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いつでも、どこでも、だれでもが、がんの情報を得られる地域づくりの第一歩(in 大阪)

日時:2020年10月9日(金曜日)13時30分から16時30分
開催方法:Zoomミーティング(オンライン会議)

国立がん研究センターでは、がんをはじめとする健康や医療に関する情報を、生活の中で身近に感じられるような環境づくりを目指して、図書館と医療機関が連携したプロジェクトを進めています。その取り組みの一環として、これまで九州・沖縄地区、東北地区、中部地区、中国・四国地区、北海道地区にて開催。本年は近畿地区、大阪にて現地開催予定でしたが、新型コロナウイルスの拡大を踏まえ、Zoomでのオンライン開催となりました。

概要   

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開会に際して、国立がん研究センター若尾文彦がん対策情報センター長より挨拶。「本日は約120名の皆さまにご参加いただき、感謝申し上げます。このワークショップは、大阪府立中央図書館、大阪府がん診療連携協議会相談支援センター部会、国立がん研究センターがん対策情報センターが共催し、正力厚生会から事業助成をいただいて開催しております。我が国では、年間97万人ががんに罹患し、37万人ががんで亡くなっています。2006年にがん対策基本法が成立し、その後がん対策推進基本計画が策定され、現在に至るまで一貫した施策が行われています。国立がん研究センターがん対策情報センターでは、「がん情報サービス」においてがん情報の発信を行ってきました。477施設のがん診療連携拠点病院には、がん相談支援センターが設置され、がん情報を得る支援や相談対応を行っていますが、さらに十分に浸透させていくべき課題があります。大阪府には府の指定病院を含めると67か所の相談支援センターが存在。がん情報を得る情報ステーションとしての役割は大きく、公共図書館との連携は様々な面で重要です。また、当センターのプロジェクト「がん情報ギフト」により全国の公共図書館385館、大阪では26館にがんの冊子が寄贈されています。本日のご発表を聴き、正しいがん情報の普及、新たな連携を広げる機会としていただきたい」と述べました。

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続いて、大阪府立中央図書館 西口禎二館長が挨拶。「新型コロナウイルス感染症の影響を受け、図書館は臨時休館となり、本日のワークショップもオンライン開催となりました。図書館でも、インターネット公開や遠隔コミュニケーションアプリを用いた視覚障害者向けのサービスなどオンラインが活用されています。

がんは不治の病と言われていましたが、早期発見、早期治療によりがんとともに生きていく時代であります。いつでも、どこでも、だれでもが正しいがん情報を入手できる地域づくりが大切。大阪府の第3次がん対策推進計画では、必要ながん情報にアクセスできるよう社会全体でがん患者に対する支援体制を構築することを重点目標としています。

今後の支援体制の構築に向け実り多いワークショップとなり、連携のさらなる発展につながるよう願っています」と述べました。

図書館とがん相談支援センターが連携することの意義と目指すもの

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まず、八巻知香子室長(国立がん研究センターがん対策情報センター)が本ワークショップの企画意図を説明。その後、図書館、がん相談支援センター側からの発表に移りました。

 

公共図書館のミッションと大事にしていること
発表者:大阪府立中央図書館 大島桂史

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公共図書館の説明に続いて、図書館における資料収集、レファレンス(資料紹介/レファラルサービス)に関する現状や課題が述べられました。資料収集では医療従事者向け専門書は高額で一般利用者にとっては難解であること、公立図書館ではエビデンスより多様性にウエイトがおかれているが、図書館員にとってはエビデンスに関するさらなる判断知識が必要であることなどが取り上げられました。さらにカウンターレファレンスでの具体的内容を紹介しつつ、「今回のワークショップでは,医療機関とのコネクションを増やし,レフェラルサービスでの紹介先が増えることを期待している」と結びました。

 

がん患者・家族を情報で支える―がん相談支援センターで大事にしていること
発表者:大阪府がん診療連携協議会相談支援センター部会(大阪国際がんセンター) 池山晴人

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がん相談支援センター、がん専門相談印の役割について明快に説明。「がん相談支援センターは全国のがん診療連携拠点病院の中にあり、指定の研修を受けた看護師や社会福祉士が対応しています。プライバシーが守られた個室で面談を受けることができますが、現在は新型コロナウイルス感染症対策の関係で新たな環境下での対応に切り替えています。がんに関する書籍、レシピ本やガイドラインなどを配架し、患者さん、家族が手に取れるよう準備しています。がんを知る、学ぶ、患者さん同士が集うことも支援しています。

