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いつでも、どこでも、だれでもが、がんの情報を得られる地域づくりの第一歩(2021)
日時:2021年11月13日(土曜日)13時30分から16時00分
開催方法:Zoomウェビナー(オンライン)
国立がん研究センターでは、がんをはじめとする健康や医療に関する情報を、生活の中で身近に感じられるような環境づくりを目指して、取り組みの一環として、図書館とがん相談支援センターの連携ワークショップを開催しています。これまで九州・沖縄地区、東北地区、中部地区、中国・四国地区、北海道地区にて開催。昨年は近畿地区での現地開催予定を、新型コロナウイルスの拡大を踏まえ、Zoomでのオンラインにて開催しました。本年も新型コロナウイルスの感染状況や、離島を含め多くの方々にも参加していただけることを優先し、前年同様、Zoomでのオンライン開催となりました。
概要
開会にあたり、国立がん研究センター がん対策研究所 事業統括 若尾文彦が挨拶。
「わが国ではがんの克服を目指して、がん対策基本法、がん対策推進基本計画を策定し、がん対策を進めております。そして国立がん研究センターがん対策研究所では、「がん情報サービス」を中心として、情報発信に取り組んでおります。
がんについて何でも相談できる窓口として、がん相談支援センターがあります。全国451ヵ所のがん診療連携拠点病院、あるいは地域がん診療病院などに設置されていますが、認知度はまだ十分ではなく、活用に向けての課題があります。一方、生活の中での情報発信・情報共有の場として、図書館はとても魅力的な場所だと考えております。がん相談支援センターと公立図書館の皆さまが上手く連携を深めることによって、それぞれの周知、情報の活用などがより一層進むものと考えられます。
国立がん研究センターでは2017年より、市民の皆様や企業の皆様から寄付をいただき、図書館にがん情報を届ける「がん情報ギフト」の取り組みを行なっています。今年9月時点で、全国520館に寄贈させていただき、図書館との連携を強化しているところです。
本日のワークショップでは、126名のうち55名が初めての参加ということで、連携の輪がますます広がることを期待しております。本日出たアイデアをそれぞれのご施設に持ち帰っていただいて、新たな活動の展開に繋げていただけたら幸いです」と述べました。
図書館&がん相談支援センターの持続可能な「連携」を考える
八巻知香子室長(国立がん研究センターがん対策研究所)による本ワークショップ企画意図の説明。その後、今回のテーマに関するがん相談支援センター側、図書館側からの講演に移りました。
図書館&がん相談支援センターの持続可能な「連携」を考える
発表者:琉球大学病院がんセンター長 増田昌人
望ましい医療情報の提供として、1.患者さんの状況に基づいて、最も適した情報を提供してくれる主治医やその他の医療者から情報をとことん得ること、2.セカンドオピニオンを活用すること、3.がん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」を活用することが最も大事。これらを補完するためのインターネットの活用で推奨できるものは限られている。そこで適切な情報を得られる場所として、図書館の活用は選択肢のひとつになると提示されました。医療機関には担えない、図書館の利点として、1.日常的に幅広い人が集まる集客力、2.公共の存在としての安心感や信頼感、3.住民が立地場所を知っているため、容易にアクセス可能、4.イベントスペースであるホール、会議室が比較的安価または無料で利用可能、5.病を意識しないで訪れることが可能であると説明。がんの情報提供の場として図書館は最適の場のひとつであり、「いつでも、どこでも、だれもが、がんの情報を得られる地域づくりの第一歩」の場として、図書館とがん相談支援センターとの連携の大切さを述べられました。
さらに、がん相談支援センターによる図書館との連携の始め方について説明。1.専門相談員が、図書館を訪問し、実際に利用してみる。2.がんの情報提供・相談支援の支点から、地元の図書館とどのように連携すると良いのかを、専門相談員として考える。3.がん相談支援センターのセンター長やスタッフと協議して、具体的に連携したいことを取りまとめる。4.図書館に連携をお願いする。5.定期的に、連携のための会合を持つことが挙げられました。
