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動機づけ面接法を禁煙支援に活かそう
ポイント
- 喫煙者の持つ両価性について理解する
- 禁煙支援の際、知っておくと便利な人の性質(正したい反射、心理的防衛)について理解する
- 禁煙面接は喫煙者と共同作業であることを理解する
- 禁煙の兆し発言の扱い、情報提供のコツについて理解する
- 動機づけ面接を応用した禁煙面接の例
動機づけ面接法(Motivational Interviewing)とは
- 変化に対する両価性を含んだ問題に対処するため、抵抗を生まず協働的な会話スタイルを保ちながら、その人自身が持つ変化への動機と表明を強めていく方法
- 行動療法の専門家であるミラー(ニューメキシコ大学)と心理学者のロルニック(カーディフ大学)が1980年代から開発
- アルコール問題を持つ来談者への面接が効果的だった治療者のスタイルを分析、さらに洗練した
- 共感+行動への方向にガイド
- MIでないもの(警告、脅し、ラベル貼り、評価、同情、説得、指示 etc)
- 禁煙に関しては、プライマリケアにおいてタバコの害を教示する指導に比べて、5.2倍の1年禁煙維持率(ランダム化試験)
両価性と正したい反射、心理的防衛
- 「正したい反射」とは、相手が間違ったことを言うと反射的に正したくなること。
- まずは支援者自身の「正したい反射」を自覚しよう。「タバコは身体に悪いんですよ。」「止めることがあなたの為です!」と、指摘したくなるところをグッと抑えるところから。
- 喫煙する人には「やめたい」「吸いたい」気持ちが同居することが前提(「両価性」を抱える)
- 開かれた質問は「両価性」「複数の思い」が出やすい
例:
Ns「タバコについてはどんな風に考えていますか?」
Pt「本当はやめられたらいいんでしょうけど、今は無理。」
(やめたい気持ちと吸いたい気持ち、今は難しい気持ちが表出される。) - 目の前の相手が、今「行動変容の山」のどの辺りを登っているのか常に考慮して対応する。
(相手よりも先に飛び過ぎない、背中を押し過ぎない)
特に、言葉としての「禁煙」は「心理的防衛」(強い説得を受けるとその説得に対して反論したくなる)を生みやすい
言い方の例:
「禁煙」→「タバコとの付き合い方を見直す」「1日だけ試してみる」
「タバコを休む練習をしてみる」「タバコを卒業する」 - 禁煙の重要度や自信度は両価性の表れ
わずかな重要性や自信も、どうしてそう思うのか尋ね面接の中で具体的にしていく
相手の物語りを共同作業で読み解く気持ちで面接に臨む
- 想像力を働かせ具体的に確認(=共感)する
例:
Pt「20才以来、ずっと吸いっぱなしなんですよ。」
Ns「ずっとということは、1日も休まずに…。」
Pt「うーんどうかな。あっ、結婚する時にはちょっと止めていました。」
(曖昧な「ずっと」という言葉を確認することで、話が具体的になっていく) - 何よりも抵抗を生まずに本音で話せる場になるよう工夫する
(気持ちや価値観を表出できるように) - 開かれた質問を糸口に入ってみる
例:
Ns「ご自身のお体についてはどんな風にお考えですか?」
Pt「自分のことよりも家族が健康でいてくれたらそれでいい。」
(家族のことを大事に考えていることを糸口に、なぜそう思うのか、これから自分がどうなればよいのかなど一緒に考える) - 出来ていることに注目し言葉で表す
禁煙に関することだけでなく、相談者の強みや資源
例:
Pt「今日は忙しくて受診するのは止めようと思ったんですけど…。」
Ns「それでもこうやって受診してくださったんですね。どうして忙しいのにわざわざ来ようと思ったのでしょう…。」 - 共感と同意の違い
例:
Pt「ストレスがかかるから(タバコを)吸うんです。」
Ns「そうですよねー、私もそうすると思います。」×(同意・同感)
Ns「なるほどー、吸いたいと思うほどいつもストレスがかかるのですね。」〇(共感・確認)
「質問」と「共感」(=「確認」=「聞き返し」)の使い分け
- どちらも確認の意図があるが、特に、実行出来ていないことを尋ねる「質問」には、1答える義務が伴う、2出来ていないことを責めているような、暗黙のメッセージを含んでいる。
Pt「昔はちょっと止めてみたこともあったんですよ。」
Ns1「どうして(禁煙が)続かなかったんですか?」(質問)
Ns2「続かなかった理由はどんなことでしょう。」(質問)(Ns1より中立的)
Ns3「禁煙が続かなった理由が何かあるんですね…。」(聞き返し)(Ns12より共感的)
禁煙の兆し発言(チェンジトーク)を大切に扱う
- 禁煙に向けた発言が出やすい質問をしてみる
例1:
Ns「もしあったらでいいんですけど、タバコを止めるとよさそうなことってどんなことがあるでしょう。」
例2:
Pt「昔はちょっと止めてみたこともあったんですよ。」
Ns1「続かなかった理由はどんなことなんでしょう。」
Ns2「止めてみた理由はどんなことなんでしょう。」
Ns1は続かない理由、Ns2止めてみた理由、を尋ねている。
Ns1Ns2のどちらがチェンジトークを引き出せるでしょうか。 - 見つけたら、控えめにその話題を掘り下げる
Pt「身体に悪いことは分っているんだけどねぇー。」
Ns「へぇー…。身体に悪いって例えばどんなことですか?」
情報提供(交換)のコツ
- 引き出す
Ns「〇〇について何が一番知りたいですか?」(開かれた質問)
Ns「〇〇について知っていることはどんなことですか?」(開かれた質問) - 許可をとる
Ns「それでは私の方から少しお伝えしてもいいですか。」 - 情報提供(選択肢があるとBetter!)
