がん医療水準の「均てん化」を評価する体制構築に向けがん診療連携拠点病院などでの治療実態を調査
2016年5月26日
国立研究開発法人国立がん研究センター
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、東京都中央区)がん対策情報センター(センター長:若尾文彦)は、がん診療連携拠点病院を中心とする全国232施設で2012年にがんと診断された患者31万2381名について、各がん種と支持療法で選定した標準治療・検査9項目の実施率と標準治療を行わなかった理由について調査を行いました。
本調査は、科学的根拠に基づいた標準治療に対し、各施設で実際に行われた診療を調査することで、がん医療水準の均てん化の評価体制構築へ向けた検討を行うものです。また、標準治療は患者の状態によっては控える判断をすることも必要であることから、未実施理由の妥当性についても調査しました。2011年症例を対象とした試験的調査に続き2度目の実施で、選定した標準治療の対象となる症例を院内がん登録データより抽出し、各施設で行われた診療をDPCもしくはレセプトデータで収集、突合し、標準治療実施率の算出を行いました。今回の2012年症例においては、調査対象とする施設を拡大し実施しました。
その結果、2011年と2012年の標準治療の実施率に大きな変化はなく、項目により施設間で差がみられました。しかし、標準治療を行わなかった理由をみると、患者の全身状態や他にもっている疾患による場合が最も多く、がん種やステージ、年齢、全身状態などを踏まえ標準治療を実施するか否かの判断が行われていることがわかりました。また、患者が標準治療を希望しなかった場合も4項目の未実施理由の約3割でみられました。その他、6項目で高齢を理由とする場合が、また施設の方針や臨床試験などの理由もみられました。
これらの結果より、均てん化を評価する指標を構築し診療の質(QI:Quality Indicator)の向上を図るためには、標準治療実施率を測定し、数字だけで施設間格差などに注目するのではなく、未実施の理由を詳細に調査、検討し、適切な治療が行われていたかどうかを評価することが重要であることが示されました。
未実施理由のより詳細については、患者の状態や臨床状況の個別性も考慮する必要があり、本調査のような大規模調査での把握は困難です。そのため国立がん研究センターでは、本調査を発展的に継続し、がん診療連携拠点病院の整備指針(健康局長発平成26年1月10日)に示されているPDCA(Plan・Do・Check・Action)の枠組みの中などで未実施理由の妥当性を個別に検討できる体制を構築し、継続的な均てん化評価と診療の質の向上を目指してまいります。
調査背景
がん医療の均てん化は、がん対策基本法において中心的な施策のひとつであり、がん対策推進基本計画においても75歳未満のがん死亡率20%減(平成17年起点)を目指し、喫煙率の低減、検診受診率の向上、がん医療の均てん化を柱に各種の取り組みが行われてきました。しかし現在、20%減は達成困難と予測されており、さらなる取り組みの強化が求められています。がん医療の均てん化においては、これまでがん診療連携拠点病院の整備が進められてきましたが、均てん化を評価する体制は確立されておらず、全国における診療の質の継続的評価体制の確立が急がれます。
調査概要
研究参加施設
232施設(がん診療連携拠点病院217施設/都道府県の推薦による院内がん登録実施病院15施設)標準治療未実施の理由は、研究参加施設の中から協力の得られた56施設からの回答を集計
集計対象症例
2012年にがんと診断され治療を行った症例
集計方法
各がん種と支持療法について代表的な標準治療を選定、対象となる症例を院内がん登録データより抽出し、各施設で現実に行われた診療をDPCもしくはレセプトデータで収集、突合し標準治療の実施状況を調査。また、未実施理由については大まかな選択肢を提示し、それ以外については記述を依頼した。
2011年症例 (5がんのみ) | 2012年症例 (5がんのみ) | 2012年症例 (全がん) | |
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患者数 | 103,560 | 138,498 | 312,381 |
平均年齢(±SD) | 67.7(12.3) | 67.9(12.2) | 66.3(14.2) |
性別 男性(%) | 55,194(53.3) | 74,126(53.5) | 172,082(55.1) |
