多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果 自覚的ストレスとがん罹患との関連について
2018年1月20日
国立研究開発法人 国立がん研究センター
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜斉、所在地:東京都中央区)は、日本人でのがん・心筋梗塞・脳卒中など成人病の発症と、食習慣・運動・喫煙・飲酒など生活習慣との関係を調査し、生活習慣の改善により、これら疾病の発症を防ぐことを目的とした「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(多目的コホート研究:JPHC Study)」(主任研究者 津金昌一郎 国立がん研究センター 社会と健康研究センター長)を行っています。多目的コホート研究は、全国11保健所や国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究で実施され、これまでに多数の調査結果を公表しています。
研究概要
今回の研究では、40から69歳の男女約10万人について、1990年(または1993年)から2012年まで追跡調査し、自覚的ストレスの程度およびその変化とがん罹患との関連を調査しました。
その結果、追跡調査中にがんに罹患したのは17,161人で、長期的にみて、自覚的なストレスレベルが高いと、全がんで罹患リスクが高くなり、その関連は男性で強くみられることが分かりました。また、罹患したがんを臓器別にみると、特に、肝がん・前立腺がんで自覚的ストレスが高いとリスクの上昇がみられました。
調査概要
調査対象
1990年に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部に在住か、1993年に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内(呼称は2017年現在)在住者でがんではなかった方
対象者数(男女)
101,708人(男性:48,588人、女性53,120人)
調査項目
生活習慣に関するアンケート調査
自覚的ストレスとがん罹患との関連について
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。
平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所管内(呼称は2017年現在)にお住まいだった方々のうち、がんになっていなかった40から69歳の男女約10万人を、平成24年(2012年)まで追跡した調査結果にもとづいて、自覚的ストレスとがん罹患との関連を調べました。その研究結果を論文発表しましたので紹介します(Scientific Reports. 2017 Oct 11;7(1):12964)。
現在までの研究から、ストレスは様々な病気のリスク要因であることが示唆されていますが、そのメカニズムは解明されていません。また、がんとの関連についても研究が進んでいません。その理由として、主観的な情報であるストレスの程度を測定することが難しいことが挙げられます。また、慢性的なストレスは、一時的なストレスよりも、生理的影響や行動パターンへの影響も大きく、病気のリスク要因となることが示唆されていますが、慢性的なストレスの影響を考慮した研究が少ないことも理由のひとつとして挙げられます。そこで、自覚的ストレス及び自覚的ストレスの変化と、全がん罹患リスクとの関連を検討することを今回の研究の目的としました。
長期間にわたる自覚的ストレスは全がん罹患のリスク上昇と関連
本研究の追跡調査中(平均17.8年)に、男女計17,161人のがん罹患が確認されました。
調査開始時のアンケートの回答から、日常的に自覚するストレスの程度について3つのグループ(低、中、高)に分けて、その後の全がん罹患を比較しました。自覚的ストレスレベルが「低」のグループを基準とし、それ以外のグループのがんリスクを比較したところ、調査開始時の自覚的ストレスレベルと全がん罹患との間に統計学的有意な関連は見られませんでした。
次に、対象者のうち、調査開始時と5年後調査時のアンケート両方の回答者(79,301人)について、自覚的ストレスに関する回答の組み合わせから、その変化を6つのグループ(常に低、常に低・中、常に中、高が低・中に変化、低・中が高に変化、常に高)に分け、がん罹患リスクとの関連を検討した結果、うち12,486人(男性7,607人、女性4,879)のがん罹患が確認され、常に自覚的ストレスレベルが高いグループは、常に自覚的ストレスレベルが低いグループに比べ、全がん罹患リスクが11%上昇していました。
図1.自覚的ストレスレベルと全がん罹患リスク(男女計)
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注:調査開始時の年齢、地域、性別、心理的要因、BMI、喫煙状況、飲酒状況、職業、運動、同居の有無、野菜・果物摂取量、がん家族歴で調整。
発表論文
- 雑誌名
Scientific Reports - タイトル
Perceived stress level and risk of cancer incidence in a Japanese population: the Japan Public Health Center (JPHC)-based Prospective Study - 著者
Song H, Saito E, Sawada N, Abe SK, Hidaka A, Shimazu T, Yamaji T, Goto A, Iwasaki M, Sasazuki S, Ye W, Inoue M, Tsugane S. - DOI
10.1038/s41598-017-13362-8.
研究費
国立がん研究センター研究開発費(29-A-4)
多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究(多目的コホート研究)
多目的コホート研究の結果について
多目的コホート研究は、日本で実施された最も長期的で大規模な観察型の研究の一つです。疫学研究の中ではより信頼性の高い方法で行われ、あるテーマについての結論を導くための科学的根拠の一つとして参考になると考えられます。しかし、まず、観察型の研究の限界として、結果を見えにくくするさまざまな要因(偶然、偏り、交絡)をすっきりと排除することができないという問題があります。
多目的コホート研究の結果が他のコホート研究と結果が一致しないこともありますし、観察期間や対象の取り方によって結果が変わってしまう可能性もあります。また、ある結果が観察されたということは、逆にその結果の実現によって目的が達成できることと同じではありません。その確認には、研究を介入型の試験という次の段階に進める必要があります。
また、あくまで一つの基礎的な医学論文による報告であり、そのまま広く応用できるという段階のものではありません。応用のためには、さらに、いくつかの科学的根拠を総合的に評価した上で作成された指針(ガイドライン)を参考に、性別、年齢、ライフステージなどそれぞれの背景に応じて、健康に良い面と悪い面のバランスを考えた上で、生活に取り入れるというステップが必要です。詳しくは、次のホームページをご覧ください。国立がん研究センターによる「多目的コホート研究」http://epi.ncc.go.jp/jphc/
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