がんは診断、治療などそれぞれの時期で特徴的な困りごとがあります。治療期には、仕事の継続や経済的な問題、体力の低下など。がん相談支援センターには多くの方が訪れますが、ほとんどの方が家族関係や仕事関係など何らかの問題を抱え、不安や恐怖に苛まれます。がん相談支援センターではそれらの問題、課題を解きほぐし、診断や治療スケジュール、休職の目安などを共に考え相談に応じています。がん専門相談員の役割は、その人らしい生活や治療選択ができるように支援すること。がんは要所要所で「決めること」「選ぶこと」など意思決定が求められる病気であり、必要な情報、サポートが求められています。その際、私たちは個別のニーズや価値観を尊重し、情報を十分に得たうえで選択する権利を尊重、匿名での相談も受けます。また、医療職との信頼関係を構築できるようサポート、さらには相談の質を保証するために研修受講、がん相談の10の原則などを学び対応しています。心理的、情緒的サポートをしながら、多面的にアセスメントし、課題、問題を共有しながら情報提供を行い、今後の方向性を考えていくのです。

情報には「力」がある反面、相談者を迷わせたり、望ましくない方向に導いたりすることもあります。正確で科学的根拠のある情報は「がん情報サービス」にある。大阪府地域でも独自にがん情報が発信されており、有効に利用していただきたい」と力強く語りました。

和歌山での取組

和歌山県立図書館資料課 松田公利

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2012年から県立図書館内に設置されたがん関係図書コーナーについて紹介。コーナーの設置が和歌山県のがん死亡率の現況とがん対策計画が根拠になっていたこと、コーナーの資料分類、宣伝手段(パスファインダー、ホームページ)などについても説明しました。続いて和歌山医療センター病院図書館室、NPO法人いきいき和歌山がんサポートとの連携事業について紹介。さらに和歌山県立医科大学附属病院との連携事業のきっかけや役割分担、主な活動(がん体験者のお話し、健康相談サロン)、連携の体制、意義、効果について詳説。2017年7月には県民への信頼できるがん情報提供にもつながる同病院との協定書が締結され、2018年には県担当部局・病院・図書館が三位一体となって、県立図書館で健康相談サロンを開催。連携の結果、県立図書館の活動が県がん施策の一環として認識されたことが語られました。

 

和歌山県立医科大学附属病院がん相談支援センター 雑賀祐子

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始めに、信頼できる情報の拠りどころとして、和歌山県のがん情報「わかやまがんネット」を紹介。また、県内のがん対策に加え、和歌山県が縦に長い地形で新幹線がないため、紀南地方は来院しづらい状況も伝えられました。

「県立医大病院のがん相談支援センターでは、まずは院内スタッフにセンターを知ってもらうよう、名刺サイズの紹介カードを用意して配布。センターの入口には季節のイラスト付きボードを掲げ、入りやすい雰囲気にしています」と、がん相談支援センターを周知する工夫が述べられました。

「〈講演会を開催しても参加者が少なく、開催場所が院内だから参加しづらいのではないか〉と悩んでいた私たち…。丁度そのとき県立図書館より、『がん図書コーナーを充実させています。講演会の講師派遣をお願いできないか』とのオファーがありました。それがきっかけで、図書館と当院とのコラボレーションがスタートしたのです」と、連携のきっかけについても紹介。現在、院内にとどまらず、がん相談支援センターをさらに広く知ってもらうよう、がん患者イベントなどでの相談ブース設置、人権フェスタでのがん相談支援センターの利用方法やがん検診案内、さらにはFacebookでのPR活動に尽力していることが報告されました。

堺での取組

堺市立総合医療センターがん相談支援センター 古谷緑

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2014年、国立がん研究センターの呼びかけで、堺市での“がん情報普及のための医療・福祉・図書館の連携プロジェクト”がスタート。参加施設の強みを活かして、がん情報を届けるために多様な公開講座を行いました。拠点病院の相談員として、がんに関するミニレクチャー、個別がん相談コーナーを担当しました。また、「視覚聴覚障害の患者さんへの対応について考える研修」の企画・運営をしました。事業終了後の今でも、毎年一回、協働団体は必ず集合しています。最近の連携活動として、堺市立西図書館と当院がん相談支援センターで公開講座の共催や合同会議の運営を行っています。連携について具体例を交えて詳説。連携を通して、医療情報を協働団体各所で、各所の強みを生かした情報発信が可能になったこと、相互で気軽に相談して問題・課題を解決できる風土ができたことが述べられました。

 

堺市立健康福祉プラザ視覚聴覚障害者センター 原田敦史

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視覚障害者がどのようにがん情報、医療情報を入手するかについて、「本屋に行けばがんに関する情報がすぐに入手できるが、障害のある方ががんになった場合には、最新の情報を得にくいという問題があります。電子図書館「サピエ」で情報を入手できるが、点字や録音されたがん情報は決して多くありません。また、ボランティアが点訳、録音を行っていますが、発刊から数カ月~1年後の公開となってしまいます」と、現状を報告。また、同センターでは、図書館、行政、病院が連携し、点訳化、音訳化して様々な媒体でより早い情報発信を行っていることが述べられました。さらに、「障害者が情報の波に取り残されない取り組みが必要であると感じています。また障碍者が大きな病になっても、自分自身のために分かる形で医療情報を受け取れるために、医療・福祉・行政の連携が必要です」と強く訴えました。