ステージ0(%) | 8,782(8.5) | 12,120(8.8) | 28,606(9.2) |
ステージI(%) | 38,401(37.1) | 51,051(36.9) | 95,958(30.7) |
ステージII(%) | 18,673(18.0) | 25,596(18.5) | 49,434(15.8) |
ステージIII(%) | 16,752(16.2) | 22,390(16.2) | 43,141(13.8) |
ステージIV(%) | 19,687(19.0) | 25,763(18.6) | 54,187(17.4) |
ステージ不明(%) | 1,265(1.2) | 1,578(1.1) | 41,055(13.1) |
胃がん | 大腸がん | 肝がん | 肺がん | 乳がん | |
---|---|---|---|---|---|
患者数 | 34,102 | 38,312 | 9,401 | 30,678 | 26,005 |
平均年齢(±SD) | 70.4(10.7) | 69.0(11.6) | 70.6(10.3) | 70.4(10.1) | 58.9(13.7) |
性別 男性(%) | 23,847(69.9) | 22,546(58.8) | 6,531(69.5) | 21,052(68.6) | 150(0.6) |
ステージ0(%) | 6(0.02) | 8,621(22.5) | 0(0) | 51(0.2) | 3,442(13.2) |
ステージI(%) | 20,793(61.0) | 7,130(18.6) | 2,047(21.8) | 10,909(35.6) | 10,172(39.1) |
ステージII(%) | 3,170(9.3) | 8,080(21.1) | 3,436(36.6) | 2,607(8.5) | 8,303(31.9) |
ステージIII(%) | 3,709(10.9) | 7,879(20.6) | 2,191(23.3) | 5,895(19.2) | 2,716(10.4) |
ステージIV(%) | 5,999(17.6) | 6,193(16.2) | 1,501(16.0) | 10,803(35.2) | 1,267(4.9) |
ステージ不明(%) | 425(1.2) | 409(1.1) | 226(2.4) | 413(1.4) | 105(0.4) |
対象臓器 | 対象患者(分母となる患者数) | 解析した標準治療(分子となる患者数) |
---|---|---|
胃 | 胃癌に対して根治手術を受け組織学的に取り扱い規約ステージ2、3(pT1,pT3N0を除く)の進行癌と診断され6週以内に退院した患者数 | S-1による術後化学療法が施行された患者数 |
大腸 | 組織学的ステージ3と診断された大腸がん患者数 | 術後8週間以内に標準的補助化学療法が施行された患者数 |
肺 | 臨床ステージ1~3の非小細胞癌と診断された患者数 | 外科治療、または定位放射線治療が行われた患者数 |
肺 | 術後ステージ2,3Aの非小細胞癌で完全切除された患者数 | プラチナ製剤を含む術後化学療法が行われた患者数 |
乳腺 | 乳房温存術を受けた70歳以下の乳癌患者数 | 術後全乳房照射が行われた患者数 |
乳腺 | 乳房切除術が行われ、再発ハイリスク(T3以上でN0を除く、または4個以上リンパ節転)の患者数 | 術後照射がなされた患者数 |
肝 | 初回の肝切除術を受けた肝細胞がん患者数 | ICG15分停滞率が治療開始前に測定された患者数 |
横断 | 催吐高リスクの抗がん剤が処方された患者数 | 同時に予防的制吐剤(セロトニン阻害剤+デキサメタゾン+アプレピタント)が使用された患者数 |
横断 | 外来で麻薬が開始された患者数 | 同時あるいはそれ以前1ヶ月以内に緩下剤の処方がなされた患者数 |
調査結果概要
標準治療実施率は、乳がんに対する乳房切除術で再発高リスク症例に対する術後放射線療法が33.3%と最低で、肝がんの肝切除前のICG測定が91.6%で最高でした。これらに全身状態などの患者要因により実施しなかったものおよび高齢を加味すると、9項目中6項目で適切な治療の実施率として90%以上の結果となりました。一方、乳がんに対する乳房切除術で再発高リスク症例に対する術後放射線療法は適切な治療を加味しても61.7%、催吐高リスク化学療法前の予防制吐剤投与は71.7%でした。標準治療を実施するか否かは、ステージや全身状態だけではなく様々な要素により判断されます。そのため、これらの結果について解釈することは困難で、今後個別に検討する必要があると考えられます。
