大腸内視鏡検査の新規観察法の有効性を前向き多施設共同ランダム化比較試験で検証「見逃しがん」のリスクとなる平坦型病変の発見率改善に期待
発表のポイント
- 新しい画像強調内視鏡技術であるTXI観察法と従来の通常光観察法の病変発見能を前向き多施設共同ランダム化比較試験で検証しました。
- 2つの観察法を評価したところ、病変発見率に差は認めませんでしたが、両観察法ともに高い病変発見能を示しました。
- TXI観察法は通常光観察法と比較し、ポリープ発見率や、特に「見逃しがん」のリスクと考えられている平坦型病変の発見率が高いことが示されました。
本結果は消化器分野の国際的学術誌である「Gastroenterology」に掲載されました。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(所在地:東京都中央区、理事長:間野 博行)中央病院(病院長:瀬戸 泰之)と国内8施設で構成される研究チームは、新しい画像強調内視鏡技術であるTXI(Texture and Color Enhancement Imaging)観察法の大腸腫瘍性病変の発見技術の有効性を検証するため前向き多施設共同ランダム化比較試験を行いました。本研究では、スクリーニング、便潜血陽性、大腸ポリープ切除後、消化管症状の精査などを目的に大腸内視鏡検査を行う956人の患者さんを対象に、TXI観察法と通常光観察法をランダムに割り付けて腫瘍性病変の発見数の比較検証を行いました。
検証の結果、TXI観察法は通常光観察法と比較し、早期大腸がんである腫瘍性病変の平均発見数に有効性は示されず、差がなかったことが確認されました。一方で、TXI観察法は通常光観察法と比較するとポリープや、ポリープの一種である平坦型病変の発見率が高いことが示されました(図)。ポリープは、大腸腺腫という良性腫瘍(前がん病変)であり、大腸内視鏡検査で発見し切除することにより大腸がんでの死亡率を減らすことが報告されています。平坦型病変もポリープの一種で、見つけにくいことから「見逃しがん」の一つと考えられています。本試験結果により、従来法よりも高い確率でポリープや平坦型病変を発見できることが示されたTXI観察法を用いて大腸内視鏡検査を行うことで、「見逃しがん」のリスクを減らし、早期発見による大腸がん死亡率の減少が期待されます。
本結果は消化器分野の国際的学術誌である「Gastroenterology」に米国東部時間2025年7月22日午前6時(日本時間2025年7月22日午後7時)で掲載されました。
図 30mm大の陥凹型早期大腸がんを認める(左は通常光観察画像、右はTXI観察画像)
背景
大腸がんは、日本を含めた多くの国において、がんによる死亡の主要な原因となっており、その予防や早期発見は非常に重要な課題です。2023年に国内においてがんで死亡した人は382,504人(男性221,360人、女性161,144人)で、大腸がんは死亡総数の14%を占めています(†1)。大腸を調べる検査のうち、大腸内視鏡検査は、大腸がんを早期発見できることに加え、大腸がんの前段階である前がん病変(ポリープ)を発見し取り除くことで、大腸がんを発症するリスクや大腸がんにより亡くなるリスクを低減できることが知られています。(†2)。また、そのためには病変発見率の高い内視鏡を受けることが重要で、特に、右側結腸の平坦型病変は「見逃しがん」のリスク因子であることも報告されています(†3)。病変発見率を上げるために下剤による前処置や、病変発見支援のAI機器を用いるなど、さまざまな方法が用いられていますが、大腸内視鏡検査の病変発見技術をさらに向上させることは重要な課題となっています。
TXI観察法は、病変発見技術の向上を目的として、通常光の情報に基づき、内視鏡画像の「明るさ補正」、「テクスチャー強調」、「色調強調」の3つの要素を最適化する新しい観察法です。腸管の奥行まで明るくし、画像上のわずかな構造の変化や色調の変化を視認しやすくなります。この技術により画像上のわずかな変化に対する視認性を向上させることで、スクリーニング検査時における病変の観察性能の向上が期待できます。
そこで本研究では、大腸内視鏡検査でのTXI観察法の有効性を検証するため、従来法である通常光観察法と比較する前向き多施設共同ランダム化比較試験を行いました。
試験概要
試験名
TXI観察の有効性を検証するための前向き多施設共同ランダム化比較試験
登録期間
2023年5月から2023年10月
登録症例
参加施設においてスクリーニング、便潜血陽性、大腸ポリープ切除後、消化管症状の精査などを目的に大腸内視鏡検査を受けた症例
登録数
下記6項目を用いて2群(TXI観察法、通常光観察法)に層別ランダム化し956人が登録されました
- 年齢(65歳未満および65歳以上)
- 性別
- 家族の大腸がんの罹患歴
- 大腸内視鏡検査目的
- 内視鏡検査を行った医師が日本消化器内視鏡学会専門医資格を有しているか
- 実施施設
主目的
大腸腫瘍性病変の発見におけるTXI観察法の有効性を通常光観察法と腫瘍性病変発見数を用いて比較して検証する
副次的目的
大腸腺腫発見率、ポリープ発見率、平坦型病変発見率、Sessile serrated lesion(SSL)発見率
観察研究方法
同意いただいた患者さんに対してTXI観察法か通常光観察法かランダムで割り付けられた方法で大腸内視鏡検査を実施しました。内視鏡検査時に発見したポリープに対して治療を行い、切除した検体を用いて病理診断した結果を集計し、データ分析を行いました。
参加施設(症例登録数順)
国立がん研究センター中央病院(東京都)、筑波大学付属病院(茨城県)、国立がん研究センター東病院(千葉県)、静岡県立静岡がんセンター(静岡県)、昭和大学横浜市北部病院(神奈川県)、東京慈恵会医科大学付属病院(東京都)、群馬大学医学部付属病院(群馬県)、東邦大学医療センター大森病院(東京都)
使用機器
オリンパスメディカルシステムズ株式会社 新型大腸内視鏡システム(送気送水機能付内視鏡用光源・プロセッサ装置:EVIS X1とビデオ軟性大腸鏡:CF-EZ1500DL/I)
研究結果
本試験の結果、主解析のTXI観察法と通常光観察法で腫瘍性病変の発見数に統計学的な有意差は認めませんでした。しかしながら、副次的解析のポリープの発見率や平坦型病変の発見率はTXI観察法のほうが優れている結果を示しました。右側結腸に好発する鋸歯状病変であるSessile serrated lesion(SSL)は、大腸がんの一因とされ、大腸腺腫と同様に内視鏡切除が必要です。今回の結果ではSSLの発見率が通常光観察法よりもTXI観察法のほうが高い結果となりました(表)。
