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研究プロジェクト
開発研究
意思決定支援/アドバンス・ケア・プランニング (▼クリックで展開)
1.急速進行性がん患者・家族と医師の共感的コミュニケーション促進のための統合支援プログラムの有効性を検証する無作為化比較試験 (外部サイトにリンクします)
膵がんをはじめとする急速に進行するがんは、病名告知時点で既に根治不可能であることも多く、患者さん・ご家族は大きなストレスを抱えています。そのような中で、標準治療終了後の療養について意向を整理し、医療者と共有することで、意向に即した療養を実現することは、世界的に難しい課題です。これまでの研究から、患者・家族は医師に共感的コミュニケーションを求めていること、医師の共感的コミュニケーション(言動)は患者のストレスに好影響を及ぼすことが示されています。
これまで先行研究として、医師に対するDVDを用いた講義とフィードバックを含む模擬演習で構成されるコミュニケーション技術研修(Communication Skills Training: CST)を開発し、無作為化比較試験により共感的言動の増加、患者のストレス軽減への有効性を確認しましたが、医師の教育研修時間(2日間)が長く、最前線の臨床医の参加が困難であるという問題点がありました。一方で、患者に対する医師への質問を促すための具体的な質問集パンフレット(Question Prompt List: QPL)を開発し、無作為化比較試験により有用性を確認しましたが、患者から医師への質問は欧米と比べて非常に少なく、パンフレットの配布に加え、強度を増した介入(患者が自らの知りたい事や心配事を理解し、医師に尋ねる積極性を持つ)が必要であると考えられました。
そこで、医師に対するコミュニケーション教育と患者・家族に対するコミュニケーション支援プログラムを開発し、患者・家族-医師間の共感的コミュニケーション促進への有効性を検証するために無作為化比較試験を行いました。予定登録患者数は、300名、予定登録家族数は240名、予定登録医師数は20名です。介入群は、開発されたプログラムを実施しました。対照群は、通常ケアとしました。主要評価項目は、コミュニケーション介入前後(対照群は1週間程度開けた後)の外来診察時に評価する医師のSHARE印象評定の平均値の前後差の群間の差です。2020年9月に登録を終了し、現在フォローアップ調査を継続しています。
2.がん患者の最終段階を支える意思決定モバイル介入:無作為化比較試験(外部サイトにリンクします)
患者さんは診察の場で医師と話し合うことに難しさを感じています。患者さんが大切にしていることや、望む治療や過ごし方を、患者さんご自身で考えたり、家族や医療者など信頼する人たちと信頼する人たちと一緒に早い時期から継続して話し合うことで、もしもの時に意向に沿った医療を受けられる可能性が高くなると言われています。
本研究では、患者さんやご家族が医師に聞きたい質問や大切にしたいこと、ならびにもしもの時の治療や過ごし方の目標を事前に整理し、医師との話し合いを始める支援を行うため、アプリケーション(アプリ)を作りました。このアプリは、スマートフォンやタブレットなどの携帯端末を使って、時間や場所を問わず利用することができるものです。
本研究の目的は、このアプリを用いて患者さんと医師との話し合いを促すことで、もしもの時の治療や過ごし方についての診察時のコミュニケーションが改善するかを検証することです。本研究により治療の早い時期からの話し合いが促進されることが示されれば、患者さんの意向に沿った医療の提供や、患者さんが望む過ごし方につながる可能性があります。
高齢者機能評価・高齢者を対象とした治療選択の意思決定支援 (▼クリックで展開)
3.高齢進行・再発がん患者のニーズに即した治療選択・継続のためのアプリケーションを活用した高齢者機能評価とマネジメント強化による支援プログラム開発(外部サイトにリンクします)
超高齢化社会を迎え、高齢がん患者が増加しています。高齢者は加齢に伴う身体的、精神的、社会的機能の低下から、抗がん治療継続が困難となることがあるため、併存する非がん領域の問題に対しても適切なサポートを行う必要があります。高齢者機能評価(GA)は、高齢者を多面的・包括的に評価するものであり、見つかった問題に対して多職種チームによるサポートを行います。本研究では、モバイル端末上で実施するGAに基づく推奨マネジメント作成と、加齢に伴う懸念事項を含む質問集(QPL)を用いたコミュニケーション支援が、診察時の加齢に関する懸念事項についての医師・患者コミュニケーションを促進するかどうかを検証します。また、コミュニケーションが促進されることで、医師による積極的なマネジメント実施につながり、治療アウトカム、患者アウトカムが改善されるかどうかも検証します。
