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小児・AYA 世代を対象とする患者申出療養「PARTNER 試験」が岡山大学病院でも開始小児・AYA 世代がん患者のドラッグアクセスの改善を目指す

2024年12月26日
岡山大学
国立研究開発法人国立がん研究センター

発表のポイント

  • 2024年1月から国立がん研究センター中央病院で開始されていた患者申出療養制度1) を利用した医師主導臨床研究 PARTNER 試験(NCCH2220)の実施施設として、北海道大学病院、九州大学病院に続いて4カ所目となる岡山大学病院が追加されました。
  • 実施施設の拡大、および使用可能な医薬品数の拡大により、新たな医薬品を使用するための体制が整えられ、より多くの小児・AYA 世代のがん患者さんが必要な医薬品にアクセスしやすくなることが期待されています。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:瀬戸泰之)は、適応外薬2) または未承認薬3) の使用を希望する小児・AYA(Adolescents and Young Adults:思春期・若年成人)世代の患者さんを対象に、患者申出療養制度を利用して複数の医薬品を使用可能とする医師主導臨床研究 PARTNER 試験を 2024年1月から開始しています。本試験の実施施設としては2024年9月に北海道大学病院、九州大学病院にも拡大されていましたが、2024年11月に、国内4カ所目の実施施設として岡山大学病院が追加されました。
これまでは、本研究に参加しての治療を希望する患者さんは限られた実施施設を受診する必要があり、本州では東京の国立がん研究センター中央病院のみが実施施設でした。今後は、中四国各県や関西地方からもアクセスの良い岡山大学病院で治療を受けることが可能となります。
本研究では、研究の趣旨に賛同いただいた企業から医薬品を無償提供いただいており、2024年12月現在、5社8医薬品が対象となっています。今後さらに多くの企業の協力が得られるよう活動していきます。なお本研究を適正に運営するために必要な費用は研究費*1 から支払いますので患者さんの負担はありませんが、経過中の検査料や入院料等などは保険診療の範囲で患者さんのご負担となります。

*1 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 「臨床研究・治験推進研究事業」「小児・AYA がん患者の薬剤アクセスの改善と薬事承認に利活用可能なデータ収集を目的とした患者申出療養制度に基づく特定臨床研究」

コメント

岡山大学病院小児血液・腫瘍科 助教 石田 悠志

石田 悠志

小児・AYA世代のがんは患者さんの数が少なく、海外に比べて、また国内でも成人がん分野に比べてこれまで新薬の開発が遅れがちな分野でした。日本ではがんゲノム医療がどんどんと進んでいますので、そういった成果を本試験により患者さんの利益に繋げられるよう、岡山大学病院一丸となり尽力したいと思います。

岡山大学病院長/小児・AYAがん総合センター センター長 前田 嘉信

前田 嘉信

岡山大学病院はがんゲノム中核拠点病院であり、臨床研究中核病院です。豊富な病院全体のリソースを小児・AYAがん分野に適切に活用することで、広く中国・四国地方や西日本地方の患者さんたちに新規医薬品を届けられるような体制を築きたいと考えています。このPARTNER試験がその大きな推進力になることを期待します。

岡山大学病院副病院長/小児科長/小児血液・腫瘍科長/小児・AYAがん総合センター 副センター長 塚原 宏一

塚原 宏一

岡山大学病院小児科では、小児血液・腫瘍科を中心にさまざまな小児系診療科が一丸となって小児がんに立ち向かう体制を築いています。さらに本院は2024年に小児・AYAがん総合センターを設立し、診療科を超えた小児・AYAがん患者さんの支援体制を充実させております。PARTNER試験により希少な小児・AYAがん患者さんへの新薬到達性を改善することは、「小児医療の最後の砦」としての岡山大学小児科のビジョンとよく合致します。これからも診療科一丸となり、全力で小児・AYAがんに立ち向かいます。

