「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に対応 日本の臨床試験の質向上と手順標準化への貢献に期待臨床試験のモニタリング・監査ガイドライン公開
2015年2月6日
独立行政法人国立がん研究センター
独立行政法人国立がん研究センター(理事長:堀田知光、東京都中央区、略称:国がん)研究支援センターは、日本の代表的な6つのがんの多施設共同臨床試験グループにおけるモニタリング、監査の共通ガイドラインを取りまとめ、他のグループや施設でも活用できるよう報告書やチェックシートのテンプレートとともに公開いたしました。
臨床試験のモニタリングや監査は、臨床試験の質の向上に大きく関与する活動で、近年、報道等でも注目された臨床研究不正事案を受け、本年4月に施行(モニタリング、監査は10月施行)される「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(PDF:119KB)(外部サイトにリンクします)」においても新たに規定が盛り込まれました。これを受け、各施設では、モニタリングや監査に関する体制整備とその厳格な運用が求められています。また、日本においては多数の臨床試験グループがそれぞれに異なる手順で試験を実施しているのが現状で、共通ガイドラインの使用を推進することは臨床試験の標準化・効率化に大きく貢献することが期待されます。
本ガイドラインは、がん領域で多施設共同臨床試験を実施するJALSG、JCOG、J-CRSU、JGOG、JPLSG、WJOGの6グループ(Japanese Cancer Trial Network:JCTN)において、米国国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)や欧州の代表的な多施設共同臨床試験グループ(EORTC)などの手順を参考に策定したものです。国立がん研究センター研究開発費「共同研究グループ間およびがん診療連携拠点病院間の連携によるがん治療開発研究の効率化と質的向上のための研究(主任研究者:国立がん研究センター研究支援センター 研究推進部長 福田治彦)」の成果であり、当センター研究支援センター研究推進部により取りまとめを行いました。
他の臨床試験グループ、単施設試験やがん領域以外の試験でも広く活用いただくことで、研究者主導臨床試験の標準化を促進し、臨床試験の質の向上、共同試験の推進に貢献することが期待されます。なお、有害事象報告の共通ガイドラインについても間もなく公開を予定しています。
JCTN(Japanese Cancer Trial Network)
下記リンクをクリックすると外部サイトにリンクします。
- 成人白血病治療共同研究グループ(JALSG)
- 日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)
- 日本臨床研究支援ユニット(J-CRSU)
- 婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)
- 日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)
- 西日本がん研究機構(WJOG)
「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」とは
これまで医学系研究が従うべき指針であった「疫学研究に関する倫理指針」と「臨床研究に関する倫理指針」が見直され、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年文部科学省・厚生労働省告示第3号。以下、「本指針」)として両指針が統合されました。本年4月に施行されます。
本指針では、近年の研究の多様化や、研究をめぐる不適正事案の発生等を踏まえ、研究機関の長及び研究責任者等の責務、倫理審査委員会の機能強化、モニタリング・監査等について、新たに規定が盛り込まれており、4月の施行(モニタリング・監査の施行は10月)に向け、各研究機関ではその具体的な実施手順を模索している状況にあります。
臨床試験のモニタリング・監査の現状
米国では、NCIががんの多施設共同試験グループを監視・支援する体制がとられており、NCI主導で各グループ共通のシステムが導入されています。システムの標準化によって、研究者及び中央支援機構の手間の軽減のみならず、臨床試験の質の担保、データの互換性、共同試験の促進といった数多くのメリットが生み出されています。
近年、日本からも研究者主導の多施設共同試験によるエビデンスが数多く発信されるようになってきましたが、日本の各臨床試験グループにおける試験実施手順には相違点が多く、複数の臨床試験グループに参加する研究者や研究支援者に不要な手間を強いることになっています。現在、日本には臨床試験グループを統括・支援するNCIのような機関は存在しないため、これらの標準化は各臨床試験グループが自発的に進める必要があります。このような背景のもと、国立がん研究センター研究支援センターでは、今回の共通ガイドラインを初めとして様々な試験実施手順の標準化と効率化を進めています。
モニタリング・監査の目的
モニタリング
モニタリングは、試験開始から終了に至る一連のプロセスの中で、試験がプロトコールや各種規制要件等に則って安全かつ倫理的に実施されていることを確認し、またデータが正確に記録・報告されていることを確認するための品質管理活動です。一連の臨床試験実施プロセスで生じるエラーの最小化がモニタリングの目的であり、研究者等に対して絶えずフィードバックを行うことでデータの質や結果の信頼性を向上させることが最終的なゴールとなります。
監査
監査は臨床試験の結果の信頼性の保証、試験に参加する患者に対する倫理性の担保、さらには継続して行われる臨床試験の品質の向上を目的として行われる品質保証活動です。監査はモニタリングと異なり、臨床試験の実施、管理に直接携わらない担当者が主体となって行われます。監査担当者が実地に研究機関を訪問し、原資料や試験実施体制を確認することで、報告データの正確性や実施体制の適正性を保証します。
JCTNガイドラインの特徴
モニタリングガイドライン
モニタリングガイドラインでは、中央モニタリングの具体的な方法を定め、モニタリングで必ずチェックすべき項目等を定めています。また、モニタリングレポートのテンプレートをWord形式で提供し、各研究グループでカスタマイズして利用できるようにしました。
モニタリングの必須項目
- 研究概要、登録状況、CRF回収状況
- 適格性の検討、治療開始前の中止例の検討
- 背景因子の集計
- 治療中止理由
- プロトコール逸脱の可能性のある症例の検討
- 安全性の検討、二次がんの検討
モニタリングの頻度
原則年2回モニタリングレポートを発行(具体的な頻度は試験毎に規定)
テンプレート
モニタリングレポートのテンプレートをWord形式で公開
監査ガイドライン
監査ガイドラインでは施設訪問監査の具体的な方法を定め、施設や症例の選定方法、監査の際のチェック項目、評価規準、報告の方法などを定めました。また、監査結果報告書やチェックシートをWord形式で提供し、各研究グループでカスタマイズして利用できるようにしました。
施設訪問監査について規定
- 臨床試験の品質に最も大きく影響する参加施設に対する監査について規定
ガイドラインの内容
- 施設選定、症例選定の考え方
- 監査の手順
- 監査のチェック項目
- 評価規準
- 監査結果の報告と対応
- 監査記録の保管
テンプレート
- 監査結果報告書、監査チェックシートをWord形式で提供
プレスリリース
- 臨床試験のモニタリング・監査ガイドライン公開
関連ファイルをご覧ください。
報道関係からのお問い合わせ先
- 独立行政法人国立がん研究センター
郵便番号:104-0045 東京都中央区築地5-1-1
研究支援センター 研究推進部 多施設研究支援室 中村健一
電話番号:03-3542-2511(代表)
ファクス番号:03-3547-1002
Eメール:kennakam●ncc.go.jp(●を@に置き換えください) - 企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
ファクス番号:03-3542-2545
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えください)