理事長ごあいさつ
国立がん研究センターは、1962 年に我が国のがん医療・がん研究の拠点となる国立の機関として創設され、以来、日本のがん医療と研究を強力にリードしてきました。2010 年に独立行政法人として新たに生まれ変わり、2015 年には国立研究開発法人に指定されたことに加え、中央病院(築地キャンパス)・東病院(柏キャンパス)が相次いで医療法に基づく臨床研究中核病院に指定されました。国際水準の臨床研究や医師主導治験等の中心的な役割を担う機関として期待されており、世界レベルの研究成果の創出と研究開発成果の最大化が求められています。まさに基礎と臨床の両方の視点から、がん制圧に資する研究・診療両面でのがん対策を実践するとともに、その戦略を国や国民の皆様に提言できる機関としての存在意義が求められています。
今や国民の2 人に1 人が一生に一度はがんにかかります。現在、年間およそ100 万人が新たにがんと診断されており、社会における高齢化の進展に伴い、がん罹患数は今後も増え続けることが想定されています。国立がん研究センターの使命としては、個々のがん患者に対してゲノム等の情報に基づき適した治療を提供することに加え、がんの発症予防という観点からも、がんの高リスク群を同定し、適切な予防法を開発・実践 することが求められます。まさに個々人に対する “高精度医療”(Precision Medicine)の実践です。これらの目的を達成するためには、個体におけるがんの特性や多様性を解明するための研究基盤として、ゲノム解析を含む統合的オミックス研究の強力な推進を図るとともに、その成果に基づいて個人に適した治療法・予防法を開発することが求められます。腫瘍組織における局所的な免疫応答の実態把握も喫緊の課題と考えています。
国立がん研究センターでは、国の「がん研究10か年戦略」のスローガン「がんの根治・予防、がんとの共生」に対応して、特に重点的な課題として以下の点に取り組んできました。
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アンメットメディカルニーズの課題解決のための研究・臨床体制の強化
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ゲノム情報に基づく個々人に適した医療・先制医療提供体制の整備と政策提言
新たな医療創出という観点からは、ゲノム解析技術の革新的な進歩に伴い、我が国はがんゲノム情報に基づき個々人に適した医療を提供する、がんゲノム医療の実装へ向けて大きく動き出しています。2018年3月には、中央病院・東病院が共にがんゲノム医療中核拠点病院に指定されました。がんゲノム医療拠点病院および連携病院とも協力しながら、がんゲノム医療が適切に提供されるよう努めるとともに、情報共有や人材育成にも注力しています。さらに、国際競争力のある開発基盤の強化のため、アジア地域諸国との協働にも精力的に取り組んでいます。
新たながん対策・政策提言に資する課題に関しては、当センターの専門家の英知と経験を集約し、組織横断的に一体となって取り組む必要があります。そこで、2021年には組織改編により新たにがん対策研究所を開設しました。国内外の産学官の研究者・研究医療機関等とも協力し、がん制圧に向けて実効性のある連携関係を構築していくことが欠かせません。併せて、がん患者およびその家族を含む、国民の願いや期待を広く課題として反映し、解決に向けて取り組むことも求められます。全てのがん患者とそのご家族が、常に希望を持ち続けることできる医療提供体制と、そのための研究基盤を整えていくことを目指したいと考えています。
国立研究開発法人国立がん研究センター
理事長 中釜 斉