がん治療で必要性が高まる「総合内科」「併存疾患」のある患者さんの治療を安全に
注:本ページは2022年6月時点の情報です。
糖尿病、腎臓病、心臓病、高血圧などの併存疾患(いわゆる「持病」)を抱えながら、がん治療を行う患者さんは少なくありません。中央病院では、2010年10月に「総合内科」を開設し、がんと併存疾患の治療の両立をサポートしています。総合内科はどのような科で、なぜ、がん治療に不可欠になってきているのでしょうか。
中央病院 総合内科長(糖尿病腫瘍科)
大橋 健(おおはし けん)医師
経歴紹介
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。
「当院の患者さんは、糖尿病の治療も頑張る患者力・人間力の高い方々で、日々多くのことを学ばせていただいています」
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総合内科医長(糖尿病腫瘍科)
納 啓一郎(おさめ けいいちろう)医師経歴紹介:日本内科学会認定内科医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。
「がん治療において糖尿病のコントロールは非常に大事です。食事、運動のことも含め、何でも相談してください」 -
総合内科医長(循環器内科)
庄司 正昭(しょうじ まさあき)医師経歴紹介:日本内科学会認定内科医、日本循環器学会循環器専門医、日本不整脈学会不整脈専門医。
「心臓を守って、患者さんたちががん治療に専念できるように日々尽力していきたいです」 -
総合内科医長(循環器内科)
岩佐 健史(いわさ たけし)医師経歴紹介:日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本腫瘍循環器学会評議員。
「心臓病があるために希望する治療が受けられない、あるいは、がん治療で心臓が悪くなる患者さんを少しでも減らすように頑張ります」
「がん患者さん」と「がん専門医」の双方をサポート
「当院の総合内科は、がん専門医と連携して、がん治療中の方の糖尿病、心臓病、腎臓病など『がん以外の内科疾患』の診療を担当する部門です。大学病院や総合病院にある、明確な診断が難しい人などを対象にした総合診療科とは異なりますので、ご注意ください」
総合内科長の大橋健医師は、そう説明します。多くの患者さんが、糖尿病や甲状腺の病気などの内分泌疾患、腎臓病、心臓病といった「併存疾患」(いわゆる「持病」)を抱えながら、がん治療を受けています。併存疾患のある患者さんは、そうでない人と比べると、手術、抗がん剤治療などで合併症が生じるリスクが高まります。がんそのものや、がんの治療がもたらす影響によって併存疾患が悪化する恐れもあり、がんの診療と並行して併存疾患の治療をしていくことが不可欠なのです。
現在、中央病院の総合内科の主なスタッフは、糖尿病専門医である大橋医師と納啓一郎医師、循環器専門医である庄司正昭医師と岩佐健史医師の4人です。腎臓病に関しては、東京都済生会中央病院腎臓内科の医師が週1回来院し、がん治療の専門医と連携しながら、患者さんの腎臓病の管理や治療を行っています。
がん治療の進行を左右する糖尿病の管理
併存疾患の中で、最も多いのが糖尿病です。
「糖尿病の患者さんが手術を受ける際には、徹底した血糖コントロールが必要です。血糖値が高い状態で手術を行うと、傷が治りにくくなったり、感染症や心筋梗塞・脳梗塞などの合併症を起こしたりするリスクが高まるからです。手術後はストレスホルモンの分泌増加などの影響で血糖値が上昇しやすいため、普段は内服薬で糖尿病の治療をしている人でも、手術前からインスリンを使うことがあります」と、納医師は解説します。
がんと糖尿病の関係-
糖尿病の人が、がんにかかるリスク
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糖尿病の人の死因
抗がん剤治療中は「吐き気・嘔吐の副作用を抑える制吐剤」として、ステロイド剤がよく使われます。また、ステロイド剤は、他にもさまざまな目的で使用されます。
「もともと糖尿病のある人は、ステロイド剤など高血糖をきたしやすい薬を使うと、ほぼ確実に血糖値が上がります。高血糖のために喉の渇きや体重減少などの症状が出ているのに、抗がん剤の副作用だと勘違いすると、適切な対応ができなくなってしまうので注意が必要です」(大橋医師)抗がん剤治療の副作用などで食欲不振や体調不良に陥ったときには、糖尿病の薬の調節が必要になることがあります。例えば、食事がとれないのに血糖値を下げる薬を服用したりインスリン注射をしたりすると、低血糖を起こす場合があり危険です。具合が悪いときは、どのように対処するか、患者さん自身もしっかり把握しておくことが大切です。
食欲不振や味覚障害が起こるような抗がん剤治療を受けている間は、栄養をとることを優先して糖尿病の食事療法を変更する場合もあります。総合内科の糖尿病専門医が、患者さんの栄養状態や血糖値などの推移をみながら、がん治療と糖尿病のコントロールが両立できるようにサポートしています。
がんと循環器疾患を統合的に扱う「腫瘍循環器学」
「私たち総合内科の医師の重要な役割は、糖尿病、腎臓病、心臓病、高血圧などの併存疾患があるために、がん治療の開始が遅れたり、治療の中断を余儀なくされたりするのを防ぐことです」と、庄司医師は話します。循環器専門医の庄司医師と岩佐医師は、がん専門医と連携して、もともと心臓病のある患者さんのがん治療をサポートする他、中央病院で実施された心電図、心エコー、下肢エコーの検査画像すべてに目を通し、心機能の低下や不整脈、血栓(血液の塊)の早期発見に努めています。
2017年には「日本腫瘍循環器学会」が設立され、がん治療の専門医と循環器内科医が連携して治療する重要性が、全国的にも強調されるようになりました。その先駆けとなったのが当院の総合内科です。
「心機能が低下していると、術後に感染症になったり、がんが進行したときに心筋梗塞や心不全を起こしたりすることがあります。そういった合併症を防ぐために、循環器の検査結果を注視しているのです。異常が見つかった場合は、すぐにがんの主治医に連絡し、心臓病や血栓症の治療についてコンサルテーション(注)しています」と、岩佐医師は説明します。がんがあると血液が固まりやすくなったり、大きながんが血管を圧迫したりするため血栓が生じやすく、静脈が詰まって命に関わる「静脈血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)」になるリスクが高まることがわかっています。小さい血栓も見逃さず、抗凝固薬で治療することが重要なのです。
総合内科の役割
(注)医療におけるコンサルテーションとは、担当医に相談・指導を受けたり行ったりすることを指します。
がん治療の副作用による併存疾患の悪化に迅速対応
一方、アントラサイクリン系抗がん剤、乳がん治療などに使われる分子標的薬のトラスツズマブ、免疫チェックポイント阻害薬など、「副作用として心機能の低下が起こりやすいがん治療薬」も増えています。放射線治療が心筋障害・胸水貯留を招くことも少なくありません。
免疫チェックポイント阻害薬では、体内のインスリンの分泌がほとんどなくなる1型糖尿病、甲状腺機能障害、下垂体炎といった、これまでの抗がん剤にはなかった副作用が起こることがあります。そういった副作用をいち早く見つけ、重症化を防ぐためにも、がんの専門医と総合内科医の連携の重要性が高まっています。「特に、1型糖尿病は頻度こそ高くありませんが、迅速な対応が必要です。その点、中央病院と東病院の両院では、平日は毎日、糖尿病専門医が常駐しているので、安心して治療を受けてください」(納医師)
もともと併存疾患があった人はもちろん、がん治療中に糖尿病や高血圧、腎臓病、心臓病になった人も、内科的な病気で心配なことがあったら、主治医を通して総合内科を受診することができます。