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小児・AYA世代の骨肉腫患者さんに対する適正な標準治療を証明術前化学療法の効果が乏しい方にも4剤併用療法(MAPIF)ではなく、3剤併用療法(MAP)を推奨 ~JCOGによる研究成果~

2025年4月7日

国立研究開発法人国立がん研究センター
独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター
国立大学法人岡山大学病院
日本臨床腫瘍研究グループ

発表のポイント

  • 転移がない小児・AYA世代の高悪性度骨肉腫患者さんの手術前後の化学療法として、3つの抗がん剤を合わせたMAP療法が標準治療となっていますが、術前MAP療法の効果が乏しい患者さんに対しては、抗がん剤イホスファミド(IF)を追加した4剤でのMAPIF療法が術後の化学療法として広く行われています。
  • しかし、このMAPIF療法でのIFの上乗せ効果は必ずしも明らかではなく、またIFを追加することによる治療期間の延長や新たな副作用の発症も懸念されていました。
  • そこで、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)は、術前のMAP療法の効果が乏しい患者さんに対する術後のMAP療法とMAPIF療法の生存期間と副作用を比較するランダム化比較試験を行いました。
  • 本試験の結果、術後のMAP療法へのIFの上乗せ効果は認められず、かえって副作用が強くなることが示唆されました。このため、転移のない高悪性度骨肉腫の患者さんに対する術後化学療法は、術前MAP療法の効果が乏しくても、MAP療法の継続が推奨されることを示しました。
  • 本試験の成果は、小児・AYA世代の骨肉腫患者さんにおける標準治療を示したことが世界的に評価され、医学雑誌「Journal of Clinical Oncology」に掲載されました。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院(所在地:東京都中央区、病院長:瀬戸泰之)が、中央支援機構(データセンター/運営事務局)を担い支援する日本臨床腫瘍研究グループ(Japan Clinical Oncology Group:JCOG(ジェイコグ))では、科学的証拠に基づいて患者さんに第一選択として推奨すべき最善の治療である標準治療や診断方法等を確立するため、専門別研究グループで全国規模の多施設共同臨床試験を実施しています。

この度、JCOG骨軟部腫瘍グループは、全国34施設の協力により、転移のない小児・AYA1世代に発生した高悪性度骨肉腫2の患者さんを対象として、術前化学療法の効果が乏しいと判断された際に、術後化学療法の変更が適正かどうかを検証するランダム化比較試験(JCOG0905)を行いました。

転移のない小児・AYA世代に発生した高悪性度骨肉腫の患者さんに対しては、腫瘍の切除術に加え手術前後にメトトレキサート(M)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)(A)、シスプラチン(P)の3剤を併用する抗がん剤治療(MAP療法)が標準治療の一つとして確立しています。しかし、顕微鏡で切除した腫瘍の観察を行い効果が乏しいと判断された場合は、手術後にイホスファミド(IF)を追加した4剤でのMAPIF療法が広く行われています。しかし、このMAPIF療法の上乗せ効果は必ずしも明らかではなく、IFを追加することにより治療期間が延び、新たな副作用の発症も懸念されるため、MAPIF療法の上乗せ効果を検証するランダム化比較試験を行いました。

本試験の結果、MAP療法に対するMAPIF療法の上乗せ効果は認められず、IFを追加することでかえって副作用が強くなることが示唆されました。このため、転移のない小児・AYA世代に発生した高悪性度骨肉腫の患者さんに対する抗がん剤治療は、術前化学療法としてMAP療法の効果が乏しい場合でも術後にMAP療法の継続が推奨されることが示されました。

本試験の成果は、小児・AYA世代の骨肉腫患者さんにおける標準治療を示したことが世界的に評価され、医学雑誌「Journal of Clinical Oncology」に2025年3月26日付(日本時間3月27日)に掲載されました。