Ns「禁煙外来という手もありますし、今は薬局でも貼り薬やガムが買えるので、そういうものから試してみることも出来ます。」 - 引き出す
Ns「今の話を聞いてどう思われましたか?」(開かれた質問)
引用・参考書籍、研修会
Miller, W. R., Rollnick, S.: Motivational Interviewing (Third Edition): Helping People Change. Guilford Press, 2012
加濃正人:『禁煙の動機づけ面接法』中和印刷, 2015
Soria R,Legido A, Escolano C, et al: A randomized controlled trial of motivational interviewing
for smoking cessation. British Journal of General Practice,2006; 56(531), p 768-774
注:MIワークショップ・勉強会などに参加したい場合には、動機づけ面接ファシリテーターネットワーク(MINF)HPを参照されたい。(外部サイトにリンクします)
動機づけ面接法を活用した禁煙面接の例
健診時の保健師(以下、保)による面接で、受診者はAさん(47歳・男性)(以下、A)。
保健師が発言した「開かれた質問」はO、
「共感」=「確認」=「聞き返し」はR、
Aさんが発言した「禁煙の兆し発言」(チェンジトーク=CT)にはアンダーラインを引いた。
保1「お忙しい中健診の面接においでくださりありがとうございます。内科診察では医師からどのようなお話がありましたか?」(O)
A1「大した話はなかった、まぁしいて言えばタバコのことくらい。」
保2「タバコ…。」(R)
A2「ああ、タバコの欄にチェックしていたからじゃないかな。医者はすぐ騒ぐ。」
保3「なるほど、そうでしたか。Aさんご自身は実際のところどのように思っていらっしゃいますか?」(O)
A3「別に、それほど気にしていないよ。本数も減らしているから今は大丈夫だよ。」(CT)
保4「本数を減らして、忙しい中Bさんなりに気をつけているんですね。」(R)
A4「無理はしないと決めているので、やれることだけね。」(CT)
保5「やれることから。少し本数を減らそうと思ったのはどんな理由からですか?」(O)
A5「まぁ若い時は2箱平気で吸っていたけど、この年齢になるとそうもいかないからね。」(CT)
保6「年齢的にそろそろ身体のことが気になる。」(R)
A6「50が見えてくると少しは考えますよ、あと10年したら定年だし身体も若い時みたいにはいかないね、疲れが出るようになったし。」(CT)
保7「できれば仕事に支障がない程度の健康は保っていたい。」(R)
A7「まぁ、本当はスッパリ止めた方がいいんだけど、今はなかなかできないよ。」(CT)
保8「定年して遠い将来は止めてみてもいいかなと。」(R)
A8「いやいや、家族からは今すぐ止めて、って言われてますよ(笑)。」(CT)
保9「ご家族もBさんの身体のこと心配されているんですね。」(R)
A9「まぁね、妻はやっと子育てが落ち着いたのに、面倒かけてほしくないんでしょう。」
保10「Aさんも奥さんにはあまり心配はかけたくない。」(R)
A10「そりゃまぁ、お互い元気でいたいですからね。でも、タバコって止めるのは難しそうだからなぁ。」(CT)
保11「ちょっとハードルが高い感じがあるのですね。Bさん、今は禁煙もお薬とか使って楽になったようなんですが、今後の参考までに私の方から3分ほどお話ししてもいいですか?」
(R・情報提供の許可)
A11「それだったらいいですよ、お願いします。」(CT)
(瀬在泉:動機づけ面接法,講義と演習で学ぶ 保健医療行動科学,日本保健医療行動科学学会編,講義編様々なアプローチ,日本保健医療行動科学学会雑誌,Vol.31別冊:64-67,2017.3)
注:一部改編