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脳腫瘍に対する全ゲノム解析を含めた分子機構の解明

次世代シークエンサーの普及により、さまざまな原発性脳腫瘍に対して網羅的な遺伝子解析が行われ、遺伝子異常に基づいた分類が導入されつつあります。多くの脳腫瘍では、遺伝子異常の有無により、予後や分子生物学的背景に基づいた患者層別化が行われるようになってきましたが、新規治療の開発は十分に行われていません。これまでの遺伝子解析は主にタンパク質をコードする領域を対象としており、ノンコーディング領域の異常は十分に解明されていません。

私たちは、悪性脳腫瘍であるGrade IIおよびIIIの神経膠腫(Lower grade glioma, LGG)の遺伝子異常を明らかにするため、合計757例のLGGに対し網羅的遺伝子解析を行いました(Suzuki H et al., Nature Genetics. 47(5):458-468. 2015.)。その結果、LGGは、遺伝子変異のパターンによって、3つのグループに分類されることを明らかにしました。本研究は、世界で初めてのLGGに対する網羅的遺伝子異常解析の報告であり、国内外で高い評価を受け、2016年および2021年のWHO脳腫瘍分類にも使用されています。

また、私たちは悪性脳腫瘍である髄芽腫341例の全ゲノムデータを再解析することにより、U1 small nuclear RNA (U1 snRNA)の変異を同定しました(Hiromichi S. Nature, 574(7780):707-711. 2019.U1 snRNAはヒトゲノム内に複数存在するため、通常の解析手法では発見が困難であり見逃されていた新規変異です。さらに、様々な悪性腫瘍の全ゲノムデータを解析することで、慢性リンパ性白血病・肝細胞癌・膵臓癌でもU1 snRNA変異が生じていることを明らかにしました (Shimin S, Hiromichi S. Nature. 574(7780):712-716. 2019.)。本研究は、small nuclear RNAが腫瘍の病態に関与する世界で初めての報告であり、2021年のWHO脳腫瘍分類にも使用されています。

このように私たちは、さまざまな原発性脳腫瘍の全ゲノム解析によって、脳腫瘍に生じている異常な分子機構を解明し、新たな治療標的を同定することを目指しています。

LGG

WGS


G-CARDプロジェクト

G-CARD(Genome research in CAncers and Rare Diseases)は、2021年に日本で始まった全ゲノム解析等実行計画を基盤とするプロジェクトで、がんや希少疾患における全ゲノムシークエンスデータの臨床応用を目指しています。私たちの研究室は、この計画の一環として希少がん班に所属し、特に脳腫瘍に対する全ゲノムシークエンス解析を主導しています。

これまでに、400例以上の脳腫瘍症例に対して全ゲノムシークエンスを実施し、そのデータを解析しています。さらに、これらの症例に関連するさまざまなシークエンスデータを統合的に解析し、全ゲノムシークエンスの臨床実装を進めています。新たな遺伝子異常の同定や脳腫瘍の細分類の確立を目指し、研究を継続しています。

本研究を通じて、脳腫瘍の診断精度を向上させ、個別化医療の実現に向けた重要なデータを提供できることを期待しています。