF4FGF19といった遺伝子が肺がんの原因遺伝子として機能する可能性が示されました(図1 参照)。さらに、ロボティクス技術を活用してChIP-seq 解析を自動化することで、大規模データの高精度な解析を可能にしました。この新技術により、従来の手法では困難だった多検体解析が実現し、再現性の高い結果を得られました。本研究の成果は、個別化医療の進展において重要な一歩となると考えられます。
今後、これらの解析手法を他のがん種にも応用し、新たな治療標的の発見や予後予測因子の確立に寄与したいと考えています。また、エピジェネティクスとゲノム構造の関係をさらに解明することで、がん治療における新しいアプローチの提供を目指します。

図1
図1.スーパーエンハンサーとゲノム構造変異の重複が見られるがん関連のパスウェイに該当する遺伝子群

プレスリリース・NEWS

研究者について

医療AI研究開発分野  ユニット長 金子 修三/ 医療AI研究開発分野 分野長 浜本 隆二

キーワード 

肺腺がん、全ゲノムシークエンス、エピジェネティクス