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キーワード:大腸がん、慢性炎症、潰瘍性大腸炎慢性炎症が大腸がん形成を促進する分子機序を解明
日本における大腸がんでの死亡数は、がん全体の死亡数において第二位を占めます。大腸がんにはサブタイプがあり、炎症性サイトカインを高発現する大腸がんは予後が悪いことが知られています。また、潰瘍性大腸炎の患者さんは大腸がん発症のリスクが高いことも知られています。このように、大腸がんの発生や進行は、慢性炎症によって促進することが知られていますが、その根本的な分子機序には不明点が残されています。
私はこれまで、トランスポゾンを用いた順遺伝学的手法によりマウス生体内スクリーニングを行い、がん関連遺伝子の網羅的探索を行なってきました。この手法により、マウス体細胞ゲノムにおいてランダムにトランスポゾン挿入変異を引き起こし、腫瘍形成を誘導します。腫瘍ゲノム中のトランスポゾン挿入部位を決定し、候補遺伝子を同定します。ヒト腫瘍で認められる遺伝子変異が多数同定できることから、ヒト腫瘍の再現性が高く非常に有用なアプローチと言えます。
本論文では、KrasG12D変異を持つ大腸炎モデルマウスを利用し、トランスポゾンによる大腸腫瘍を形成させて関連遺伝子を同定しました。大腸炎マウスでは、非炎症マウスと比較して寿命が短縮し(図1a)、また、サイズの大きい腫瘍が多く形成されました(図1b)。この結果は、大腸炎によって腫瘍形成が促進することをマウスモデルでも再現できたことを示しています。
腫瘍形成に関与した責任遺伝子を同定するために、腫瘍ゲノム中のトランスポゾン配列を手掛かりに、新たに確立した情報解析パイプラインを用いてトランスポゾン高頻度挿入部位を決定し、その近傍にある1,459個のがん関連遺伝子を同定しました。次に、大腸炎関連腫瘍で高頻度に変異の認められる遺伝子を探索し、Cdkn2aやTrp53等細胞老化関連遺伝子が関与する結果を得ました。この傾向は初期腫瘍でも同様であり、炎症微小環境で形成される腫瘍は、非炎症微小環境で形成される場合と一部異なる遺伝子変異を獲得する傾向があることがわかります。
3次元培養系を用いた詳細な解析を行うと、TNFαは大腸上皮細胞において細胞老化経路を活性化し、同時に幹細胞様化を誘導し細胞状態を変化させることが明らかとなりました。細胞老化経路は腫瘍抑制に働くシグナル経路として知られています。TNFα存在下でCdkn2aやTrp53に変異が入ると、細胞増殖が促進することがわかりました( 図2)。これらの結果は、TNFαが高発現するがん微小環境において、細胞老化経路に変異を持つ細胞は増殖に有利に働くことを示しています。
Cdkn2a変異によりCDK04月06日が活性化すると考えられるため、CDK04月06日阻害剤であるパルボシクリブが大腸炎関連腫瘍に効果があるかをマウスで検証しました。6 週間の投与で、大腸炎関連腫瘍モデルマウスの寿命が有意に延長したことから、効果がある可能性が示されました。本研究の結果から、炎症刺激に起因する細胞状態の変化が、大腸がんの進行に影響を与えることを明らかにしました。今後、慢性炎症を伴う大腸がん治療における個別化医療の開発に役立つ可能性があります。
悪性度の高い大腸がんに対する有効な治療法は少ないため、今後も新規治療法開発を支える基礎研究を続けていきたいと思います。
私はこれまで、トランスポゾンを用いた順遺伝学的手法によりマウス生体内スクリーニングを行い、がん関連遺伝子の網羅的探索を行なってきました。この手法により、マウス体細胞ゲノムにおいてランダムにトランスポゾン挿入変異を引き起こし、腫瘍形成を誘導します。腫瘍ゲノム中のトランスポゾン挿入部位を決定し、候補遺伝子を同定します。ヒト腫瘍で認められる遺伝子変異が多数同定できることから、ヒト腫瘍の再現性が高く非常に有用なアプローチと言えます。
本論文では、KrasG12D変異を持つ大腸炎モデルマウスを利用し、トランスポゾンによる大腸腫瘍を形成させて関連遺伝子を同定しました。大腸炎マウスでは、非炎症マウスと比較して寿命が短縮し(図1a)、また、サイズの大きい腫瘍が多く形成されました(図1b)。この結果は、大腸炎によって腫瘍形成が促進することをマウスモデルでも再現できたことを示しています。
腫瘍形成に関与した責任遺伝子を同定するために、腫瘍ゲノム中のトランスポゾン配列を手掛かりに、新たに確立した情報解析パイプラインを用いてトランスポゾン高頻度挿入部位を決定し、その近傍にある1,459個のがん関連遺伝子を同定しました。次に、大腸炎関連腫瘍で高頻度に変異の認められる遺伝子を探索し、Cdkn2aやTrp53等細胞老化関連遺伝子が関与する結果を得ました。この傾向は初期腫瘍でも同様であり、炎症微小環境で形成される腫瘍は、非炎症微小環境で形成される場合と一部異なる遺伝子変異を獲得する傾向があることがわかります。
3次元培養系を用いた詳細な解析を行うと、TNFαは大腸上皮細胞において細胞老化経路を活性化し、同時に幹細胞様化を誘導し細胞状態を変化させることが明らかとなりました。細胞老化経路は腫瘍抑制に働くシグナル経路として知られています。TNFα存在下でCdkn2aやTrp53に変異が入ると、細胞増殖が促進することがわかりました( 図2)。これらの結果は、TNFαが高発現するがん微小環境において、細胞老化経路に変異を持つ細胞は増殖に有利に働くことを示しています。
Cdkn2a変異によりCDK04月06日が活性化すると考えられるため、CDK04月06日阻害剤であるパルボシクリブが大腸炎関連腫瘍に効果があるかをマウスで検証しました。6 週間の投与で、大腸炎関連腫瘍モデルマウスの寿命が有意に延長したことから、効果がある可能性が示されました。本研究の結果から、炎症刺激に起因する細胞状態の変化が、大腸がんの進行に影響を与えることを明らかにしました。今後、慢性炎症を伴う大腸がん治療における個別化医療の開発に役立つ可能性があります。
悪性度の高い大腸がんに対する有効な治療法は少ないため、今後も新規治療法開発を支える基礎研究を続けていきたいと思います。
プレスリリース・NEWS
- 慢性炎症が大腸がん形成を促進する分子機序を解明(2023年10月24日)
研究者について
キーワード
大腸がん、慢性炎症、潰瘍性大腸炎