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臨床医インタビュー 栗川美智子

栗川美智子

丹羽真琳子写真

出身 東京大学医学部医学科
現職 東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻分子生物学分野大学院生
がん研究センター研究所の所属 がんRNA研究ユニット外来研究員
NCC在籍期間 2020年8月~現在 (2021年12月時点)
研究指導者 吉見昭秀(がんRNA研究ユニット 独立ユニット長)


研究所で実験するようになったきっかけ

大学卒業後は臨床医としての勤務を開始し、2016年より虎の門病院にて乳がんを中心にがん診療に従事してきました。この期間に従来のホルモン療法や殺細胞薬のみならず、CDK4/6阻害薬、抗体薬物複合体、PARP阻害薬、抗PD-L1抗体といった様々な機序の薬剤が保険適応になり、さらに2019年頃よりがんゲノム医療体制が立ち上がり、乳がん診療は大きな変化を遂げました。しかし、実際に治療まで辿り着けた症例は2割程度しかいないという現実を経験し、現代の医療の未熟さを目の当たりにしました。この状況を打開するためには、癌治療の選択肢の幅を広げるべく、未知の発癌メカニズムを解明する基礎研究が重要であるということを痛感しました。この経験から、私が初期研修をしていた頃からご指導いただいていた吉見昭秀先生にご相談したところ、快く研究室に受け入れてくださり、2020年8月から外来研究員として研究に参加させていただくこととなりました。

研究所での生活

外来研究員になって間もなく、ベルギーGhent大学のSavvas Savvides先生のラボとの共同研究に参加させていただきました。基礎研究を始めたばかりではありましたが、仮説を検証すべくあれやこれやと試行錯誤しながら実験を進めていく過程は非常にエキサイティングであり、貴重な経験となりました。幸い、共同研究の成果はNatureに発表され、共著者として貢献することができました。このような経験から、自らがんの病態を解明して治療法を開発したいという思いがさらに強くなり、2021年4月から東京大学大学院に進学して、引き続き大学院生として同研究室にて研究を続けています。なお、東京大学大学院の連携大学院制度には定員があり、私が希望した際にはすでに定員となっていたため、現在は分子細胞生物学専攻に籍を置かせていただきつつ、国立がん研究センター研究所で毎日研究を行っています。

私がお世話になっているがんRNA研究ユニットは2020年7月にできたばかりのラボでしたが、あっという間に意欲的なメンバーが集まり、日々切磋琢磨しています。週に1回、吉見先生とのミーティングがあり、新たな目標設定を行ったり、細かなトラブルシューティングのご相談をしたりと丁寧なご指導をいただいています。その他に、研究所内の他研究室と合同のミーティングが毎週行われ、情報共有をする時間が設けられています。

また、有難いことに2022年度から日本学術振興会の特別研究員(DC1)として採用内定をいただきました。申請書作成は、自分の研究の方針を整理し、また自分自身の性格や特性について見つめ直す良い機会となりました。吉見先生からの添削を通じて、いかにして自分の研究の面白さを伝えるかという点についても学びが多く、今後の研究のアピールに活かすことができるようになったかと思います。業績が少なく申請書作成などとは全く縁がなかった自分が採用内定をいただいたときにはとても驚きました。

研究所での実験に取り組んで良かったこと

ビッグラボではないからこその最大の利点として、ラボメンバーとの垣根が低くすぐにディスカッションできる環境であるということがあげられるかと思います。週1回の個人ミーティングはありますが、研究のことから雑談まで、ほぼ毎日吉見先生を含めラボメンバーとコミュニケーションをとることができ、密な関係性を築かせていただいています。私自身が基礎研究に関して初心者であったため、一から丁寧にご指導いただけたのは非常に有難いことでした。

また、がんRNA研究ユニットには様々なバックグラウンドのメンバーが集まっており、常に新しい刺激を受け、視野が広まる気がしています。

さらに、国立がん研究センター研究所には様々な研究室が集まっており、研究室、研究分野を超えた交流があるのも魅力の一つです。前述した他研究室との合同ミーティングでは、他領域の研究者とディスカッションを行うことで、他領域ではどのような研究が行われているのかを知り、幅広い知識を身につけることができます。他領域の研究内容について理解するのは、基礎研究初心者の私にとってはハードルが高い一面もありますが、そのミーティングでは何を質問しても良いという前提があるので参加しやすく刺激的です。また自身の研究が他分野の研究者にどのように見られるのか、客観的な視点を取り入れるのにも非常に有効で貴重な機会を得られていると思います。

後輩へのアドバイス

大きな施設なので、大学の中とは異なった緊張感があるように思われますが、一度飛び込んでみると、私のような未熟者に対しても温かなサポートをいただける環境です。

研究は臨床とは質が異なり、何が正解かわからない中を進んでいくので、自分の努力ではどうにも結果が得られず苦しい思いをすることもあります。実際私もそんな日がたまにあります。しかし、国立がん研究センター研究所には、そんな苦しい思いも含めて温かく見守ってくださるメンター、そして一緒に励ましあいながら刺激を与えてくれる仲間が研究室内外にたくさんいます。がん研究をしたいと思うなら、ぜひがんセンターへ!

主要な論文

  1. De Munck S, Provost M, Kurikawa M, Omori I, Mukohyama J, Felix J, Bloch Y, Abdel-Wahab O, Bazen F, Yoshimi A, Savvides SN. Structural basis of cytokine-mediated activation of ALK family receptors. Nature 2021 Dec;600(7887):143-147. doi.org/10.1038/s41586-021-03959-5. PMID: 34646012.