腫瘍性病変の発見数に統計学的な有意差は認めなかった理由として、今回の試験を実施した8施設全てが最新の内視鏡システムを使用したことが考えられました。最新の内視鏡システムであるEVIS X1システムにはTXI含め複数の画像強調内視鏡技術が搭載されていますが、そのほかにも最新の内視鏡CF-EZ1500DL/I を用いることで高画質化、観察深度の拡大が可能になりました。また、専用モニターを用いることで4K高画質化が可能になり、従来の通常光観察法でも、より鮮明な内視鏡画像を観察することが可能になり、従来の通常光観察法であっても高い腫瘍性病変発見率が示された可能性があります。
TXI観察法 |
通常光観察法 |
p値 0.05以下は有意差あり |
|
対象症例数 |
451 |
445 |
|
平均腫瘍性病変発見数 |
1.4 |
1.5 |
0.409 |
腫瘍性病変発見率 |
57.21 |
55.96 |
0.705 |
ポリープ発見率 |
82.48 |
74.38 |
0.003 |
平坦型病変発見率 |
76.50 |
70.34 |
0.036 |
SSL発見率 |
15.08 |
11.69 |
0.136 |
展望
本試験において新規技術のTXI観察法により内視鏡画像の画質が向上することで、ポリープ発見率や「見逃しがん」のリスクとなる平坦型病変の発見率が向上することが確認されました。大腸内視鏡検査においてポリープや病変の見逃しは、その後の大腸がん発生にも影響を与えます(†4,5)。大腸内視鏡検査の画像技術の向上などにより、より多くの腫瘍性病変が大腸内視鏡検査で発見されることで、大腸がんの死亡率が減少することが期待されます。内視鏡検査・治療技術の向上には日本が大きく貢献しており(†6)、国立がん研究センターでは今後も全国の内視鏡専門医と協力し研究を進めてまいります。
大腸がんは、早期であれば内視鏡による発見と切除で根治が望めます。早期発見のためには検診が重要で、日本においては40歳以上での便潜血検査による毎年の大腸がん検診が行われ、異常を認めた場合は内視鏡での精密検査が推奨されています。そのため、精密検査の必要がある場合は、必ず大腸内視鏡検査を受けましょう。
国立がん研究センターは大腸内視鏡技術のより一層の向上に取り組み、日本の大腸がんの早期発見・早期治療、死亡率低下に貢献してまいります。
論文情報
雑誌名
Gastroenterology
タイトル
The efficacy of texture and color enhancement imaging (TXI) observation in the detection of colorectal lesions: a multicenter, randomized controlled trial (deTXIon study)
著者
Naoya Toyoshima, Yasuhiko Mizuguchi, Yutaka Saito, et al
DOI
10.1053/j.gastro.2025.03.007
掲載日
2025年7月22日
URL
https://doi.org/10.1053/j.gastro.2025.03.007(外部サイトにリンクします)
参考文献
†1 国立がん研究センターがん対策研究所「大腸がんファクトシート」
https://www.ncc.go.jp/jp/icc/crcfactsheet/index.html(2025年4月28日参照)
国立がん研究センターがん情報サービス. 「がん統計(厚生労働省人口動態統計)」.
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#anchor1(2024年4月4日参照)
†2 Ann G Zauber , Sidney J Winawer, Michael J O'Brien, et al. Colonoscopic polypectomy and long-term prevention of colorectal-cancer deaths. N Engl J Med.2012 Feb 23;366(8):687-96
†3 Matsuda T, Fujii T, Yoshida S, et al. Randomised comparison of postpolypectomy surveillance intervals following a two-round baseline colonoscopy: the Japan Polyp Study Workgroup. Gut. 2020 Nov 2;70(8):1469-1478.
†4 Sano Y, Hotta K, Yoshida S, et al. Endoscopic Removal of Premalignant Lesions Reduces Long-Term Colorectal Cancer Risk: Results From the Japan Polyp Study. Clin Gastroenterol Hepatol. 2024 Mar;22(3):542-551.e3.
†5 Douglas A Corley , Christopher D Jensen, Amy R Marks, et al. Adenoma detection rate and risk of colorectal cancer and death. N Engl J Med.2014 Apr 3;370(14):1298-306
†6 首相官邸 健康・医療戦略推進本部 第1回 再生・細胞医療・遺伝子治療 開発協議会(2020年9月2日)>日本の研究動向と他国との 比較分析について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/saisei_saibou_idensi/dai1/siryou3.pdf(2025年4月28日参照)(外部サイトにリンクします)
お問い合わせ先
研究に関するお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院
内視鏡科 消化管内視鏡 豊嶋 直也
電話番号:03-3542-2511(代表) Eメール:natoyosh●ncc.go.jp
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電話番号:03-3542-2511(代表) Eメール:ncc-admin●ncc.go.jp