「現状として、がん患者さんとそのご家族に、適切ながん情報が十分に届いていない現状があります。適切な情報を得られる場所は多いほど良いと考えます。その場として、図書館は最適な場所のひとつです。まずは、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターから、図書館への働きかけを行うと良いでしょう。丁寧に議論を行い、双方の立場を理解したうえで、できることから始める。そして、できることとして、最初に共同での図書選定をしていくと、お互いの立場がよくわかりますので、うまくスムーズにいくのではないかと考えます」とまとめました。
公共図書館から見た健康医療情報サービス
発表者:浦安市立図書館 柚木 聖
医療情報提供にあたり図書館(員)が大切にしていることとして、図書館員のミッションとして健康情報に取り組むようになった社会的背景を詳説。また、公共図書館の利点や得意な点として、地域のだれもが利用できるため広範囲な人への情報提供ができることや、展示・広報などは得意かつ慣れているため行事に合わせた展示ができることなどが挙げられました。一方、病院図書室、患者図書室と違い、専門機関の後ろ盾がないこと、図書提供が中心で他の情報(パンフレット、リーフレット、啓発パネル、有料データベースなど)を網羅的に収集していない場合があるなどの課題も語られました。そのうえで、医療機関との連携に際しては連携目的の相互理解と互いに負荷をかけ過ぎないことの重要性を指摘。浦安市での健康増進課、公民館、図書館での連携イベントの事例も紹介しつつ、「全国様々な図書館で、今後連携が取り組まれることを期待したい」と結びました。
愛媛県宇和島市での取り組み
「宇和島市立中央図書館と市立宇和島病院がん相談支援センターとの連携事業について」
宇和島市立中央図書館 大塚美智子
市立宇和島病院 川中真紀
連携事業の企画立案の背景として、新型コロナ感染拡大の影響を受けて、受診を控える、がん関連のイベントが軒並み中止になるなど、市民が「がん」に関する情報を容易に入手できる機会が減っていることが挙げられました。また、市立宇和島病院の医療情報コーナーでは、配置しているがん関連書籍が貸出不可であること、がん相談支援センターに関するパンフレット周知を行なっているが、がん相談のほとんどが院内スタッフからの紹介である状況も挙げられました。そこで、1がん相談センターの利用者増加と機能向上 2市民が気軽に、正しい「がん」情報を入手できる場の拡充を目的に、2020年11月に企画立案。2021年1月に双方で打合せし、図書購入、図書寄託契約の締結が行なわれ、同年4月、宇和島市立中央図書館(パフィオうわじま内)に「がん情報コーナー」が開設されたことが語られました。選書に際しては他施設の図書を参考にしたり、医師、薬剤師。看護師、栄養士など専門職の推薦を受けたりするなどの工夫も報告されました。図書館、がん相談支援センターの課題についてそれぞれ述べられ、今後、広報活動の充実、実態調査やアンケートでの現状やニーズの把握、出張相談や出張患者サロンなど共同での講座開催の検討や、図書館とがん相談センターへ互いが気軽に行き来する顔の見える連携を継続していくことなど、展望についても熱く語られました。
島根県隠岐の島町での取り組み
「「認知症」に関する展示で生まれた連携」
隠岐の島町図書館 住田美津子
隠岐保健所 川畑裕子
隠岐の島町図書館と隠岐保健所の「認知症」に関する展示について紹介。川畑保健師(写真右)が「連携のきっかけは、私が県庁主催の会議にて、県庁が実施した認知症に関する普及啓発の取り組みを知ったことです。その内容は島根県庁と島根県立図書館がタッグを組んだ、認知症特集コーナーの設置や研修会の実施でした。隠岐圏域での認知症の正しい理解や普及啓発活動の場として、様々な世代の方が利用する図書館はまさに相応しい場。しかも隠岐の島町図書館は入口すぐのカウンター前に、来館者の目に必ず留まるベストポジションがある。しかし図書館には年間計画もあるので、受け入れてもらえるだろうか。司書の住田さんとは同級生でもあったので、〈取りあえずできるかどうか聞いてみよう!〉と、声をかけさせてもらいました」と語られました。
その後、令和2年春に隠岐保健所から認知症啓発活動実施をオファーし、隠岐の島町図書館より快諾。以後、展示に向けた取り組みがスタートしました。今年7月に保健所、図書館、隠岐の島町地域包括支援センター、隠岐認知症疾患医療センター(隠岐病院)でテーマ協議。さらに展示終了後の10月には認知症サポーター養成研修、11月にはコグニサイズ研修会を実施するまでに発展している状況が語られました。連携の継続には、1.お互いに無理をしないため、できることとできないことを話し合う。それを言える関係性を築く。2.この取り組みを実施して「よかったこと」を、次の活動(地域の施策)に活かすための話し合いの場を持つ重要性が説かれました。また、認知症対策で築いた連携を他事業にも活かすことを目指し、がん対策の一つとして「がん相談支援センター」を住民向けにアピールする「結ぶ」事業(国立がん研究センターがん対策研究所がん情報ギフトプロジェクトの一環事業)を隠岐圏域内で展開予定であることも述べられました。
