トップページ > 研究組織一覧 > 分野・独立ユニットグループ > 脳腫瘍連携研究分野 > 研究プロジェクト > マルチオミックス解析を用いた悪性神経膠腫の腫瘍内多様性・治療抵抗性の解明

マルチオミックス解析を用いた悪性神経膠腫の腫瘍内多様性・治療抵抗性の解明

脳腫瘍は医療技術が発達した現代においても未だ治療困難な疾患です。近年のシークエンス解析の発展により、脳腫瘍がどのように広がっていくかわかってきました。腫瘍はまず特定の遺伝子異常が起きることで発生します。その後、異なった腫瘍細胞が別々に異常を獲得しながら増殖し、周囲の環境(治療を含む)に適応することがわかりました。これを腫瘍内多様性といい。悪性化や治療抵抗性に強く関与していることが明らかになってきました。

私たちは、Grade IIおよびIIIの神経膠腫(Lower grade glioma, LGG)のマルチサンプリング(同一腫瘍内の複数の部位からの組織採取)を行い、高深度の網羅的遺伝子異常解析によって、腫瘍内クローン構造を同定しました(Suzuki H et al., Nature Genetics. 47(5):458-468. 2015.)。神経膠腫は強い腫瘍内多様性を有しており、それぞれの腫瘍細胞クローンが独立して遺伝子変化を獲得しながら、時空間的に進展することが明らかになりました(図)。また、IDH1/2変異と1p19q共欠失は腫瘍発生の最も初期に生じており、空間的時間的にもその異常の有無は変化せず、診断マーカーとして有用であることを示しました。本研究は、世界で初めてのLGGに対する網羅的遺伝子異常解析および腫瘍内多様性の報告であり2016年および2021年のWHO脳腫瘍分類にも使用されています。
腫瘍内多様性

しかし、この多様性がどのようにして悪性化や治療抵抗性を引き起こしていくのかという詳細なメカニズムについては十分に解明されていません。その理由として、これまでの研究ではDNAの変異を中心に行ってきましたが、それ以外のDNA対する化学的な修飾(エピゲノム)やRNAやタンパク質の修飾などに対する異常によっても腫瘍内の多様性が引き起こされているのがわかってきました。近年の技術発展により、これらDNAの変異以外の異常も広く解析することができるようになってきました。

私たちは治療困難な脳腫瘍に対して、RNAを解析するトランスクリプトミクス、DNAの修飾やクロマチン構造の解析を行うエピゲノムプロファイリングを行い、マルチオミクス解析で多角的に脳腫瘍を調べることで、悪性化や治療抵抗性を獲得する原因となる異常を追究する研究を進めています。さらには、最新技術であるシングルセル解析技術を用いて、単一細胞レベルで神経膠腫の遺伝子発現およびエピジェネティックな遺伝子発現調節機構を解析しています。この手法により、神経膠腫の腫瘍内多様性によって生じる高浸潤能や治療抵抗性の獲得機序を明らかにし、新たな治療標的を同定することを目指しています。

GBMsinglecell.jpg



マルチオミクス解析による悪性脳腫瘍の病態解明

multiomics.jpg
記述、画像、写真の無断転用・転載は固く禁じます