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国立がん研究センター

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大腸がんの「個別化治療」と診断・治療薬の開発産学連携プロジェクトを進め最適な治療を届ける

注:本ページは2024年2月時点の情報です。

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大腸がんは男女合わせると最も患者数の多いがんです。手術ができない転移・再発大腸がんの患者さんの治療では、近年、遺伝子検査で適切な薬を選択する個別化治療が進んでいます。また、東病院を中心に、大腸がんなど固形がんの患者さんにさらに最適な治療を届けるための全国産学連携プロジェクトMONSTAR-SCREEN(モンスター・スクリーン)を展開しています。大腸がんの個別化治療とMONSTAR-SCREENについて、東病院医薬品開発推進部門長の吉野孝之医師が解説します。

東病院 副院長(研究担当(医薬品))・医薬品開発推進部門 医薬品開発推進部門長
吉野 孝之 (よしの たかゆき)医師

経歴紹介

1995年防衛医科大学校卒業。東病院消化管内科長などを経て、2022年より副院長(研究担当(医薬品))、23年より医薬品開発推進部門長。固形がんの産学連携プロジェクトMONSTAR-SCREEN研究代表。
「最も有望な治療を世界一早く日本の患者さんに届けるために日夜頑張っています」

切除不能な大腸がんでは遺伝子検査で薬物療法を選択

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手術ができない転移・再発大腸がんの患者さんに対する治療では、複数の抗がん剤と分子標的薬などを組み合わせた薬物療法を行います。その際、重要なのが、がん細胞の増殖に関与する「RAS遺伝子」と「BRAF遺伝子」の変異の有無を調べる遺伝子検査の結果によって、最適な治療薬を選択することです。遺伝子検査には、手術や内視鏡検査の際に採取したがんの組織を使います。

RAS遺伝子に変異がある場合

RAS遺伝子に変異がある患者さんは、変異のない人には効果が高い抗EGFR抗体薬のセツキシマブやパニツムマブが効かないことが分かっています。そのため、 FOLFOX(フルオロウラシル+レボホリナート+オキサリプラチン)かFOLFIRI(フルオロウラシル+レボホリナート+イリノテカン)療法などと、血管新生阻害薬のベバシズマブを併用した薬物療法を行います。

BRAF遺伝子に変異がある場合

BRAF遺伝子変異がある大腸がんの患者さんに対しては、2020年11月から、セツキシマブとBRAF阻害薬のエンコラフェニブ、MEK阻害薬のビニメチニブの併用療法が新たに保険適用になりました。BRAF遺伝子変異のある患者さんは、既存の薬物療法が効きにくかったのですが、BRAF阻害薬などを用いた新たな併用療法の導入によって、治療成績の向上が期待されます。

どちらにも変異がない場合

なお、大腸がんの患者さんのうちRAS遺伝子変異が見つかる人は約50%、BRAF遺伝子変異は約8%程度です。どちらにも変異がない患者さんの標準治療は、FOLFOXかFOLFIRI療法などと、セツキシマブまたはパニツムマブを併用した薬物療法です。

さらに、大腸がんでも、乳がんや胃がんと同じようにHER2遺伝子に異常がある患者さんが2~3%いることが分かっており、そういった患者さんに適切な薬を届けるための治験も進めているところです。

MSI検査などの結果により臓器横断的な個別化治療も

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MSI検査(マイクロサテライト不安定性検査)は、遺伝的に大腸がん、子宮体がんなどになりやすいリンチ症候群かどうかを診断する予備検査です。

がんの組織を用いたMSI検査で陽性(高頻度MSI/MSI-High)と診断された大腸がん患者さんの場合は、免疫チェックポイント阻害薬の投与が選択肢になります。高頻度MSIの大腸がんの患者さんが、最初の薬物療法が効かなくなった後に保険診療で使える免疫チェックポイント阻害薬には、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、あるいは、ニボルマブとイピリムマブの併用療法があります。

免疫チェックポイント阻害薬のペンブロリズマブは、2018年に、高頻度MSIの患者さんに保険適用になりました。その際に画期的だったのは、日本で初めて適応症が「がん薬物療法後に憎悪した固形がん」とされ、“臓器横断的”になったことです。

固形がんとは、血液がん以外、つまり、器や組織などでがん細胞が“かたまり”を作って増殖するタイプのがんを意味します。小腸がんなど患者数の少ない希少がんは治療薬の開発が遅れていますが、高頻度MSIであれば、ペンブロリズマブが治療の選択肢になります。

もう一つ、臓器横断的に保険診療で使える薬には、遺伝子検査でNTRK(エヌトラック)融合遺伝子陽性となった進行・再発固形がんの患者さんを対象とするNTRK阻害薬のエヌトレクチニブがあります。NTRK融合遺伝子陽性は、大腸がんを含めすべての固形がんの0.2%にしか発見されない希少な遺伝子異常ですが、 NTRK阻害薬が劇的に効く可能性があります。頻度は低くても、遺伝子検査の結果などによって、個々の患者さんに最適な治療を届けることが大切なのです。

新プロジェクトを始動し術後補助化学療法の個別化目指す

一方、手術が可能な大腸がんの患者さんに対する術後補助化学療法についても個別化治療を進めるべく、昨年、新たなプロジェクトCIRCULATE-Japan(サーキュレートジャパン)を立ち上げました。個々の患者さんに最適な治療を届けることを目指して2015年に始まった、産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクトSCRUM-Japan(スクラムジャパン)の基盤を活用しており、国内外の約150病院が参加しています(下図参照)。

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新プロジェクトを立ち上げたのは、手術から1カ月後に、がん由来のDNAが血液中に浮いているとほぼ100%再発しますが、それがなければ再発リスクが極めて低いことが分かったからです。がん由来のDNAの有無は、血液を用いて遺伝子の異常などを診断する「リキッドバイオプシー」という検査技術で調べます。リキッドバイオプシーの利点は、比較的患者さんへの負担が少ない血液検査で診断でき、約1週間で迅速に結果が得られることです。

その他、リキッドバイオプシーでがん由来のDNAが見つからなかった場合に術後補助化学療法を実施すべきなのかを見極めるための臨床試験も進行中です。また、再発リスクが高いと診断された人に対する新たな術後補助化学療法も開発中ですし、今後は、膵臓がんの個別化治療と治療開発につながるリキッドバイオプシープロジェクトを開始することも検討中です。

MONSTAR-SCREENで固形がんの個別化治療の進化へ

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MONSTAR-SCREEN(モンスター・スクリーン)は、肺がん以外の固形がんを対象にした遺伝子スクリーニングのプロジェクトです。消化器がんの患者さんに限らず、婦人化がん、乳がん、泌尿器科がん、頭頸部がん、皮膚がんなど他の固形がんの患者さんにも、遺伝子異常の有無などに合わせた個別化治療を受けていただく機会を増やそうと、2019年7月に始まりました。

ちなみに、肺がんについては2013年から産学連携プロジェクトLC-SCRUM-Asiaが進行中で、現在、全国の200以上の病院が参加しています。

MONSTAR-SCREENで臓器横断的に個別化治療の開発を進めることで、治療薬の開発が遅れている希少がんの患者さんにも最適な薬を届けたいと思います。東病院をはじめ、日本で治療を受けている一人ひとりの患者さんがとびきりの笑顔になるように、世界最高の治療薬と診断薬を一つでも多く届けることが我々のミッションです。

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