沖縄県での取り組み
「がん情報提供取り組み事例」
発表者:
沖縄県立図書館 上原望生・崎山理沙
琉球大学病院がんセンター 増田昌人
沖縄県立図書館におけるがん情報提供に関する取り組みとして、平成24年度より、当時の沖縄県福祉保健部医務課の「がん患者支援モデル事業」の実施に伴い、県内各地の情報格差解消を目指し、館内で設置されていたシニアサポートコーナーの活用や、県内公共図書館へのがん関連図書の一括貸出などの取り組みが始まったことが紹介されました。以後、がんに関する講演会、相談会、図書贈呈式、がんピアサポート展、ブックリスト作成・配布などを実施。また、空とぶ図書館(移動図書館)、読み聞かせ会、ワークショップなどの広域サービスの展開についても詳説されました。
ワークショップ当日、粟国村で実施されていた「空飛ぶ図書館」の会場より、沖縄県立図書館 上原様(写真右)がその様子をオンラインで生中継。がんサポートヘルスケア特集として、がん関係の本やパンフレットを設置していることなどが報告されました。
広域サービスにおける課題として、空とぶ図書館の活動対象である図書館未設置町村のより小さな離島には、今後、がん情報ギフトミニの活用や、一括貸出・協力貸出で利用できるブックリストの作成などを行い、より充実した情報提供を図ることなどが語られました。また、沖縄県立図書館としての展望として、琉球大学病院がんセンターや県保健医療部などの関係機関と今後も継続的に協力しながら、県民へより良いサービス・情報提供を行っていくこと、県内市町村立図書館及び図書館未設置町村と積極的に連携し、県内全域により充実した情報を届けられるよう取り組くんでいきたいことが力強く語られました。
最後に、琉球大学病院がんセンター 増田昌人センター長より、「私たちも2012年から連携してやってきておりますので、かなり相互理解も進みました。さらにコミュニケーションを密にとって進めていくことが大事であることを実感しております」と語られました。
パネルディスカッション
司会:八巻知香子・柚木 聖
パネルディスカッションは、これまでの発表を踏まえ、参加者からチャットで多数寄せられた質問・疑問に答えるスタイルで展開しました。
「立場や文化の違いからのコミュニケーションエラーを防ぎお互いの強みを活かして気持ちよく連携するためには、密なコミュニケーション以外にも依頼方法などのルール作りも重要かと思う。連携のための具体的な規定を設けている事例があれば教えてほしい」「がん相談支援センターとの連携で講演会や相談会を企画したいと考えている。その際気を付けたい点や配慮したい点、大変だったことなどを伺いたい」など、積極的かつ具体的な質問が多数寄せられました。
クロージング
クロージングにあたり、当ワークショップ初回時の企画段階からご協力頂いてきた慶應義塾大学 田村俊作名誉教授が講評。
「連携が様々なかたちで進んでいる様子を伺えて、とても嬉しかったです。増田先生より、連携の持続には協議会の重要性と互いの立場を理解すること、そして無理をしないことも大事であるというお話をいただきました。柚木さんからは、図書館は誰でもアクセスできる敷居の低い機関だけれど、がん情報だけに特化して来たのではわけでなく、知らない部分については専門医療機関との連携が必須だというお話でした。図書館は、求められた情報はできる限り提供していく姿勢を持つ一方で、科学的知識を普及する機関という性格も持ち合わせています。その両方をどのように調整しながら提供していくかが、図書館が苦労しているところです。
事例の発表もそれぞれにユニークで、大変参考になりました。宇和島の大塚さんが『連携事業で新しいことが始まるんじゃないかってわくわくした』と仰いましたが、それがまさに原点ではないでしょうか。〈わくわく〉、そして〈やってみようか〉という気持ちがとても大事だと思います。連携する際の苦労も、参加の方々より質問が多く寄せられたことからも伺えるので、これを機会に、継続的にがん相談支援センターと図書館の対話が進むことを願います」と結びました。
主催・後援
【主催】国立がん研究センターがん対策研究所
【後援】公益社団法人日本図書館協会、愛媛県、沖縄県、島根県
本事業は、公益財団法人正力厚生会「2021年度医療機関助成事業」により実施しました。
注:講演部分は図書館総合展(2021年11月1日から30日開催)のイベントページでもアーカイブ公開しております。