未実施理由を加味させた場合の実施率の変化
注:未実施理由の「高齢」について
単に高齢であったために未実施としたか、高齢であるため全身状態が悪く認知機能の著しい低下がありガイドライン上の治療は適切でないと判断されたか明確ではなかったため、高齢を妥当な理由として加味した場合と、加味しなかった場合の両方で算出しました。
調査した標準治療 |
未実施理由の加味なし | 未実施理由の加味あり 「高齢」を 加味せず | 未実施理由の加味あり 「高齢」を 加味 |
---|---|---|---|
胃がん ステージ2、3に対する術後S-1療法 |
67.2% | 92.2% | 98.8% |
大腸がん ステージ3に対する術後補助化学療法 |
47.1% | 85.3% | 90.2% |
肺がん(1) ステージ1から3の非小細胞肺がんへの手術または定位放射線治療 |
87.9% | 98.2% | 99.2% |
肺がん(2) ステージ2、3A非小細胞がんに対する術後化学療法 |
44.9% | 87.8% | 96.4% |
乳がん(1) 乳房温存術後の全乳房照射 |
72.8% | 93.2% | 93.2% |
乳がん(2) 乳房切除後の腋窩リンパ節転移例に対する術後照射 |
33.3% | 57.7% | 61.7% |
肝がん 肝切除前のICG15分停滞率の測定 |
91.6% | - | 97.0% |
臓器横断 催吐高リスク化学療法前の予防制吐剤投与 |
64.2% | - | 71.7% |
臓器横断 外来麻薬処方時の便通対策 |
66.0% | - | 80.4% |
—肝癌、臓器横断(制吐剤、麻薬)について「高齢」が理由とされた症例は無かった。
院内がん登録とDPCについて
院内がん登録
院内がん登録は、病院で診断されたり、治療されたりしたすべての患者さんのがんについての情報を、診療科を問わず病院全体で集め、その病院のがん診療がどのように行われているかを明らかにする調査です。この調査を複数の病院が同じ方法で行うことで、その情報を比べることができるようになり、病院ごとの特徴や問題点が明らかになるものと期待されています。病院にかかったすべてのがん患者さんという幅広い対象に対して調査を行いますので、病院のがん診療の特徴がよくわかります。
- がん情報サービス:院内がん登録とは(がん情報サービスへリンクします)より転載
DPC導入の影響評価に関する調査
DPC制度(以下「DPC/PDPS」という。Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System)は「急性期入院医療の診断群分類に基づく1日当たりの包括評価制度」である。本調査は、はこのDPC/PDPSの導入による影響の検証及び今後のDPC/PDPSの継続的な見直しのために必要なデータの収集を目的として、中央社会保険医療協議会の付託を受けた診療報酬調査専門組織・DPC評価分科会の下実施するものである。
- 厚生労働省ホームページ(外部サイトにリンクします)より転載
プレスリリース
- がん医療水準の「均てん化」を評価する体制構築に向けがん診療連携拠点病院などでの治療実態を調査
関連ファイルをご覧ください。
添付資料
- 調査結果(標準治療別詳細)
- 都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会がん登録部会QI研究(2012年診断症例)
関連ファイルをご覧ください。
参考
がん対策情報センター がん臨床情報部
「がん登録部会Quality Indicator研究 2012年症例解析結果報告書」を掲載しています
報道関係からのお問い合わせ先
- 国立研究開発法人国立がん研究センター
郵便番号:104-0045 東京都中央区築地5-1-1
がん対策情報センター がん臨床情報部
電話番号:03-3542-2511(内線番号:1606)
Eメール:hsr●ncc.go.jp(●を@に置き換えください) - 国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
ファクス番号:03-3542-2545
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp(●を@に置き換えください)