トップページ > グループ紹介 > 精神腫瘍学開発分野(柏) > 主な研究内容 > 高齢がん患者に関する研究 > 高齢がん患者に関する研究
高齢がん患者に関する研究
高齢者のがん医療の質の向上に資する簡便で効果的な意思決定支援プログラムの開発に関する研究
研究概要・目的
がん医療における高齢者の現状
超高齢社会を迎えたわが国では、65歳以上人口が3459万人(総人口比27.3%)、75歳以上人口も1685万人(総人口比13.5%)(2016年10月1日現在 総務省調べ)となりました。今後団塊の世代が後期高齢者に入る2025年までには、都市部を中心に高齢者の人口が1.5-2倍程度に急増することが推測されています。特に、後期高齢者は、何らかの医療を受けつつも、比較的自立した社会生活を営む(Vunlerable Elders)場合が多く、どのような支援方法が望まれるのか、治療が必要となった場合には治療の適応はどのようにすればよいのか、等議論の焦点となっています。
本研究の目的
本研究では、高齢がん患者のがん治療上の課題ならびに、患者・家族の医療ニーズを網羅的に明らかにするとともに、がん診療連携拠点病院において実施可能な簡便で効果的な意思決定支援プログラムを開発し、実施可能性を確認し標準化する事を目的とし、検討を進めました。
本研究の研究方法
- 高齢者のがん診療の実態把握と診療の質の改善に関する検討
- 高齢者のがん診療を支援する看護師・ソーシャルワーカーが捉える困難感と課題
- 高齢者の服薬アドヒアランスに関する調査
- レセプトデータを活用した高齢がん患者の入院治療における実態把握
- 高齢がん患者に対する意思決定支援に関する実態の検討
- Clinical nudge の倫理的検討
- 高齢者のがん治療に関連する診療ガイドラインの検討
- 臨床倫理ガイドラインの検討
- 療養生活に関する簡便な意思決定支援プログラムの開発
結果
高齢がん患者の意思決定支援の現状を質的量的に検討し、その結果から、わが国の意思決定支援の質の向上に資する支援技術の開発を行いました。その結果、わが国のがん治療の中核をなすがん診療連携拠点病院において、高齢者においてもがん治療は実施されていること、高齢者の場合10%以上にADL の低下が併存しつつ治療を行っていること、治療後のADL低下や予期しない再入院が比較的高い割合で生じている実態が明らかとなりました。これは、治療開始前の時点で、治療後の経過について予め十分に検討し、本人の価値観に沿う治療であることをより丁寧に確認する必要があることを示しています。
加えて、高齢がん患者の意思決定支援の困難さに関しても、治療や疾患についての情報提供や理解度の確認は比較的行われているのに対して、今後の見通しの説明や治療方針決定への参加を促すと言った長期的な視点での支援が薄いことが明らかとなりました。従来より、意思決定支援の課題は指摘されていましたが、その困難の構成要素を検討し、意思決定支援のプロセスと組み合わせて解析を行ったのは初めてです。
上記の検討をふまえ、がん診療連携拠点病院での意思決定支援の質の向上を目的に、意思決定支援の手引きを開発し、あわせて支援プログラムの実施可能性を検討しました。プログラムの時間的制限はあるものの、満足度は高く、実施可能性は示されました。今後、本手引きならびに支援プログラムの有効性を検討する予定です。
参考資料(高齢者のがん診療における意思決定支援の手引き)
高齢者のがん診療においては、がんに対する治療適応の他に、併存症や生活状況を踏まえて治療方針を決めていく必要があります。特にがん治療を行うかどうかなどの大きな決定の際には、上記のほかに患者さん本人の多様な価値観を十分にくみ取ることや認知機能障害(認知症)をもつ方に対して、どのように診療を提供するかは大きな課題となります。
高齢者の医療では、国内外問わず社会や医療従事者の見方にバイアスがかかりがちであることが指摘されています。そのバイアスの一つに、「本人が言えないので、自分自身では決められないだろう」と考えられがちなことが挙げられます。特に認知機能障害が疑われる場合には、「認知症だから決められない」「周囲の者が決めた方がよりよい選択ができる」と思われることすらあります。治療方針や療養の場所について話し合うことは、本人の生命や身体など他には代えようのない重要な事柄(一身専属の事柄)であり、本人自身が決めることがふさわしい事柄です。医療者や家族を含めた、私たちは、まず「患者さん本人の意思が尊重されること」を確認し、その上で「患者さん本人が決めること」「本人の納得」した選択肢を支援することが求められます。
高齢者のがん診療は、若年のがん診療場面と比較して、治療の選択肢が多いという特徴があります。さらにはどの治療を選択するかによって、その後の生活やQOLが大きく変わる点もあります。それだけに、患者さん本人や本人を支えるご家族等が納得して治療を進めることがより大切であると言えます。
ここでは、がん診療連携拠点病院などにおいてがん診療に従事する医師や看護師・相談員・医療ソーシャルワーカー・薬剤師等のみなさまに、高齢の方のがん診療の際に意思決定をどのように考えていけばよいのか、本人の決める力(意思決定能力)をどのように評価し、どのような支援をすればよいのかをまとめました。特に、国の公開した意思決定支援に関するいくつかのガイドラインを踏まえ、たとえ認知症の診断を受けていたとしても、本人の保たれている認知能力を最大限に活かすためにどのような働きかけや工夫ができるかについても触れるように致しました。
周囲の支援者が勧める選択肢を、本人が受動的に選択する場合も現にあります。しかし、可能な限り患者さん本人がその選択肢のメリット・デメリットについて説明を受け、理解、負担なく選択・表明し、その決定を支援する。そのような医療をみなさまとともに目指したいと願っています。
・高齢者のがん診療における意思決定支援の手引き(PDF2.23MB)