本研究により、日常診療で見逃されていた身体的、精神的、社会的問題が明らかとなり、患者・医師コミュニケーションが促進されることで、多職種によるサポートを中心とした積極的なマネジメント実施につながり、治療の有害事象減少、治療継続率上昇、QOL・身体機能の維持・改善、さらに生存期間の延長につながる可能性があります。
AYA世代がん患者とのコミュニケーション (▼クリックで展開)
4.思春期・若年成人(Adolescent and young adult; 以下AYA)世代がん患者の意向に即した医療者へのコミュニケーション技術プログラムの開発
AYA世代(15歳から39歳)は就学・就労や妊孕性等世代特異的な問題を抱えています。しかし症例が少ない希少がんのため、世界的に実態が明らかにすることは容易ではなく、医療者はコミュニケーションに困難を感じています。本研究の目的は、AYA世代がん患者の医療者とのコミュニケーションに対する意向を明らかにし、AYA世代患者の意向に基づく医療者へのコミュニケーション学習プログラムを開発し、その有効性を検討することです。
私たちは、先行研究としてAYA世代がん患者を対象とした質問票調査により、医療者とのコミュニケーションへの意向と支援に関するニーズを明らかにしました。現在、AYA世代がん患者の診療に携わる医療者および精神保健福祉の専門家により構成された開発委員を中心にAYA世代がん患者とのコミュニケーション技術研修プログラムを開発し、その有効性を検討しています。
5.がん治療による生殖機能への影響と妊孕性温存の説明促進資材の開発
AYA世代がん患者のニーズ調査の結果から、生殖機能・妊孕性についての情報ニーズは高い一方でがん治療前に実際説明を受けた患者の割合は低いことが明らかになっています。がん治療に臨む患者に対して十分に情報を提供した上で、協働意思決定を行う必要があります。
そこで本研究では、がん診療医とAYA世代がん患者を対象にインタビュー調査を行い、治療開始前に医師が患者に対し「治療による生殖機能への影響と妊孕性温存」に関する説明を行う際の阻害要因と促進要因を明らかにし、各要因を踏まえ医師による患者への説明を多職種で実施促進する資材を開発することを目的としています。
本研究により、医師と多職種チームが使用可能な生殖機能・妊孕性についての説明促進資材が開発されることにより、AYA世代がん患者が治療前に十分納得した上で意思決定を行うことが促進され、患者のQOLの向上、医師の負担軽減が期待されます。
患者-医療者間のコミュニケーション(▼クリックで展開)
6.がん告知に伴う認知・生理・行動的反応の検討
医療者はがんや認知症などの進行致死性疾患の真実を患者やその家族に伝える際に、医学情報を正確に提供するだけでなく、情動的サポートとなる「共感」を提供するという複雑なコミュニケーションを求められています。重要な面談において患者は医師に対して共感的対応(例えば、患者の感情を受け止める言葉かけ、充分な沈黙を置くなど)を求めますが、少子高齢化社会を迎え、医療者が患者ひとりひとりに十分寄り添うことには限界があり、またコミュニケーション技術に乏しさを感じ、負担感を抱えているのが実情です。
「共感」とは、他者の考えや感情を洞察するために観察、記憶、知識、推理などを統合させた複雑な推論であり、共感行動とは、先行研究において視線、語調、距離、姿勢の側面から検討されています。いずれもその質や量の適切さは場面特異的であり(例えば、アイコンタクトは向社会的な行動である一方で、説得場面では敵対と捉えられることがあります)、患者-医療者間のコミュニケーション場面における共感的対応を示す明確な行動指標は示されていません。そこで本プロジェクトは、がん告知の面談場面中におけるがん検診受診者と医師との共感的対応に関わる相互作用機序を、認知、生理、行動の側面から検討することを目的として研究を推進しています。
本研究の成果は、今後、共感的対応力向上のための教育プログラム開発、面談時コミュニケーションの円滑化ツールの開発、さらに患者の不安を緩和し、医療者との信頼関係構築、患者QOL向上に貢献することが期待されています。
J-SUPPORTサポート研究 (▼クリックで展開)
7.がん患者の信頼感に及ぼす医師の面談行動の作用機序解明に関する研究(外部サイトにリンクします)
8.進行がん患者に対するスクリーニングを組み合わせた看護師主導による治療早期からの専門的緩和ケア介入プログラムの臨床的有用性を検証する無作為化比較試験(外部サイトにリンクします)
9.がん患者の抑うつ・不安に対するスマートフォン精神療法の最適化研究:革新的試験システムを用いた多相最適化戦略試験(SMILE AGAIN project)(外部サイトにリンクします)
ガイドライン (▼クリックで展開)
10.気持ちのつらさガイドライン、再発不安ガイドライン、不眠ガイドライン、コミュニケーションガイドライン
