井上真奈美 がん対策研究所部長が国際がん研究機関科学評議会議長に就任 アジア圏及び日本から初めての選出日本と世界のがん対策の推進に貢献
2022年8月1日
国立研究開発法人国立がん研究センター
in English
発表のポイント
- 世界保健機関附属機関の国際がん研究機関の科学評議会議長に、井上真奈美(がん対策研究所予防研究部長)が就任しました。アジア圏および日本から初めての選出となる快挙です。
- アジアでは、がんの罹患者や負担が増大しており、アジア発でのがん対策を日本がリードし、日本と世界のがん対策の推進に貢献します。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区、以下NCC)がん対策研究所 予防研究部長 井上真奈美が、世界保健機関(World Health Organization、以下略称:WHO)の附属機関でがん研究を担う国際がん研究機関(所長:Elisabete Weiderpass、リヨン(フランス)、International Agency for Research on Cancer、以下略称: IARC)の科学評議会(Scientific Council)の議長に就任し、2022年5月から任務を開始しました。
IARCには、現在、日本を含む27カ国が加盟し、50カ国350人の研究者が基礎研究、疫学研究を推進し、世界のがん対策のためのエビデンスの創出やがんの病理分類、発がん物質の判定、がん予防の指針設定などを行っています。こうした成果は、がん対策推進のための根拠として、多くの先進国で活用されています。
科学評議会は、IARCの研究計画や研究成果を外部から評価し、方向付けを行う組織で、加盟国からがん研究の専門家の候補者を募り、投票により委員や議長等が選出されます。井上は、アジア圏からも日本人としても初めて議長に選出されました。
井上真奈美のコメント
世界視点でのがんに対する予防戦略は、これまで主に欧米先進諸国のエビデンスや研究成果に基づいて進められてきました。この度の議長就任を機に、長年日本が積み上げてきた国内の疫学研究やコホート研究の実績や、IARCとの共同研究、アジアとの連携によるアジアコホートコンソーシアムの運営などの経験を活かし、以下の取組を進めていきたいと考えています。
NCCは、2021年9月にがん対策研究所を設置しました。IARCに対して日本から科学的な発信を行うことで、世界の中でも急速にがん負担が増大するアジア地域でのエビデンスに基づき、アジア基準での提言を積極的に行うことにより、アジア発で世界のがん対策をリードする契機につながると考えます。
- 人口においても、がんの罹患・死亡数においても、世界の中で最も比重の大きいアジア地域でのがん研究を推進し、世界のがん対策・がん予防が欧米先進諸国のエビデンスや研究成果に基づいて進められている現状を打破する。
- 日本やアジアのがん研究や成果として既に公表されているエビデンスを、IARCを通じてとりまとめ、世界に発信できるように呼びかける。
- 日本やアジアのがん対策研究に関与する研究者を育成し、国際共同研究をリードできる人材を輩出する。
井上真奈美プロフィール
1990年筑波大学医学専門学群卒業、95年博士(医学)。96年ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程修了(疫学専攻)。愛知県がんセンター研究所、国立がん研究センターがん予防・検診研究センター、東京大学大学院医学系研究科などを経て、2021年9月から国立がん研究センターがん対策研究所 予防研究部部長を務める。専門は疫学・予防医学。2020年に発刊されたWHOのがん白書(Report on Cancer)の編集委員を務め、2021年5月からIARCの科学評議会副議長に選出。アジア地域におけるコホート研究の連携・統合解析の推進にも大きく貢献している。がん、および慢性疾患の疫学研究、大規模コホート研究、国際統合解析プロジェクトなどを手がける。
背景
日本は1972年と早い段階でIARCに加盟し、アメリカと並ぶ分担金を納入することでIARCの活動に主要な貢献をしてきましたが、IARCとの地理的な問題(フランス、リヨンに所在)に加え、IARCとの協働によるグローバルな活動に対する積極的な働きかけ不足により、これまで十分にプレゼンスを示せずにいました。
こうした状況を打破するため、NCCはIARCとの連携を強力に進めてきました。2015年にはNCCがアジア諸国でのがん登録の整備支援のために技術協力を行うための、地域ハブ的役割を果たすGICR/Collaborating CentreにIARCから指定され、2017年には、IARCとNCCで、がん対策やがん研究での国際標準策定に貢献するための共同研究や人事交流を推進することを目的としたMoU(注)を締結しました。具体的な国際的活動としては、GICR計画以外にも、世界のがん負担の計測(CI5)、国際疾病分類腫瘍学第3版(ICD-O-3)や病理分類規約(WHO Bluebook)の更新に関与、がんゲノミクスの‘Mutographs’研究への参加、環境暴露による変異シグネチャーの解析などを積極的に行ってきました。
(注)2017年12月15日 プレスリリース WHOのがん専門研究機関IARCと覚書を締結 がん対策やがん研究での国際標準策定に貢献 https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2017/1205/index.html
国立がん研究センターがん対策研究所(NCCICC, National Cancer Center Institute for Cancer Control)について
近年、社会の人口構成の超高齢化の急速な進展を背景に、がん患者数の増加とともに、がん患者の高齢化による病態の複雑化が進んでおり、がん対策に対する社会のニーズは多様化し、求められる対策も高度化しています。また、がんや医療に関する情報も氾濫するなか、エビデンスに基づく確かな情報提供の重要性も増しています。がん対策研究所は、このような社会のニーズに機動的に対応するため、ゲノム解析等の高度化する科学技術を迅速に取り入れるとともに、疫学、行動科学、実装科学、サバイバーシップ、医療経済評価、情報発信、国際保健など多様な専門性を集結させることにより、研究開発から政策提言、社会実装までを一貫して迅速に実現できる体制を整えた組織です。
NCCICC WebサイトURL:https://www.ncc.go.jp/jp/icc/index.html
国際がん研究機関(IARC, International Agency for Research on Cancer)について
国際がん研究機関は、1965年世界保健機関(WHO)の附属機関としてがんに特化した研究機関として発足し、現在は日本を含む、27カ国が加盟しています。50カ国、350人の研究者が、基礎研究、疫学研究を推進し、世界のがん対策のためのエビデンスを創出し、がんの病理分類、発がん物質の判定、がん予防の指針設定などを行っています。こうした成果はがん対策推進のための根拠として、多くの先進国で活用されています。
科学評議会の役割は、IARCの職員や加盟国代表からなる運営委員会(Governing Council)とは独立して、IARCの研究計画や研究成果を、外部から評価し、方向付けをするものです。
IARC WebサイトURL:https://www.iarc.who.int(外部サイトにリンクします)
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企画戦略局 国際戦略室
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