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「がんとわかったとき やっておきたいいくつかのこと」

日時:2015年10月27日(火曜日)13時から16時30分
場所:逗子文化プラザ さざなみホール

 

国立がん研究センターでは、がんをはじめとする健康や医療に関する情報を、市民の方々が生活の中で身近に感じられるような環境づくりを目指して、図書館と医療機関が連携したプロジェクトを進めています。その取り組みの1つとして、昨年度に引き続き、神奈川県逗子市立図書館で健康・医療ワークショップが開催されました。本年度は、第1部の映画鑑賞会と第2部のミニシアターの構成で行われました。ミニシアターは、がん診療連携拠点病院の医師や相談員、市の保健師、図書館員、地元の市民団体のメンバーらが演じる寸劇です。当日の逗子市および市外から58人、関係者を含め86人の参加者のもと行われました。

今回の企画は、医療を生活の中でより身近なものとして感じていただくことをテーマに、単に言葉で伝えられる情報、内容を演じて伝えることにより、市民のみなさんに医療現場で起こることを、より現実の場面に即した具体的な考え方、対応方法などを伝えられないかということで企画されました。またほぼ毎月逗子市立図書館で行われている映画鑑賞会の映画と合わせて、(素人の)寸劇だけでは伝えきれないこと、病気になったときに、私たちの心に、そして身の回りに起きることなども伝えていけるかもしれない、ということで、寸劇のテーマに関係した映画、「最高の人生の見つけ方」と合わせて構成されたワークショップとなりました。

第1部の映画は、ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンが主演を演じる「最高の人生の見つけ方」です。悔いなく人生の最後を迎えたい。死を意識した2人がひょんなことから病室で出会い、2人で“やりたいことリスト=バケット(棺おけ)リスト”を手に世界中を駆け回る。涙とユーモアにあふれる、そして自分の人生はとふと考えさせられる映画でした。
休憩の間には、映画にまつわるエピソードにちなんだ本の紹介(ブックトーク)が、スライド動画で流れました。がんになって、病気になって、その生き方や考え方、そんな過ごし方、向き合い方、そして大切な誰かとの過ごし方もあるのか・・・と、そんな本が紹介されました。どれも手にとって読みたい、と感じさせる本ばかりです 。

そして第2部は実話をもとに作成された寸劇です。総合司会の高山智子部長(国立がん研究センターがん対策情報センター)より、がんとわかって、病院でこんな体験をする、といったことを「見て・聞いて・感じて、そして、そのとき自分ならどうするか」について、ぜひ一緒に考えながら見ていただきたいと説明があったあと、早速、劇が始まりました。

はじめにナレーター(鳥越由起夫氏 逗子市立図書館)から場面の説明がされました。「普段、家族が病気になることをいつも考えている人はいません。これからお話しする逗子野さんの場合もそうでした。」

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逗子野さんは逗子市、ご両親は静岡県在住。ある日逗子野さんのお母さんは病院で肺がんと診断されます。そして、手術はできない、経過を見ましょうと言われます。けれども数ヶ月後、息切れがひどくなったお母さんは、ホスピスへ入院することになります。逗子市に住んでいる息子さんは、このときはじめてお母さんの病気を知ります。驚いた息子さんは、急きょお母さんを説得して、静岡から自宅近くの病院に連れてきました。そこから、いよいよ舞台の上での場面が始まります。

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息切れしながらようやくたどり着いた病院で、逗子野さんのお母さんは倒れ込んでしまいます。駆けつけた病院の看護師、医師に付き添われながら急いで検査が行われました。胸部エックス線写真、CT検査を終えて、医師からの説明が始まります。検査で撮られた画像を図解しながら、肺に病変があること、そのため胸水と心嚢水がたまっていることで息切れが激しくなっていると、医師は苦しさの原因を説明します。そして苦しさの原因を取り除くために、胸水と心臓の周りの水を抜くためのチューブを入れる治療が行われました。