わが国の死因の第一位のがんに関する重要な問題の一つに、精神心理的な問題がある。国際サイコオンコロジー学会でも、「気持ちのつらさ(うつや不安)」を「第 6 のバイタルサイン」として評価すべきであるという提言がなされています。近年は、再発不安も大きな問題で不眠とともに対策が急がれています。また、医療者のコミュニケーションスキルも重要な課題となっています。しかし、わが国では、前述の精神心理的な問題に関する診療ガイドラインが存在せず、そのことが「がん研究 10 か年戦略」の推進に関する報告書(中間報告、2019.4)の中の「がん患者の精神心理面に与える影響の把握や、患者の精神心理的ケアが不十分である」との指摘につながっていると考えられます。
そのため日本サイコオンコロジー学会等の協力を得て、気持ちのつらさ(不安・うつ)、再発不安、不眠、コミュニケーションに関する診療ガイドラインの作成を行っています。これらにより、がん医療の質の向上のみならず、5 大疾病の一つとして位置付けられている精神疾患対策にもなり、ひいては、国民の生活の質改善に寄与することが期待されます。
11.遺族支援ガイドライン
がんは、年間約 100 万人が罹患する最大の健康問題です。これを「家族」という視点からみてみると、何百万人という人々が患者を心身両面から支え、患者の死亡後は遺族という立場で死別の苦痛を経験しています。がん患者の家族・遺族はその負担の大きさから「第 2 の患者」とも呼ばれ、適切なサポートが必要であることが強調されてきました。精神心理的苦痛を経験する家族の割合は高く、死別はうつ病や自殺の重要なリスクでもあることから、欧米では、家族・遺族ケアが積極的に推進されてきました。
一方、家族・遺族に対するケアの在り方は医療システムや文化の影響を色濃く受けるため、わが国の特徴を念頭においた方略が必要です。わが国では、一部のピアサポート等を除き、家族・遺族には適切な精神心理的ケアがほとんど提供されておらず、積極的なケアが必要ながん患者の家族・遺族に関する正確な報告は乏しい状況です。
がん医療のより一層の充実を推進するために、がん患者・家族に対する効果的な精神心理的支援法を明らかにするために遺族支援ガイドラインの作成を行っています。これらにより、がん患者の家族・遺族への精神心理的負担の軽減に向けた、わが国の医療の全体的な質の向上に資することが期待されます。
実態調査 (▼クリックで展開)
12.全国がん登録を用いたがん患者の自殺に関する記述疫学的研究 (外部サイトにリンクします)
わが国では年間約100万人が新たにがんと診断され、生涯のうち2人に1人はがんに罹患するとされており、がんの5年生存率が約60%に改善してきたとはいえ、がんとの共生のための支援はがん対策において重要な課題です。がんとの共生の課題のうち、がん患者は高い自殺の危険性を有していることが国内外の研究により報告されていることから、「第3期がん対策推進基本計画」および「自殺総合対策大綱~誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して~」において、がん患者の自殺対策の必要性が明示されています。
2016年に全国がん登録制度が開始され、わが国全体のがん患者の自殺の実態を初めて明らかにすることが可能となりました。そこで、2016年1月1日から半年間にがんと診断された患者のうち、がん診断後6か月以内に自殺で死亡するリスクを検討した結果、一般人口と比較して2.68倍高いことが示されました。この調査では、6か月間と追跡期間が限られていることから、今後全国がん登録を用いた調査を継続し、より詳細な実態を検討する必要があります。
13.遺伝子パネル検査を受けるがん患者の精神的苦痛、QOLに関する研究
2019年5月29日、我が国でも次世代シークエンサーを用いた、がん遺伝子パネル検査が保険償還されました。標準的治療がない固形がん患者または局所進行や転移が認められ標準的治療が終了となった固形がん患者が対象となります。我が国においては遺伝子パネル検査の心理的影響に関する報告は見られませんが、海外の先行研究では、家族性腫瘍に関する遺伝子パネル検査を受ける方を対象とした調査において、全体的には明らかな心理的苦痛等は見られないが、変異が中程度の場合は心理的苦痛が高いことがわかっています。しかし、家族性腫瘍に関する遺伝子パネル検査を受けるものが対象で、本研究対象であるがん遺伝子パネル検査をうける方を対象とした研究は世界的に報告されていません。また、家族など同伴者への心理的影響も、患者同様に想定されますが、これもまた検討されていません。
そこで、がん遺伝子パネル検査、およびその結果が患者、同伴者に与える心理的影響と関連する要因を検討しています。がん遺伝子パネル検査を受けることの心理的ストレスの現状と生活の質などへの影響を確かめることで、今後の新たな支援・指針につながることが期待されます。
実装科学 (▼クリックで展開)
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