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類上皮肉腫(るいじょうひにくしゅ)
更新日 : 2023年12月11日
公開日:2023年9月20日
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概念・定義
類上皮肉腫(epithelioid sarcoma)は,まれなタイプの軟部肉腫です。肉腫でありながら、病理組織学的には腫瘍を構成する細胞は、癌と類似した上皮(epithelium)様の特徴を有し、WHO分類では分化の方向性が不明な”tumor of uncertain differentiation”に分類されています。臨床的には、後述のように通常型(classic type)および近位型(proximal type)に分類され、その臨床像には差がみられます。
疫学
日本整形外科学会・国立がん研究センターによる全国軟部腫瘍登録の統計では、日本全国で新規に登録された類上皮肉腫の患者は22名(2020年)、25名(2021年)であり、非常にまれであることがわかります。通常型、近位型ともに男性に好発することが知られています(1.5~2:1)。
診断
他の軟部肉腫と同様、生検を行い、病理組織学的に診断します。免疫染色において、上皮マーカーであるケラチンやEMAが陽性で、また、50%を超える症例でCA125が陽性となります。腫瘍から分泌された血中CA125は腫瘍マーカーとしても有用なことが報告されています。また、分子病理学的にはSMARCB1(INII)タンパク質の核内染色性が消失することが特徴的で、類上皮肉腫の病理診断において重要な所見です。
病因
類上皮肉腫においては、INII遺伝子の変異、欠失などにより、90%以上の症例で免疫染色にてINIIの核内発現が消失することが明らかになっており、腫瘍発生との関連が指摘されています。EZH2などのポリコーム抑制複合体2(PRC2)とINIIなどのSWI/SNF複合体は協調しながら細胞の機能を調節していますが、INIIが欠損することでPRC2機能が優位になることが、細胞のがん化、類上皮肉腫の発生に関与していると考えられています。
症状
通常型
典型的には比較的若年者の四肢末梢に生じる無痛性の小結節として発症します。増大は比較的緩徐であり、しばしば皮膚に浸潤して潰瘍を形成します。また、腫瘍が筋膜や腱に沿って浸潤して多数の硬い結節を形成することもあり、はっきりとした腫瘤の境界が分からないこともあります。このような臨床像から難治性の皮膚潰瘍や感染性肉芽腫と誤られることがしばしばあります(図)。また、軟部肉腫の中では例外的に、所属リンパ節に転移を生じる頻度が高いことも特徴の一つです。
図:手背原発の通常型類上皮肉腫の肉眼写真 (患者様からの許可済)
手背から近位に向けて潰瘍様の病変が多発している。
近位型
通常型と比較すると、若干高い年齢層に好発します。また、好発部位は殿部、鼠径部、陰部、骨盤、腋窩などです。深部発生で局所浸潤性が強い、早期にリンパ節・遠隔転移を来すなど、通常型よりも予後不良であることが知られています。
治療
類上皮肉腫に対する治療法は、手術による病変の完全切除(広範切除)が基本です。リンパ節転移を来す症例が20~40%あることから、リンパ節生検を行って転移の有無を確認したり、術前の画像検査でリンパ節転移が疑われる場合には、原発巣の切除とともに所属リンパ節の郭清を行うことが考慮されます。
完全切除不能例においては、症状緩和や延命を目的として抗がん剤治療が行われます。軟部肉腫に対して使用されるドキソルビシン、パソパニブ、エリブリン、トラべクテジンなどが使用されますが、抗がん剤治療の効果は限定的です。
前述のように、類上皮肉腫においてはINI1が欠損しているためにEZH2を含むPRC2機能が優位になり、細胞のがん化が促進されていると考えられるため、EZH2阻害剤が類上皮肉腫に効果を示すことが期待されます。近年、進行期類上皮肉腫を対象としたEZH2阻害剤(タゼメトスタット)の国際共同第II相試験が行われ、有望な結果が得られました。本邦でも、2023年より、国立がん研究センター中央病院など全国4施設において類上皮肉腫患者を対象としたタゼメトスタットの第2相医師主導治験(TAZETTA試験)が開始されています。
予後
日本整形外科学会・国立がん研究センターによる全国軟部腫瘍登録の統計では、2006~2019年に本邦で治療を受けた類上皮肉腫患者234例の5年生存率は67%と報告されています。
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執筆協力者
- 小倉 浩一(おぐら こういち)
- 国立がん研究センター中央病院
- 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科