 

情報提供:日本癌治療学会認定がんナビゲーター制度について
日本癌治療学会/九州がんセンター 藤也寸志

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第2期および第3期がん推進基本計画を踏まえ、がん患者を支援する市井の育成が急務であること、その具体的方策の一つとして期待される「認定がんナビゲーター制度」について説明されました。

 認定の流れ、役割、そして現況について語られました。ナビゲーターは医療従事者でなくても申請可能。ナビの役割として重要なことは、“がん相談支援センターにつなぐ”こと。ナビは495人、シニアナビは87人ですが、とりわけ九州では、保険調剤薬局と連携し、多くの薬剤師がナビ資格取得している状況も述べられました。今後の課題として、実地見学のための認定見学施設を増やすこと、その施設でナビと相談員が連携すること、ナビの候補として図書館司書なども期待したい旨を提示。「がん情報を適切にタイムリーに提供するには拠点病院だけではなく、市井の活躍が必要。がん患者や家族と相談支援センターをつなぐ役割としてのナビゲーターの可能性は広い」との期待も語られました。

パネルディスカッション

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司会:池山晴人、大島桂史

パネルディスカッションは、これまでの発表を踏まえ、参加者からチャットで寄せられた質問・疑問に答えるスタイルで展開しました。

 「和歌山で2017年に図書館と病院が協定に至ったのは画期的。連携するに至ったプロセスをもう少し詳しく聞きたい」「イベントではなく、日常の図書館サービスや情報提供における連携ではどのようなことをしているか」「がんナビゲーターと連携がとりたいときに、ナビの方を探す方法は?」「図書館と公立の病院の医療機関の連携がテーマであったが,図書館と民間の病院との連携の情報があれば教えてほしい」など、積極的に質問があがりました。

ブレイクアウトセッション

参加者が13グループに分かれてブレイクアウトセッション。「連携のきっかけをどのように作ったらよいか」など、グループ内では積極的に疑問点や意見を出し合い、参加者同士、熱心に情報交換を行いました。終了後には、「お互い(がん相談支援センターと図書館)を知るきっかけになった。双方で顔の見える関係性をさらに築いていきたい」という声も寄せられました。

閉会あいさつ

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大阪府がん診療連携協議会相談支援センター部会前部会長・市立東大阪医療センター特任院長 東山聖彦氏が挨拶。「昨年より近畿地方でワークショップを開催する話があり、コロナで開催が危ぶまれるなかオンラインで素晴らしい会を開くことができました。北海道から鹿児島までオンラインならではの広域の参加者があり,その良さが最大限に生かされた、新しい会議のスタイルを実感しました」と述べ、さらに今回の各セッションについて総括。「図書館や相談支援センターは中立的で信頼できる情報を提供することが使命。各々の得意分野・不得手な分野が明らかになりました。よりよいがん情報を提供するためにはどのような取り組みをするのか、先進的な事例を和歌山・堺から紹介していただいた。多面的なイベント開催により,市民からより親しみやすい情報提供機関となっていることが分かりました。堺市立健康福祉プラザ視覚聴覚障害者センターでの障害者の方にもがん情報を提供できる仕組みには驚嘆しました。グループワークでは、がん情報に関するニーズや現況報告、がんについて困ったとき,調べたいときの情報交換ができたのではないか。図書館と相談支援センターが補完的にどのように取り組めるかを、顔を見える形で少しでも交流できたのは成果といえるでしょう。図書館と相談支援センターのつなぎ役であるナビゲーター制度にも、ぜひ関心をもっていただきたい。

がんで困ったときのため、安心できる連携システムを構築できたらと思います。特に大阪府は多くの人口をかかえています。図書館と相談支援センターが連携して,よりよいがん情報を提供できるよう取り組んでまいりましょう」と結びました。

主催・後援                      

【主催】国立がん研究センターがん対策情報センター、大阪府立中央図書館、大阪府がん診療連携協議会相談支援センター部会

【後援】日本図書館協会、奈良県 、兵庫県、京都府、和歌山県、滋賀県

本事業は、公益財団法人正力厚生会「2020年度医療機関助成事業」により実施しました。

注:講演部分は図書館総合展(2020年11月1日~30日開催)のイベントページにてアーカイブ公開しております。

https://2020.libraryfair.jp/forum/2020/f227(外部サイトへリンクします)