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キーワード: 膀胱がん、FGFR3、腫瘍免疫療法膀胱がんの層別化を加速

膀胱がんの層別化を加速バナー
免疫チェックポイント阻害剤はがん治療を大きく変えましたが、残念ながらその奏効率は約30%程度にとどまります。一方、免疫チェックポイント阻害剤を使用すると様々な副作用が起こり得ますので、奏効する患者さんを事前に予測可能になれば、効率よく、かつ安全な医療を提供することが可能になります。

日本で膀胱がんと診断される方は年間約2万人と言われ、がん全体の中では10番目程度の頻度ですが、特に男性のがんの中では前立腺がん、肺がん、大腸がんなどに次ぐ、比較的多いがんです。一方で、どのような患者さんに免疫チェックポイント阻害剤が効きやすいのか、という点については、まだまだ統一的な見解が得られていません。

膀胱がんの中ではFGFR3遺伝子の異常が比較的高頻度にみられます。従来の報告では、FGFR3異常のある症例では腫瘍への免疫細胞(Tリンパ球細胞)の浸潤が少ない傾向にあり、「免疫チェックポイント阻害薬の効果は限定的である」と推測されていましたが、近年、この推測に否定的な前向き無作為比較試験の結果が報告され、見解が定まっていませんでした。

そこで、私達は大阪医科薬科大学泌尿器科学教室との共同研究で膀胱がんの腫瘍検体を389例集積し、次世代シークエンスによりゲノム異常や遺伝子発現の解析を行いました。その結果、特に筋層浸潤性膀胱がんではFGFR3異常の有無で、腫瘍免疫微小環境が異なり、免疫チェックポイント阻害剤の効果が異なることがわかりました(図1)。
図1

図1 FGFR3異常の有無により腫瘍免疫微小環境が異なる。
がん組織を細胞タイプとその細胞状態(エコタイプ)まで細分化して解析すると、腫瘍を取り巻く免疫微小環境がFGFR3異常の有無によって異なることがわかった。

また、今回解析対象とした389例中72例が経過観察中に免疫チェックポイント阻害薬で治療されていることから、その治療奏効について解析しました。その結果、FGFR3変異症例群での奏効率は31%と、正常FGFR3症例群の20%よりも高いことが示されました。最後に、膀胱がんの分子サブタイプと遺伝子変異の有無を組み合わせた治療奏効率について解析しました。FGFR3変異症例では、基底/扁平サブタイプ(Ba/Sq)と管腔乳頭サブタイプ(LumP)が多くみられますが、LumP/FGFR3異常群とLumP/FGFR3正常群を比較したところ、治療奏効率に大きな違いがみられることがわかりました(LumP/FGFR3異常群では奏効率50%、LumP/FGFR3正常群では奏効率5%)。さらに、奏効率の低いLumP/FGFR3正常群の症例では、IDO1, CCL24, IL1RL1, LGALS4, NCAM (CD56)などの因子が、免疫チェックポイント阻害剤の奏効率を向上させるための治療標的となる可能性が示されました(図2)。
図2

図2 管腔乳頭サブタイプではFGFR3異常があると免疫チェックポイント阻害剤の奏効率が高い。
膀胱がんを基底/扁平サブタイプ(Ba/Sq)や管腔乳頭サブタイプ(LumP)などの分子サブタイプに分類すると、FGFR3異常の有無でLumPタイプの免疫チェックポイント阻害剤への反応性が高いことがわかった。また、奏効率が低いLumP/FGFR3正常群ではいくつかの免疫関連因子の遺伝子発現が上昇しており、免疫チェックポイント阻害剤への奏効率を向上させるための治療標的となる可能性が示唆された。

従来、FGFR3変異をもつ症例は一様に「管腔(Luminal)系サブタイプ」と関連付けられ、免疫チェックポイント阻害薬の効果が低いと考えられていました。しかし、今回、日本人の大規模膀胱がんデータを用いた解析を行い、FGFR3異常症例における免疫チェックポイント阻害薬の効果が必ずしも一様に低いわけではないことや、FGFR3変異症例内に腫瘍免疫微小環境の多様性がみられることなどが明らかになりました。さらに、膀胱がんの分子サブタイプと遺伝子変異を固定的に関連付けるのではなく、分子サブタイプと遺伝子変異を細かく組み合わせることによって、より正確な治療奏効率の予測が可能になることを示し、分子サブタイプごとの治療標的候補を同定しました。本研究の成果応用として、症例ごとのprecision medicine(精密治療)や免疫複合療法の実現が期待されます。

プレスリリース・NEWS

研究者について

がんRNA研究分野 分野長 吉見 昭秀

キーワード

膀胱がん、FGFR3、腫瘍免疫療法