つらい症状を取り除く治療が開始されてだいぶ楽になった逗子野さんに、1週間前と今朝撮影された胸部レントゲン写真を比較しながら、医師からの説明がありました。1週間前と比べると肺の水も、心臓の周りの水もよく抜けてよくなっていると説明がありました。けれどもまだ白く写っているところがあります。肺がんの病変です。医師は、これについての治療のことを考えなくてはいけないと、肺がんの種類と治療の説明が行われました。 

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検査の結果から逗子野さんの病気は、肺腺がん、臨床病期はIV期、そして、日本肺がん学会の診療ガイドラインに示されている治療法は、抗がん剤の治療と、すでに一部つらい症状を楽にするために行った緩和ケアであることが伝えられました。

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そして、日本肺がん学会のガイドラインから、逗子野さんの体の状態、年齢から、内服の抗がん剤のゲフィチニブ(商品名:イレッサ)を、医師として第一に進めるという説明がありました。イレッサの飲み方、副作用についての概要が逗子野さんに伝えられて、医師は、逗子野さんに言います。「ほかの専門家に聞きたい場合には、すぐに手配します。この治療を受けるかどうか、ご家族の方とも相談して決めてください。来週には今入っているチューブも抜けますので、お返事は来週はじめに教えてください。」

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息子と一緒に医師の説明を聞いた逗子野さんは、困ってしまいます。「自分で決めろと言われても、どう決めたらいいかわからないよ。施設に入っているお父さんのこともあるし・・・」

ナレーターから説明が入ります。治療についていくつかある選択肢のうち、何を選べばいいか、がんの治療では避けて通れない問題です。治療法を決めていくためには、次のようなことが大切です。 1.信頼できる情報を得ること、2.医師の話を理解するためのサポートを活用すること、3.誰かと一緒に決めること です。そして1つめの信頼できる情報を得ることの中で、もっとも信頼がおける情報源は主治医であることが、ナレーターから伝えられます。

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けれどもそうはいっても、そもそも医学用語が多い話が理解できなかったり、聞き損ねたりということはよくあることです。そんなときに、大事になってくるのが、2つめの医師の話を理解するためのサポートを得ることです。 そのサポートをしてくれるところとして、2つの場所の紹介がありました。まずは、がん相談支援センターです。神奈川県立がんセンターの佐野紀子さんが、みなさんに知っていただくため、覚えていただくために、がん相談支援センターのロゴマークを頭と胸につけて登場します。どこで利用できるか、どんな人が利用できるか、対面でも電話でも相談をお受けしていること、また神奈川県内では、25カ所あるがん相談支援センターで、病院にかかっていなくても、家族でも、無料で相談が受けられることが説明されました。

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もう一つ、医師の説明を理解するための助けとして、書籍を利用することについて、逗子市立図書館司書の井元有里さんから説明がありました。図書館には一般向けからある程度専門的な本まで幅を持って本をそろえていること、また闘病記の本もあり、病気にかかった人の体験やそのときの対処法や判断を知ることができ、心理的な支えになることもあることなどが説明されます。また自分の病気のことでなくても誰でも気軽に利用できるのが図書館、探している本が見つからない場合には、気軽に図書館のカウンターに声をかけてほしいと伝えられました。

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さらに情報源として欠かせないのが、インターネットを利用した情報です。けれどもいろいろな情報が混在していて、正しくない情報があるのも事実です。上手に検索していくことについて、さらに、がん相談支援センターの佐野紀子さんから次のような説明がありました。

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インターネットを利用するときのお役立ち情報として、まずは次の3つのウェブサイトを利用してみてください。1つは、国立がん研究センターの運営する「がん情報サービス」、2つめは、公益財団法人日本医療評価機構の運営する「Minds医療情報サービス」、そして、財団法人先進医療振興財団の運営する「がん情報サイト」です。使い方、検索の仕方がわからない場合には、逗子市立図書館のカウンターにお気軽におたずねくださいと伝えられました。そしてあらためて、いくつか情報を理解するためのサポートを活用することを紹介したが、その中でも、患者さん自身の正確な信頼できる情報元は主治医であること、患者さんの主治医に聞くことが一番大事であること、と説明されました。