国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科 医長 荒川 歩

荒川 歩

小児がんにおいては、がん遺伝子パネル検査4)等で治療薬の候補が見つかっても保険診療下で使用できる薬が少ない、参加可能な治験・臨床試験が少ない等、ドラッグアクセスの改善が課題となっていました。この一助として開始したPARTNER試験において、4つ目の施設として岡山大学病院が新しく試験施設として追加されました。小児・AYA世代の患者さんが必要な薬を全国どこにいてもなるべく、ご自宅の近くの施設で使えるようにするために、今後も対象医薬品、実施施設等を増やしていきたいと思います。

岡山大学病院小児科 助教 鷲尾 佳奈

鷲尾 佳奈

岡山大学病院の小児がんグループのチーフとして診療する中で、どうしても新薬を必要として、遠方にご紹介せざるを得ないような患者さんたちに何人も出会ってきました。こういった患者さんたちに、必要な薬を必要なタイミングで、岡山においてお届けできるようグループ一丸となって取り組みます。

背景

小児がんに対して国内で承認されている医薬品は、欧米に比べて少なく、小児や AYA 世代のがん患者さんが参加可能な治験や臨床試験も欧米に比べて多くありません。そのため、小児がん患者さんの多くは、使用したい医薬品があっても、国内小児に承認されていない、または参加可能な臨床試験がないといった理由で、希望する治療を受けることができませんでした*2。そのような背景から、国立がん研究センター中央病院では、希望する医薬品を投与できなかった患者さんやご家族の申し出を受けて、難治性小児・AYA 世代がん患者さんを対象とし、適応外薬あるいは未承認薬を投与する医師主導臨床研究である PARTNER 試験を2024年1月より開始しました。
一方、小児がんの臨床試験の多くは実施施設が限られています。特に本研究を含めて小児の固形腫瘍を対象とする臨床試験の多くが1施設のみの実施であるため、遠方の患者さんにとっては毎回来院することが負担となり、患者さんにとって大きな障壁でした。多くの場所で必要な治療を受けられるようにしてほしい、という患者さんの要望に応えられるよう、この研究は開始時より複数施設に拡大することを予定していました。

*2 出典:第 2 回 創薬力の強化・安定供給の確保等のための薬事規制のあり方に関する検討会 資料【資料3】(補足資料)小児用医薬品の開発促進に資する薬事審査等のあり方について(令和5年8 月7日参照)  https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001131778.pdf(外部サイトにリンクします)

PARTNER 試験について

本研究は、難治性小児・AYA 世代がん患者さんを対象に、患者申出療養制度を利用して適応外薬あるいは未承認薬を投与する臨床研究です。本研究で使用する医薬品は、すでに国内または海外で小児を対象とした臨床試験が行われており、小児における一定の安全性情報がある医薬品を対象としています。国内で小児に対する用法・用量等が定められていない医薬品については、海外で承認されている小児に対する用法・用量等や小児に対する治験等をもとに、本研究に参加する小児がん患者さんにおける用法・用量等を決めています。
本研究の詳細は次の通りです。

試験名

小児・AYA がんに対する遺伝子パネル検査結果等に基づく複数の分子標的治療に関する患者申出療養(Protocol No. NCCH2220;PARTNER 試験)

対象となる患者さん (記載した以外にも対象患者さんとなるための規準があります)

・標準治療がない、または標準治療に抵抗性である0-29歳*3の小児・AYA 世代がん患者。
・以下のいずれかを満たすこと
1.保険適用または先進医療などで実施されたがん遺伝子パネル検査を受けて、何らかの適応外薬の推奨が、専門家会議(エキスパートパネル)及び担当医からなされていること。
2.国内成人または海外小児において薬事承認された医薬品の適応がん種と診断されていること
・適格規準を満たさないなどの理由により、治験や先進医療に参加できないこと
・日常生活に大きな支障がなく、重症の合併症を有さないこと
・血液検査や尿検査等の規準を満たすこと 等
*3 対象年齢は医薬品によって変わることがあります。

研究の実施期間

2024 年 1 月より4 年間(予定)

予定人数

1 医薬品あたり最大 30 人

実施施設

国立がん研究センター中央病院(2024年1月から)
北海道大学病院、九州大学病院(2024年9月から)
岡山大学病院(2024年11月から)
今後、さらに実施施設が増えていく見込みです。

