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遺伝子異常のデータベースの構築
希少がん研究には、「症例数が少なく臨床検体が得難い」という特有の問題が存在します。臨床検体が得難いことに起因して、希少がん研究では研究に必要な基本的なツール(研究基盤)の開発が遅れています。希少がん研究分野は、希少がんの研究に必要な研究基盤の開発を行います。
バイオインフォマティクスによるアプローチ
臨床検体を用いた実験からは、生体の中で実際に起きている事象を知ることができます。PDX(Patient-Derived Xenograft)やPDC(Patient-Derived cell)を用いた実験は重要ではありますが、そこで得られた結果や仮説がほんとうに生体内で起きているかを、臨床検体を用いて検証することが必要不可欠です。臨床検体を用いて多くの悪性腫瘍において網羅的解析が実施され、転移・再発、薬剤への奏効性・抵抗性などに相関する遺伝子の異常が同定されてきました。そして、解析データはデータベース化され、さらに多くの研究において使用されてきました。一方、希少がんでは、データベースの構築や、公的なデータベースから得られる網羅的解析のデータの活用について、取り組みの余地が多々残されています。
希少がん研究分野では、希少がんの臨床検体(手術検体、血液サンプル)を用いた網羅的解析を実施し、結果をデータベース化しています。 RNAやタンパク質の異常を臨床病理学的データと関連付けるデータベースは、希少がんの研究を大いに促進すると考えられます。Ewing肉腫についてはプロテオーム解析データのデータベース化を試みました(文献1、2)。私たちが構築したプロテオームデータベース(GeMDBJ Proteomics, Genome Medicine Database of Japan Proteomics)は、現在までに60万回以上もの閲覧回数を記録しました。疾患プロテオームのデータベースとしては世界的に類を見ないユニークなものとして知られています。現在はプロテオームだけでなく、トランスクリプトームやゲノムのデータについても、データベース構築に取り組んでいます。
臨床検体が限られている希少がんにおいては、既存のデータの再利用はとりわけ必要です。希少がんの網羅的解析のデータは、少数の臨床検体を用いて方々で採取されてきました。結果の多くはインターネット上で公開されています。論文ごとの症例数は少ないのですが、合計すると膨大な数の臨床検体からすでにデータが採取されています。主に論文単位で散在するデータを統合して解析する「メタ解析」を私たちは進めています。このような解析で重要なことは、臨床病理情報を正しく整理することと、バイオインフォマティクスの手法をフルに活用することです。希少がん研究分野では、医学部出身の研究者が一つ一つの論文にあたり、サンプルに付随するデータの精度を吟味し整理し、バイオインフォマティシャンが作製するカスタム・データベースに結果をまとめています。培養細胞を用いたin vitroの実験データも参考にして、希少がんの網羅的遺伝子解析データから新しい治療法を開発する方法論を確立しようとしています。
バイオインフォマティクスの手法はバイオマーカーの開発や、適応拡大の研究において特に有効です。上述のカスタム・データベースを利用して適応拡大可能な抗がん剤を探索できるプログラム群(株式会社オプト社との共同研究)を用いて、希少がんへ適応可能な抗がん剤および新規の創薬標的分子を発見する方法論を開発しています。