転移性尿路上皮がんにおけるエンホルツマブ ベドチンの治療効果:大規模メタ解析結果
2025年4月3日
国立研究開発法人国立がん研究センター
発表のポイント
- 膀胱がんなどの転移した尿路のがん(転移性尿路上皮がん)に対する新薬「エンホルツマブ ベドチン」の治療効果を大規模に分析しました。
- 従来の抗がん剤と比べて、新薬と免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせることで治療効果が大幅に向上し、約7割の患者さんでがんが縮小し、約8割の患者さんが1年後も生存していることが分かりました。
- この治療法は従来の抗がん剤とは異なる副作用があるため、患者さん一人ひとりに合わせた副作用対策が重要です。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(所在地:東京都中央区、理事長:間野 博行)東病院(千葉県柏市、病院長:土井 俊彦)泌尿器・後腹膜腫瘍科の矢嶋 習吾医員、廣瀬 航平医員、増田 均科長らの研究グループは、転移性尿路上皮がん注1に対する新しい治療薬「エンホルツマブ ベドチン注2」(以下「新薬」)の効果と安全性を検証する大規模メタ解析注3を行いました。
本研究では、世界中の2,128人の患者さんを含む11の臨床試験の結果を分析しました。この研究では「メタ解析」と「ネットワークメタ解析注4」という手法を用いました。メタ解析とは、複数の研究結果を統合して、より信頼性の高い結論を導き出す方法です。さらに、ネットワークメタ解析は、異なる治療法を直接比較した研究がない場合でも、共通の比較対象(この場合は化学療法など)を介して間接的に比較できる発展的な統計手法です。この方法により、新薬単独と新薬・免疫チェックポイント阻害薬の併用、そして従来の化学療法の三者間の効果を比較することが可能になりました。新薬と免疫チェックポイント阻害薬「ペムブロリズマブ注5」の組み合わせは、従来の抗がん剤と比べて効果が高く、約7割の患者さんでがんが縮小し、約8割の患者さんが1年後も生存していました。また、新薬だけの治療でも、他の治療が効かなくなった患者さんの約4割でがんが縮小し、約半数の患者さんが1年後も生存するという結果でした。副作用については、従来の抗がん剤でよく見られる貧血や白血球減少が少ない一方、皮膚の発疹やしびれなどが多く見られました。この結果から、患者さんの状態に合わせた治療選択と副作用対策が重要だと分かりました。今回の研究結果は、これまで治療が難しかった転移性尿路上皮がんの患者さんに新たな治療法を提示するものです。
本研究成果は、科学雑誌「JAMA Network Open」(2025年3月11日付)に掲載されました。
背景
膀胱がんなどの尿路のがんが転移すると、転移性尿路上皮がんと呼ばれます(図1)。転移性尿路上皮がんは、治療が難しく、従来はプラチナ製剤という抗がん剤が主な治療でしたが、効果には限界がありました。近年、免疫チェックポイント阻害薬も使われるようになりましたが、効果が出る患者さんは全体の約2割にとどまり、より良い治療法が求められていました。
新薬の「エンホルツマブ ベドチン」は、がん細胞の表面にあるネクチン-4という目印を狙い撃ちする薬で、がん細胞に薬を直接届けて攻撃する新しい仕組みをもっています(図2)。初期の試験では効果が期待できる結果が出ていましたが、多くの研究をまとめた大規模な分析はこれまで行われていませんでした。
研究成果
今回の研究では、世界中の医学データベースを使って2024年8月までに発表された研究を調査しました。新薬を単独または免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせて使った臨床試験の中から、厳選した11の研究(患者数2,128人)を詳しく分析しました。これら11の研究の内訳としては、3つが患者さんを無作為に振り分けて比較する試験(ランダム化比較試験)、8つが計画的に治療効果を観察する研究(前向き研究)でした。全体で、563人の患者さんがエンホルツマブ ベドチンとペムブロリズマブの併用療法を、814人がエンホルツマブ ベドチン単独療法を、751人が従来の化学療法を受けていました。
研究の結果、新薬と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせでは、約7割(68%)の患者さんでがんが縮小し、約9割(86%)の患者さんでがんの進行を抑えることができました。また、1年後の生存率は約8割(79%)という結果でした。新薬だけの治療でも、約4割(43%)の患者さんでがんが縮小し、約7割(73%)の患者さんでがんの進行を抑えることができました。1年後の生存率は約5割(52%)でした。
従来の抗がん剤と比較すると、新薬と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせは、効果が3.5倍、1年生存率が2.3倍高いという結果が出ました(図3、4)。この比較は「ネットワークメタ解析」という特殊な統計手法を用いて行いました。この方法では、直接比較されていない治療法同士でも比較が可能になります。具体的には、3つの重要な臨床試験のデータを用いて、エンホルツマブ ベドチン単独療法、エンホルツマブ ベドチンとペムブロリズマブの併用療法、そして従来の化学療法の治療効果を比較しました。
副作用については、新薬を使った治療では従来の抗がん剤に比べて、貧血や白血球減少が少ない一方、皮膚の発疹やしびれなどが多いという特徴がありました。このように副作用の特徴が異なるため、患者さんに合わせた対策が必要です。
展望
今回の研究によって、転移性尿路上皮がんの治療に新薬「エンホルツマブ ベドチン」が大きな役割を果たす可能性が示されました。特に免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせは、従来の治療法よりも高い効果が期待できます。
今後は、どのような患者さんに最も効果があるのかを見極めたり、副作用の対策を改善したり、さらに他の薬との新しい組み合わせを開発したりする研究が期待されます。また、この治療法の長期的な効果と安全性を評価するためには、より長い期間での観察が必要です。
論文情報
雑誌名
JAMA Network Open
タイトル
Enfortumab Vedotin With or Without Pembrolizumab in Metastatic Urothelial Carcinoma: A Systematic Review and Meta-Analysis
著者
Shugo Yajima, Kohei Hirose, Hitoshi Masuda
DOI
10.1001/jamanetworkopen.2025.0250
掲載日
2025年3月11日
URL
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/10.1001/jamanetworkopen.2025.0250 (外部サイトにリンクします)
用語解説
注1 転移性尿路上皮がん
膀胱や尿管など尿の通り道にできるがんが、他の臓器に広がった状態。進行すると治りにくくなります。
注2 エンホルツマブ ベドチン
がん細胞の表面にある目印(ネクチン-4)を狙い撃ちする薬。目印に結合した後、がん細胞の中に入って攻撃する仕組みです。
注3 メタ解析
複数の研究結果をまとめて分析する方法。個々の研究より信頼性の高い結論を出すことができます。
注4 ネットワークメタ解析
直接比較されていない治療法同士も間接的に比較できる統計手法です。たとえば、A薬とB薬、B薬とC薬をそれぞれ比較した研究はあるが、A薬とC薬を直接比較した研究がない場合でも、B薬を介してA薬とC薬の効果を科学的に比較できます。これにより、様々な治療法の効果を総合的に評価できる利点があります。
注5 ペムブロリズマブ
体の免疫力を高めてがんを攻撃する薬(免疫チェックポイント阻害薬)。体の免疫細胞の働きを強くすることで、がん細胞を攻撃します。
お問い合わせ先
研究に関するお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
泌尿器・後腹膜腫瘍科 増田 均
04-7133-1111(代表)
Eメール:hmasuda●east.ncc.go.jp
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国立研究開発法人国立がん研究センター
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電話番号:04-7133-1111(代表)
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