トップページ > 各部紹介 > 疫学研究部 > 研究プロジェクト > 生体試料の管理と利活用
生体試料の管理と利活用
生体試料の管理
▼ 多目的コホート研究
「多目的コホート研究(JPHC study)」(NCC管轄外部サイトへリンクします)は、全国11か所の保健所管内に在住する40-69歳の地域住民約14万人を対象とした大規模コホート研究です。1990-94年にかけて各地域においてベースライン調査を行い、その後、5年おきに合計3回の大規模調査を実施しました。また調査開始時点より、死亡、がん、循環器疾患などのアウトカム情報を収集しています。当部では、主にベースライン調査と5年後調査において収集した生体試料(血液検体)の管理・利活用を推進しています。
多目的コホート研究では、住民健診の機会を利用して血液検体の提供をお願いしました。健診の採血時にヘパリン入り採血管(10mL)×1本を研究用に採取いたしました。その後、12時間以内に遠心分離を行い、血漿を3本分の凍結保存用チューブ(1mLずつ)に分注、buffy coat(白血球層)を1本分の凍結保存用チューブに分注し、それぞれ-80度の超低温冷凍庫にて保管しています。
地域別の詳細はこちら(NCC管轄の外部サイトへリンクします)を参照ください。
▼ 次世代多目的コホート研究
「次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT study)」(NCC管轄外部サイトへリンクします)は、全国7県8地域に在住する40-74歳の地域住民約11万人を対象とした大規模コホート研究です。2011-16年にかけて各地域においてベースライン調査を行い、その後、5年おきに合計3回の大規模調査を予定しており、現在、3回目の調査となる10年後調査を実施しています。また調査開始時点より、死亡、がん、循環器疾患などのアウトカム情報を収集しています。当部では、主に各大規模調査において収集した生体試料(血液検体・尿検体)の管理・利活用を推進しています。
次世代多目的コホート研究における生体試料の収集は、1.特定健診、2.共同研究機関における人間ドック、3.研究者が設定した会場での採血・採尿、のいずれかの機会に実施しました。
EDTA-2Na添加・真空採血管(7ml)×1本を用いて採血し、遠心分離後、血漿を3本分の凍結保存用チューブ(1mLずつ)に分注、buffy coat(白血球層)を1本分の凍結保存用チューブに分注、赤血球層を1本分の凍結保存用チューブに分注しています。また、尿検体は、凍結保存用チューブ1本に4mLを分注しています。分注された検体は、可能な限り収集した当日中に-80度の超低温冷凍庫に保管しています。
ベースライン調査における生体試料収集の手順および収集状況の詳細はこちら(NCC管轄の外部サイトへリンクします)を参照ください。
▼ 国立がん研究センターのがん検診受診者を対象とした研究
国立がん研究センターでは、2004年2月の「がん予防・検診研究センター」開設時より(現在は中央病院・検診センターにて)、高精度のがん検診を提供しています。同時に40歳以上の受診者の方を対象に、発がん要因の究明や新たな検診手法の開発を目的としたコホート研究(NCC管轄外部サイトへリンクします)を実施しています。当部では、主に収集した生体試料(血液検体・尿検体)の管理・利活用を推進しています。
1)第1期研究
がん予防・検診研究センター棟でがん検診が行われていた2004年2月から2013年12月までを第一期研究と呼んでいます。この間に15,000名弱の初回受診者が研究にご参加くださり、このうち約6,500名の方々が再診時の5年後調査にもご協力くださいました。2009年1月までは、EDTA-2Na添加・真空採血管(7ml)×2本を用いて採血し、遠心分離後、血漿を4本分の凍結保存用チューブ(1mLずつ)に分注、buffy coat(白血球層)を2本分の凍結保存用チューブに分注し、可能な限り収集した当日中に-80度の超低温冷凍庫にて保管していました。2009年2月以降は、EDTA-2Na添加・真空採血管(7ml)×1本と抗凝固剤を含まない真空採血管(9ml)×1本による採血と検診残余尿の収集を行い、1mLの凍結保存用チューブで血漿は3本分(1mLずつ)、血清は4本分(1mLずつ)、buffy coat(白血球層)は2本分、尿は3本分を可能な限り収集した当日中に-80度の超低温冷凍庫に保存していました。
