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悪性心膜中皮腫(あくせいしんまくちゅうひしゅ)
更新日 : 2024年5月1日
公開日:2020年10月13日
中皮腫について
肺や心臓などの胸部臓器や胃腸、肝臓などの腹部臓器はそれぞれ胸膜、腹膜という膜で包まれております。これらの膜の一番外側の表面を覆っているのを【中皮】と呼び、この中皮から発生した悪性腫瘍は、その発生部位によってそれぞれ悪性胸膜中皮腫・悪性腹膜中皮腫と呼ばれます。この病気の発生頻度は臓器ごとにそれぞれ異なり、中皮腫のなかでも悪性胸膜中皮腫が90%弱、悪性腹膜中皮腫が10%程度みられます。しかし、それ以外にも心臓表面を覆う心膜から発生する悪性心膜中皮腫(以下、心膜中皮腫という)、さらにごくまれに精巣の表面から発生する悪性精巣鞘膜中皮腫(以下、精巣鞘膜中皮腫という)があり、これらがあわせて中皮腫全体の1%程度にみられます。
2019年に厚生労働省から報告された、中皮腫による死亡数の年次推移は、1995年には500人であったのが、2018年には1512人と、基本的には年々増加傾向を示しています。発症原因はいずれの部位発症の中皮腫であっても、アスベスト(石綿)が関与していることが知られており、アスベスト暴露から中皮腫発生までの期間は30-40年と長く、経済発展期に大量のアスベストを使用していた本邦では今後も本疾患発症者が増加していくと予想されています。
悪性心膜中皮腫の症状について
胸膜・腹膜中皮腫については希少がんセンターの他ページ(悪性胸膜中皮腫・悪性腹膜中皮腫)に記載していますので、ここでは心膜に発生する中皮腫の症状について説明します。
進行した心膜中皮腫の主な症状は、階段昇降などの軽い運動ですぐに息切れをおこしたり、動悸を強く自覚することです。初期は特に症状を認めませんが、進行して心臓の周囲の袋(心嚢)に、がん細胞が産生を助長した体液が溜まった(心タンポナーデ)状態となると、この体液の影響で心臓の動きが抑制されてしまい上記のような症状を引き起こしてしまっています。
検査・診断について
中皮腫は、血液検査や画像検査では確定診断することができません。確定診断には、実際に病変部位を生検し、組織を採取することが必要となります。
心臓の周囲の袋(心嚢)に、中皮腫のがん細胞が体液産生を増加させ、心タンポナーデの状態で診断される場合があります。
治療法について
中皮腫はどの臓器にできても非常に治りにくい難しい病気の一つです。治療法としては、外科療法(手術)、放射線療法、化学療法および対症療法があります。これら治療の選択は病変が原発の部分に限局しているのか、全身のどこまで広がっているかなどを総合的に判断して決定しています。
中皮腫の治療の基本は、完全切除が可能であれば手術を検討します。
ただし心膜中皮腫では、病変部位が心膜に限局していた場合でも手術は非常に困難であり、手術で完全切除できた報告は多くありません。特に心タンポナーデに至っている状況では、まず心臓の負担を軽減するために管(ドレーン)を挿入して心囊液を体外へ排出したり、心膜胸腔開窓術、心膜癒着術などが行われたりすることがあります。そして症状を緩和することができたら、体調を見て化学療法を検討します。
病変が全身に広がってしまっていた場合、治療の中心は緩和ケア(症状緩和)と化学療法となります。心膜中皮腫は患者数が少ないため、これらの疾患に限った治療の研究はほとんどなく、比較的患者数の多い悪性胸膜中皮腫の治療を参考に薬剤の選択を行うことが多いです。
具体的な第一推奨の化学療法としては、シスプラチンおよびペメトレキセド併用療法が使用されることが多いです。一方で、シスプラチンおよびペメトレキセド併用療法の効果が乏しい胸膜中皮腫に対しては、免疫チェックポイント阻害剤の有効性が判明し、ニボルマブ(オプジーボ)が保険適用されています。そのため、今後心膜中皮腫についても、ニボルマブの有効性の検討が期待されています。
希少がんリーフレット
啓発ポスター
患者会支援団体の皆さんとの連携・協働を通して作成した
「7月は中皮腫啓発月間」ポスター
執筆協力者
- 小島 勇貴(こじま ゆうき)
- 国立がん研究センター中央病院
- 腫瘍内科
- 下井 辰徳(しもい たつのり)
- 希少がんセンター
- 国立がん研究センター中央病院
- 腫瘍内科
- 須藤 一起(すどう かずき)
- 希少がんセンター
- 国立がん研究センター中央病院
- 腫瘍内科 先端医療科
- 米盛 勧(よねもり かん)
- 国立がん研究センター中央病院
- 腫瘍内科 先端医療科