このあと、治療法を決めるためにどうしていったらいいのか、困っていた逗子野さんは、内服で行う抗がん剤の治療を開始することを選びました。息子さんと話し合い、飲み薬であれば入院せずに治療できるので今まで通りの生活を続けることができると考えたのでした。そうしてこの寸劇は終わります。

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さらに追加で、「がんとわかったとき、やっておきたいいくつかのこと」として、上手に医師に話をきくにはどうしたらいいか、もっと上手に、さらに上手に医師に話を聞くにはどうしたらいいのか、について、具体的にどんな風に先生に声をかけたり、話したりするのかなどについて、スキットで説明がありました。それには、メモをとる、(聞きたいことの)優先順位をつけておく、説明の時間があるか、いつなら時間をつくってもらえるか確認する、説明を聞く際は同行者を頼んで複数の人で聞く、などのポイントが挙げられました。

最後に、今回のミニシアター(寸劇)の出演者の紹介があり、そのあとに全体の質疑が行われました。聴衆の方からは、画像を絵で説明されていてとてもわかりやすかった、医療の立場からだけでもなく、患者からの立場からだけでもなく、その間にたってお互いに理解し合って治療が進められるということが劇から伝わってきてとても有意義なものだったといったご感想や、自分の家族が神奈川県以外に住んでいるが、全国にも同じようながん相談支援センターがあるのか、といった質問等が寄せられ、今回のワークショップは閉会しました。 市民にとって敷居が低く、多くの人が訪れる図書館を通じた新たな情報提供手法として、広まっていく可能性が見いだされました。

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なお、今回のシナリオは、このワークショップで医師役をされました斎藤真理先生(横浜市立大学附属 市民総合医療センター 化学療法・緩和ケア部)が、実話をもとに出版された「画像・シェーマで納得『つらい症状』のもとが見える」を台本としてシナリオを作成されました。 会場には、当日紹介された本とあわせて展示され、参加された方々は、手にとってご覧になっていました。

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第1部と第2部の間に紹介された本、そして本日のシナリオの元になった本のリストです。
「象の背中」秋元 康著、産経新聞出版
「おい癌め酌みかはさうぜ 秋の酒」江國 滋著 新潮社
「すみれの花の砂糖づけ」江國 香織著 理論社
「さよならまでの読書会」ウィル・シュワルビ著 高橋知子訳 早川書房
「冷蔵庫のうえの人生」アリス・カイパース著 八木明子訳 文藝春秋
「さよならを待つふたりのために」ジョン・グリーン作 金原瑞人・竹内茜訳 岩波書店
「がんフーフー日記」川崎フーフ著 小学館
「画像・シェーマで納得『つらい症状』のもとが見える」斎藤真理・水越和歌編著 青海社

プログラム

『がんとわかったとき やっておきたいいくつかのこと』(PDF:281KB) 

出演者

  • 息子
    市川靖史(横浜市立大学医学部)
  • 息子(声担当)
    山下正文(NPO法人湘南ふじさわシニアネット)
  • 母親
    伊藤外美子(NPO法人湘南ふじさわシニアネット)
  • 母親(声担当)
    清水奈緒美(神奈川県立がんセンター)
  • 医師
    斎藤真理(横浜市立大学附属市民総合医療センター)
  • 看護師
    山田寛子(逗子市国保健康課)
  • 相談員(解説)
    佐野紀子(神奈川県立がんセンター)
  • 司書(解説)
    井元有里(逗子市立図書館)
  • ナレーター
    鳥越由紀夫(逗子市立図書館)

スタッフ

  • 総合司会
    高山智子(国立がん研究センター)
  • 総監督
    斎藤真理(横浜市立大学附属市民総合医療センター)
  • シナリオ
    清水奈緒美(神奈川県立がんセンター) 
  • 企画・進行
    小川俊彦(逗子市立図書館)
    椙山玲奈(逗子市立図書館)
    田村俊作(慶應大学文学部)
    池谷のぞみ(慶應大学文学部)
    小林信武(NPO法人湘南ふじさわシニアネット)
    木島正(NPO法人湘南ふじさわシニアネット)
  • スライド進行
    早川雅代(国立がん研究センター) 
  • 動画撮影
    西村智之(NPO法人湘南ふじさわシニアネット)