対象医薬品

ノバルティス ファーマ株式会社

・ グリベック®錠 100 mg (一般名:イマチニブメシル酸塩)
・ ヴォトリエント®錠 200mg (一般名:パゾパニブ塩酸塩)
・ ジャカビ®錠 5mg, 10mg (一般名:ルキソリチニブリン酸塩)
・ メキニスト®錠 0.5mg, 2mg (一般名:トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物)
・ メキニスト®小児用ドライシロップ 4.7mg(一般名:トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物)

中外製薬株式会社

・ テセントリク®点滴静注 840mg, 1200mg(一般名:アテゾリズマブ(遺伝子組換え))

武田薬品工業株式会社

・ カボメティクス®錠 20mg(一般名:カボザンチニブリンゴ酸塩)

第一三共株式会社

エザルミア®錠 50mg, 100mg(一般名:バレメトスタットトシル酸塩)

ファイザー株式会社

ザーコリ®カプセル 200mg, 250mg (一般名:クリゾチニブ)

今後の展望

本研究は、小児・AYA 世代のがんの患者さんから使用したいという申し出があると想定される適応外薬、あるいは未承認薬などの医薬品を準備し、使える体制を整えておくことで、必要とする医薬品を迅速に患者さんに届け、医師の管理のもとで使用できることを目指しています。さらに、研究の中で収集する各医薬品の国内小児(AYA 世代を含む)における治療効果や副作用のデータが今後の患者さんのために役立ち、さらには将来的に保険適用を検討する際の参考となることを期待しています。
今回、9月に引き続きさらに対象施設が増えたことにより、より多くの患者さんが本研究に参加しやすくなりドラッグアクセスの改善に寄与することを期待しています。また、対象医薬品の拡大により、国内小児・AYA 世代のがんに対する薬事承認の際に参考となるデータの収集をより増やしたいと考えています。今後も、施設や医薬品の追加を行っていく予定です。

用語解説

1) 患者申出療養制度

困難な病気と闘う患者の思いに応え、先進的な治療を受けたいという患者さんの申し出を起点とし、身近な医療機関で迅速に受けられるようにする制度です。患者さんの申し出をもとに臨床研究中核病院が臨床研究を立案し、国の患者申出療養評価会議の承認を受けたうえで、患者さんの希望する療養を安全性・有効性等を確認しながら臨床研究として実施します。国内の未承認・適応外のさまざまな治療法が対象になりますが、保険収載を前提とするものに限ります。したがって未承認薬等の費用に加え、保険収載を目指すためのデータ作成に対し、研究支援者の人件費や研究の品質管理、統計解析の費用などがかかり、それらを研究費から負担します。
●厚生労働省「患者申出療養」制度とは?  https://www.mhlw.go.jp/moushideryouyou/(外部サイトにリンクします)

2) 適応外薬

医薬品はその薬を使用する病気に対する効能・効果や用法・用量等が細かく定められた上で承認され、公的保険での投与が可能となっています。承認されている効能・効果や用法・用量以外で使用される医薬品を「適応外薬」といいます。適応外薬の使用は原則保険外診療として実施する必要があります。

3) 未承認薬

日本で薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)で承認されていない医薬品のことをいいます。未承認薬を使う場合、基本的には臨床試験のもとで使うことが必要となります。

4) がん遺伝子パネル検査

がんにかかわる遺伝子の変化(遺伝子異常)を1度に多数調べる検査で、見つかった遺伝子異常に合う治療薬を選び、その後の治療に役立てることを目的としています。がんゲノムプロファイリング検査とも呼びます。単一遺伝子の異常を調べる検査を複数回行うよりも検査時間が短く、患者さんが生検を何度も受けるという負担も軽減できます。がん遺伝子パネル検査を受けても遺伝子異常や対応する医薬品が見つからない場合もあります。

国立がん研究センター「がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査」 
がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

岡山大学病院 小児血液・腫瘍科 助教 石田 悠志

電話番号:086-235-7249
FAX:086-221-4745
Eメール:hiishida1218●okayama-u.ac.jp

広報窓口

岡山大学総務・企画部 広報課

電話番号:086-251-8415
Eメール:www-adm●adm.okayama-u.ac.jp

国立がん研究センター企画戦略局 広報企画室

電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

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