JCOGでは、がん患者さんにとっての最善の医療を確立するための臨床試験を今後も行ってまいります。

背景

骨肉腫は小児・AYA世代に好発する希少がんです。国内では年間約200人に発生し、多くが転移しやすい高悪性度であるため、手術に加えて化学療法が必要です。1980年代からMAP療法が用いられ、5年生存割合が70%台まで改善しましたが、その後は頭打ちとなっているため治療成績の向上が求められています。そのため一つのアプローチとして、術前化学療法で効果が乏しかった患者さんに対して、術後の化学療法を変更する方法が試みられてきました。具体的には、標準治療であるMAP療法に加えてIFやIFとエトポシドの併用療法(IE)を追加するというものです。しかし、海外で2005年から2011年に行われた臨床試験EURAMOS-1ではIEの上乗せ効果は認められませんでした。一方、1993年から2001年に行われた国内での臨床試験NECO93JとNECO95JではIFの大量投与が有効である可能性が示唆されていたため、JCOGではその効果を検証するために2010年からランダム化比較試験(JCOG0905)を開始しました。

研究方法

50歳までの頭頸部および脊椎を除く骨から発生した転移のない高悪性度骨肉腫の患者さんにMAP療法を行った後に腫瘍を切除し、顕微鏡の観察でMAP療法の効果が乏しいと判定された方を対象に、術後化学療法として、MAP療法の継続に対し、MAPIF療法が優れているかどうかを検証するランダム化比較試験(JCOG0905)を行いました。MAP療法継続をA群、MAPIF療法をB群とし、患者さんはランダム(無作為)に振り分けられ、いずれかの治療を受けていただきました(図1)。MAPIF療法として、累積総投与量90 g/m2(3 g/m2 x 5日間を6コース)のIFが投与され、ドキソルビシンとメトトレキサートは累積総投与量として各々57%と80%に減量されました。主たる評価項目は「無病生存期間(ランダムに振り分けられてから疾患の悪化や二次発がんが生じずに患者さんが生存している期間)」、副次的評価項目は「全生存期間(ランダムに振り分けられてから患者さんが生存している期間)」、「有害事象発生割合」としました。

図1 試験の概要
図1

本試験の詳細

試験名

骨肉腫術後補助化学療法における Ifosfamide 併用の効果に関するランダム化比較試験(JCOG0905)

患者さんの登録時期

2010年2月から2020年8月

登録人数

287名

年齢中央値

15歳(4歳~50歳)

研究の実施体制

JCOG中央支援機関(データセンター/運営事務局):福田 治彦、片山 宏(国立がん研究センター)

JCOG骨軟部腫瘍グループ代表:尾崎 敏文(国立大学法人岡山大学病院)

JCOG0905研究代表者/研究事務局:平賀 博明(独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター)

研究結果

2010年2月から2020年8月までに287名が登録され、術前のMAP療法、腫瘍切除術を完了した方が177名でした。このうち、切除した腫瘍を顕微鏡で観察した結果、効果が乏しいと判断された方が103名であり、51名がMAP療法を継続するA群、52名がMAPIF療法を行うB群に割り付けられました(図1)。

本試験では、B群の無病生存期間がA群のそれを統計学的に上回った場合に有効と判断すると想定していましたが、結果はA群に対するB群のハザード比3が無病生存期間で1.05(95%信頼区間0.55-1.98)であり、B群の優越性を示すことは出来ませんでした(図2)。また、全生存期間ではA群に対するB群のハザード比が1.48(95%信頼区間0.68-3.22)であり、B群の生存期間が短い傾向でした(図3)。

一方、B群の治療期間はA群よりも長く設定されている上、B群では副作用により9名が途中で治療を中止したのに対し、A群では副作用による中止が1人もいなかったなど、B群に副作用が多く見られました。

このため、転移のない小児・AYA世代に発生した高悪性度骨肉腫の患者さんに対する抗がん剤治療は、術前化学療法のMAP療法の効果が乏しい場合でもMAP療法の継続が推奨されることが示されました。

図2 無病生存期間

図2

 