2)第2期研究
診療棟でがん検診が行われるようになった2014年4月から現在に至るまでの期間を第二期研究と呼んでいます。2022年度末の時点で、8,000名強の初回受診者が第二期研究に参加してくださっています。血液の収集が、EDTA-2Na添加・真空採血管(7ml)×2本を用いて行われ、遠心分離後、血漿を6本分の凍結保存用チューブ(1mLずつ)に分注、buffy coat(白血球層)を2本分の凍結保存用チューブに分注し、可能な限り収集した当日中に-80度の超低温冷凍庫にて保管しています。
利活用のための基盤構築
▼ 多目的コホート研究
大規模コホート研究において生体試料を用いた解析を実施する際には、解析対象の生体試料をすべて測定することは、コストや労力の面で負担が大きいことから、統計的な精度を確保したうえで、一部の対象者を解析対象とする研究デザインが提唱されています。代表的なものにコホート内症例対照研究とケース・コホート研究があります。以前は、部位別のがんに対してコホート内症例対照研究のデザインを適用して、個別研究を実施してきました。最近では、ゲノム情報をはじめとするオミックス情報を複合的に活用するなど、様々な解析ニーズに対応すること、生体試料の測定などの情報取得を効率的に実施すること、などの観点から、ケース・コホート研究デザインを適用した解析基盤の構築を進めています。
1)ベースライン調査に基づく全がんのケース・コホート研究(ゲノム情報利用研究)
1990-94年に実施したベースライン調査においてアンケート調査に回答し、かつ血漿検体を提供した33,736名を2009年末まで追跡した情報に基づき、がん登録より把握したがん罹患3,750症例をケースとし、前述の33,736名からランダムサンプリングにより13,024名をサブコホートとした選択しました。がん罹患症例とサブコホート集団の対象者のDNA検体を用いて、SNPアレイによるゲノム網羅的なジェノタイピングを実施しました。これらの情報は、1)がんやそのほかの形質をアウトカムとしたゲノムワイド関連解析、2)遺伝素因と環境因子の交互作用の検討、3)遺伝子多型などのゲノム情報を操作変数としたメンデルのランダム化解析による検討、4)絶対リスクを推計する予測モデルへの導入の検討、などに活用されています。
2)ベースライン調査に基づく全がんのケース・コホート研究(血漿利用研究)
1990-94年に実施したベースライン調査においてアンケート調査に回答し、かつ血漿検体を提供した33,736名を2009年末まで追跡した情報に基づき、がん登録より把握したがん罹患3,750症例をケースとし、前述の33,736名からランダムサンプリングにより4,456名をサブコホートとした選択しました(本サブコホート対象者は1)のゲノム情報利用研究におけるサブコホート対象者と重複しています)。がん罹患症例とサブコホート集団の対象者の血漿検体を用いて、25(OH)ビタミンD、C-ペプチド・グリコアルブミン、C反応性タンパク、鉄代謝マーカーなどの血中濃度測定を実施しています。
3)5年後調査に基づく全がんのケース・コホート研究(ゲノム情報利用研究)
1995-98年に実施した5年後調査においてアンケート調査に回答し、かつ血漿検体を提供した対象者のうち、ベースライン調査には参加していない10,950名を2009年末まで追跡した情報に基づき、がん登録より把握したがん罹患1,081症例をケースとし、前述の10,950名からランダムサンプリングにより4,000名をサブコホートとした選択しました。がん罹患症例とサブコホート集団の対象者のDNA検体を用いて、SNPアレイによるゲノム網羅的なジェノタイピングを実施しました。これらの情報は、前述の1)ベースライン調査に基づく全がんのケース・コホート研究と合わせた解析を実施する、あるは、1)の集団から得られた結果を検証するための解析などに活用されています。
▼ 次世代多目的コホート研究
1)がん症例を対象とした全ゲノム解析
一般住民を対象としたコホート研究で多く観察される家族集積の乏しい散発的ながん症例におけるgermline variantの探索を目的とし、全ゲノムシークエンス解析を開始しました。次世代多目的コホート研究のベースライン調査または5年後調査において血液検体の提供があった60,928名(男性:26,364名、女性:34,564名)において、その後の追跡調査により2016年末までにがんと診断された症例を解析対象としています。