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がんゲノミクス研究分野
研究室の紹介
がんゲノム:進化しつづける強靭なエコシステムの原動力
がんとは、ゲノム異常の発生・蓄積により誕生した腫瘍細胞が、更にゲノムを変えながら、治療を含めた様々な環境変化へ適応するためにクローン進化を続ける疾患と捉えられます。がん細胞のゲノムは時空間的に変化し、周囲微小環境をも巻き込みながら、適応における局所最適化を目指す多様なクローン集団で形成される強靭(ロバスト)な生態系(エコシステム)を駆動する原動力となっています(実験医学増刊号Vol. 32, No.12, 2014、実験医学 Vol.31, No.1, 2013)。
点突然変異や染色体構造異常といったがんにおけるゲノム異常は、加齢に伴う確率的な事象に加えて、様々な外的要因(感染や喫煙、発がん因子への暴露等)・内的要因(DNA修復系異常等)によって誘発されます。個別の変異要因がDNAに残す特徴的な分子刻印(変異シグネチャー)からがんゲノムがどのように生まれ、進化してきたのかという歴史(系譜)やその原因を辿ることも可能になってきました(Nature, 500:415-421, 2013 [PMID: 23945592])。
自己中心的な非自己性:腫瘍免疫とがんゲノム
一方でゲノム異常の蓄積に伴い、がん細胞では正常細胞からかけ離れた「非自己性」が増強されています。こうした非自己性を保有した細胞は本来ならば宿主免疫機構によって監視・除去されるはずですが、がんは更なるゲノム改変や免疫環境編集により免疫監視を回避するといった、いわば「自己中心的な非自己性」と言うべきユニークな特質を持っています。(実験医学 Vol.35, No.4, 2017)
NEW!本研究分野が目指すもの
がんゲノミクス研究分野は、病理組織学的知識を基盤としながら、第2・第3世代高速シークエンサー等最新のゲノム解析技術を駆使し、本邦やアジアで重要な難治がん(肝臓がん・胆道がん・胃がん等)や希少がん(肉腫・成人T細胞白血病・小児腫瘍等)を主要な研究対象として、がんゲノム・エピゲノム・遺伝子発現の包括的な解析を進めています。同時に国際がんゲノム研究共同体 (International Cancer Genome Consortium: ICGC, Nature 464:993-998, 2010 [PMID: 20393554])(http://icgc.org) に日本の代表グループとして参加し、英国やWHOと共に国際的ながん変異解析プロジェクト(Mutographs of Cancer)(外部サイトへリンク)に参加するなど、国際的な貢献も果たしています。
国際的ながん変異解析プロジェクトの詳細については、国際連携を含めた大規模ながんゲノム解読 をご覧ください。
本研究分野は、新たながん関連遺伝子の同定や免疫微小環境までを視野に入れた新規治療標的・バイオマーカーの同定、変異シグネチャー解析による発がん要因の推定、がんゲノム多様性の全体像解明といった研究によって、がんの病態を分子遺伝学的に理解し、ゲノム情報を活用したがんの個別化医療(治療・診断・予防)やがんの多様性の克服に向けた新たな突破口を開くことを目的として研究を進めています。また研究所のコアファシリティ部門において高速シークエンサー解析並びにその情報解析支援も担当しています。
基礎研究と臨床研究の密接な連携を目指した教育
当研究分野ではこれまでに外科・病理・内科・整形外科出身の臨床医の先生をリサーチレジデントあるいは研修生として受け入れています。実臨床で遭遇する様々な疑問やアイディアを研究に活かすことで、ゲノム解析研究を臨床研究へ展開するための非常によい研究テーマが産まれると考えています。