図3 全生存期間
図3

展望

本研究とEURAMOS-1の結果より、従来の抗がん剤治療の工夫では、高悪性度骨肉腫の治療成績を向上させることは困難と考えられます。また、他のがん種で試みられている循環腫瘍DNAの検出を用いた微小残存病変の有無による治療変更や、作用機序の異なる新規薬剤の開発が不可欠です。少子化が進行している国内では、より効率的な治療開発が必要と考えます。

論文情報

雑誌名

Journal of Clinical Oncology

タイトル

Methotrexate, Doxorubicin, and Cisplatin Versus Methotrexate, Doxorubicin, and Cisplatin + Ifosfamide in Poor Responders to Preoperative Chemotherapy for Newly Diagnosed High-Grade Osteosarcoma (JCOG0905): A Multicenter, Open-Label, Randomized Trial

著者

Hiroaki Hiraga, Ryunosuke Machida, Akira Kawai, Toshiyuki Kunisada, Tsukasa Yonemoto, Makoto Endo, Yoshihiro Nishida, Akihito Nagano, Keisuke Ae, Shinichirou Yoshida, Kunihiro Asanuma, Junya Toguchida, Taisuke Furuta, Robert Nakayama, Toshihiro Akisue, Toru Hiruma, Takeshi Morii, Hideki Nishimura, Koji Hiraoka, Masanobu Takeyama, Makoto Emori, Satoshi Tsukushi, Hiroshi Hatano, Hiroyuki Kawashima, Kazuo Isu, Kazuhiro Tanaka, Tomoko Kataoka, Haruhiko Fukuda, Yukihide Iwamoto, Toshifumi Ozaki

掲載日

2025年3月26日付(日本時間3月27日)

DOI

10.1200/JCO-24-01281

URL

https://ascopubs.org/doi/10.1200/JCO-24-01281(外部サイトにリンクします)

研究費

研究費名(支援先):厚生労働科学研究費補助金
研究事業名:疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究課題名:高悪性度骨軟部腫瘍に対する標準治療確立のための研究
研究代表者名:岩本 幸英

研究費名(支援先):日本医療研究開発機構委託研究開発費
研究事業名:革新的がん医療実用化研究事業
研究課題名:高悪性度骨軟部腫瘍に対する標準治療確立のための研究
研究代表者名:尾崎 敏文

研究費名(支援先):国立がん研究センター研究開発費
研究事業名:革新的がん医療実用化研究事業
研究課題名:成人固形がんに対する標準治療確立のための基盤研究
研究代表者名:大江 裕一郎

用語解説

注1:AYA

adolescence and young adultの略語で、15才から30才代までの世代を指します。高悪性度骨肉腫は小児からAYA世代に好発するがんであり、本試験に登録した患者さんの年齢中央値は15歳でした。
同じ戦略で治療が可能と考えられる50歳までを本試験の対象としましたが、登録患者さんのほとんどの方が40歳以下でした。

注2:高悪性度骨肉腫

がんにおける「悪性度」は、がんの「悪さの度合い」であり、「高悪性度」は、がんが速く広がり、他の部位に転移しやすいことを指しています。高悪性度骨肉腫の場合、最初にできた腫瘍を切除しても早期に肺に転移しやすいことが分かっており、手術後、あるいは手術前後に抗がん剤治療をすることにより、生存期間がのび、治癒につながることが確認されています。

注3:ハザード比

死亡あるいは増悪のリスクが何倍かを示す数値。

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

国立病院機構北海道がんセンター
骨軟部腫瘍科 平賀 博明
電話番号:011-811-9111(代表)
Eメール:hhiraga●nho-hcc.jp

日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)に関するお問い合わせ

国立がん研究センター中央病院
臨床研究支援部門 研究企画推進部 多施設研究支援室
Eメール:webmaster●ml.jcog.jp

広報窓口

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
電話番号:03-3542-2511(代表)
Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp

国立大学法人岡山大学 
総務部広報課
電話番号:086-251-7292
Eメール:www-adm●adm.okayama-u.ac.jp

独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター
管理課
電話番号:011-811-9111(代表)
Eメール:100-mb10kar1●mail.hosp.go.jp

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