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脳腫瘍に対する分子診断と診断法の開発

脳腫瘍は130を超える種類の疾患に分類されます。現在の脳腫瘍の診断には遺伝子の異常などの結果を含めて診断する分子診断が必要です。脳腫瘍における遺伝子異常が明らかになるにつれて、調べないといけない必要がある遺伝子は増えて言っております。
そのため、我々は脳腫瘍の分子診断を行う手法の開発を行っております。開発した診断方法を用いて、臨床実装できる体制の構築を目指しております。

脳腫瘍の診断に特化した遺伝子パネル検査の開発

現在、日本では遺伝子パネル検査ががんの診断手法として広く導入されています。遺伝子パネル検査は多くのがんにおいて、複数の遺伝子異常を同時に同定できる優れた手法として認識されており、脳腫瘍においても非常に有効です。しかしながら、いくつかの脳腫瘍では、診断に必要な特定の遺伝子がパネルに含まれていないこともあり、さらなる改良が求められています。

また、脳腫瘍では遺伝子異常だけでなく、染色体レベルでの広範囲な構造異常が診断に重要な情報を提供する場合もあります。そのため、遺伝子パネル検査に加え、染色体異常の解析も含めることが不可欠です。このような背景から、私たちは脳腫瘍に特化した遺伝子パネル検査の開発に取り組んでいます。

現在設計されているこの新しいパネル検査は、高精度で遺伝子異常を明確に調べることができ、診断が難しい症例に対しても貴重な情報を提供することが可能です(T Nakashima, Brain Tumor Pathol. 2024)。さらに、臨床実装に向けて症例の積み重ねや検査手法の改良を進めており、今後の臨床応用に向けて大きな進展が期待されています。
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ロングリードシークエンスを用いた診断法の開発

私たちの研究室では、ナノポア社の最新ロングリードシークエンサー「PromethION 2 Integrated (P2i)」をいち早く導入し、脳腫瘍に関する解析を進めています。この新しい技術の最大の特徴は、非常に長い配列データを取得できる点です。これにより、従来のシークエンシング技術では解析が難しかった塩基の繰り返し配列や染色体の構造異常を、より高感度で検出することが可能となります。

さらに、ナノポアシークエンサーは全長RNAシークエンシングにも対応しており、単に発現量を測定するだけでなく、RNAアイソフォームの違いも明確に把握することができます。加えて、塩基修飾の解析が可能なため、DNAメチル化やRNAの修飾など、遺伝子発現の調節に関与するエピゲノム異常も詳細に調査することができます。

これらの革新的な技術を駆使し、私たちは脳腫瘍のゲノムおよびエピゲノム異常の両面から新たな診断法や分類法の確立に取り組んでいます。また、新たな治療標的となる異常の発見にも注力しており、脳腫瘍の治療法開発に貢献することを目指しています。